「デブカワイイ!」こんなのも、「けなし愛」?

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「ジュリ〜!(卒倒)」とか、「秀樹〜♪」なんて時代にさかのぼるまでもなく、かつてはアイドルや好きな俳優などに対するファン心理って、ひたすら盲目的に愛情を注ぐというものが主流だったように思う。

だが、最近、若い女性などが好きなタレントについて「イケメンだけど、おバカなところが愛しい」とか「どんくさくて愛しい」「短足で愛しい」「陰キャラなところが好き」「うざ可愛い」などとつぶやくコメントを、ネット上でよく見かける。
これは「けなし愛」と言われているらしい。

もちろんこうした「けなし愛」なるものに対して不快な思いを抱くファンもいるものの、好きな対象に「○○なところが残念」などと冷静に見ているファン心理って、ちょっと興味深い。
たとえば、身近な異性に対して「お前、モテないだろ」「デブ」などと見下す発言をし、優位に立とうとすることによって、振り向かせよう・口説こうとするような男性は昔からいたが、それと「けなし愛」とはおそらく全く別のアプローチだろう。

本来憧れの対象である存在に対しての「けなし愛」って、いったいどういう心理なのだろうか。
自分のペットなどを「デブ猫だけど可愛い」とか言うのに近い感覚だったりする?
心理コーディネーターの織田隼人さんに聞いた。

「不況が続き、好景気を知らない若者が増えてきました。こういった状態では若者が将来に対して不安を抱くようになり、またそのことから楽天的な要素が減り、結果として『自己評価』が低下してしまいます」

自分が上手く生きていけるかわからない状態で、自己評価が低くなることにより、相手の 異性に対しても「自分に釣り合った低さ」を望むことになる。そして、それが「けなし愛」の根幹になると考えられるのだと言う。
「好きな人だからこそ、完璧だと自分に釣り合わない。だから、不完全を求める。相手の悪い部分を見ることで、相手を身近に感じる。特に自分自身を不完全と認識している人たちの方がこの『けなし愛』に早く目覚めている 傾向があります」

さらに、こうした「不完全」を求める傾向は、あるアニメキャラの人気にあらわれていると織田さんは指摘する。
「これは、エヴァンゲリオンで人気のキャラ『綾波レイ』を見るとわかりやすいです。感情が見えない、欠落しているという不完全さが自身の不完全さを見つけている人たちに人気を博しました。人間は誰もが不完全ですが、その不完全さを目の前に突きつけられる環境になったため『けなし愛』が増えてきたのだと考えられます」

そういえば、近年は人気タレント・アイドルなども、身近な存在に思える人が主流で、手の届きそうにない遠い存在は減っているように思う。
もともと親近感があるタレントを好むのか、それとも完璧に見えるタイプの「欠点」を見つけて愛おしむのか……。両者は大きく異なるように見えて、根底には共通した心理がある、ひとつの愛のかたちなのかも。
(田幸和歌子)