こんなオシャレやかんから、素朴なやかんまで、やかんが集合。
このたび「やかん」のコレクションを開くという人形作家の粟辻早重さんに、やかんの何がいいのかを聞いてみた。

――さっそくですが、やかんのどこがいいのでしょうか?
「やかんは、機能がたったひとつだけというのが一番好きなところです。40年前からやかんが好きで集めるつもりもなく、いつのまにか自然に40年間のあいだに溜まっていました。その間に、やかんのブログを書いて、やかんの形とか背景とか、やかんの映画とか、やかんを見つめていたらますます面白くなってきました」

――やかんの映画ですか?
「小津安二郎の映画では『彼岸花』や『お早よう』といった作品にやかんが出てきます。私が思うに小津監督は非常にやかん好き。特に『おはよう』では、やかんが最後に主役になって出てくるんです。小津監督に心酔していたアキ・カウリスマキの作品でも、『街のあかり』や『浮雲』に、やかんが非常に重要な役割で出てきます。他にも溝口健二監督の『祇園の姉妹』にも出てきます。私自身は、やかんがでてくると嬉しいですし、監督の細かい心遣いが汲み取れて感動します」

――やかんには他にどんな魅力があるのでしょうか?
「長年使われてきた家庭の歴史とか、人間とやかんとのつながりがたまらなく好きです。ニュースもやかんを通してものを見てしまう。311の大地震の後も、やかんでお湯をわかして誰かがやかんを持ってお湯を振舞ってくれないかと思っていた。テレビのニュースで被災して毛布にくるまったおばあさんが、湯のみに注がれたお湯を飲みながら安堵していた。やかんはお湯をただ沸かすだけではないんです」

やかん愛にあふれすぎてるのが電話越しでも伝わりました。いままで、いろんな人を取材しましたが、こんなに嬉しそうに話す方ははじめてです。
「一番好きなのは、やかんの形をした昔のやかん」だという粟辻さんのやかんコレクション展は、西麻布のギャラリー「le bain(ル・ベイン)」で2月6日まで開催中です。
(カシハラ@姐御)