写真家の浅田政志さん撮影の表紙は毎回、話題に。
3号では、秋田のゆるキャラと子どもたちが大集合!
きりたんぽ鍋、新米でつくったおむすび、がっこ(漬け物)など秋田のおいしいものをパクつく様子に思わず生唾が……。

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東京を中心とした雑誌カルチャーに、昔のような時代を牽引するパワーがなくなっているといわれる昨今。そんな中、地方発信のフリーマガジンが続々と発刊されている。北九州の「雲のうえ」や大分の「旅手帖 beppu」、愛媛県の「暖暖松山」などなど。有料誌に負けずとも劣らないクオリティを誇るものも多く、地元のあれこれを愛を込めて魅力的に紹介している。眺めているだけでも楽しく、いつか行ってみたいな……と旅情を誘われる誌面なのだ。

中でも、昨年夏に発刊されて話題になったのが秋田の「のんびり」。創刊号では秋田のソウルフード!?「寒天」にスポットを当てるなど(デザート系はいうに及ばず、「サラダ寒天」や「そうめん寒天」なんてものまで食卓に登場するらしい)、秋田の知られざる一面を発信。地元編集スタッフの矢吹史子さんに反響など伺ってみたところ、ネット上での反響のみならず、ハガキや封書でわざわざ熱い感想を編集部に送ってくれる人も少なくないそう。そもそも、どういった視点で編集されているのだろう?

「秋田の“ふつう”なものを改めて見直すような取材をしています。出会う人々も“ふつうの人”が多く、『まさか、自分たちのふだんの暮らしが取り上げられるなんて』と、びっくりされることも多いのですが、その“ふつうの人”こそ実直に、豊かに生きていることを毎回実感させられます」

最新号となる3号目ではまさにその秋田人にとっての“ふつう”であった大正生まれの画家・池田修三を特集。知る人ぞ知る物故作家だが、本誌によると、秋田では昭和の頃から結婚や出産、新築といったお祝いにこの画家の版画作品を贈りあうことが多く、目にする機会が非常に多いため、たとえばいわさきちひろさん的な超メジャー作家だと思っている秋田県民も多いという。80年代には秋田相互銀行(現・北都銀行)のカレンダーや通帳、マッチなどにも彼の絵が使われ、秋田県民にとってはいちばん身近なアート、だったのだとか。今の女子が見てもかわいい! と気に入りそうな愛らしい作風で、いや、こんなキュートな絵が家にふつうにあるなんて秋田県民がうらやましい限り。

「3号目の反響は地元でも大きく、特に修三さんの地元・象潟の方々が触発され、しまいこんでいた池田作品を引っ張り出して、改めて飾るなどしはじめているようです。実は2013年4月に、修三さんの出身地・にかほ市象潟で展覧会を開催予定です。作品のすばらしさだけでなく、修三さんの人柄や、作品を所有している人たちがその絵を手にした際の家族の思い出も一緒に紹介することにより、秋田で生きる人々の暮らしも見えてくる……そんな展覧会にしたいと考えています」

とのことで、秋田へ旅するきっかけとなる素敵な展覧会になりそう。そんなわけで、都市の均質化がすすみ、地方色みたいなものが薄れているといわれるけれど、まだまだ日本にはその地方にしか知られていない「いいもの」がたくさんあるんだなぁ……と再認識した次第。改めて、雑誌カルチャーも地方の時代、なのかもしれませんね!?
(野崎泉)