勇ましくポーズをとっているが、アーティスト名がアレだ。

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最近のヒットチャートを見ていると、ある傾向に気付いてくる。まず、春になると異様に「桜」をテーマにした曲が多くなる。あと、もう一つ。「恋する人に会えない」切なさを歌い上げる曲を、あまりにもよく見かけてしまう。
別にアンチを唱えるわけではなくて、その手の曲も愛聴しているのだが、たまには違った趣の曲も聴いてみたい。恋を歌うでも、既存のものとは違った見方があると思うのだ。

……あった。こんな曲があった。こんなミュージシャンがいた! 北陸在住の自称カリスマシンガーソングライター「鼻毛の森」は、カップル撲滅をスローガンに掲げ、本人曰く“リアルラヴソング”と呼ぶべき楽曲群を2004年より発表し続けているらしいのだ。

いきなりで、わからない部分が多々あると思います。まず“リアルラヴソング”とは、何ぞや。
これは、例を挙げて説明した方がわかりやすいかもしれない。ラヴソングによくある「いつまでもそばにいるよ」、「君だから良かった」という歌詞を彼がアレンジすると、スイートな要素が皆無となる。「誰でも良かった、だから君でも良かった♪」と、あまりにもオリジナルなベクトルに変換されてしまうのです。

なるほど、方向性はわかった。でも、どうしてこんな活動をしているのだろう? そんな、アツアツのカップルに冷水をぶっかけるような歌を……。
「そんな曲があればなあと常々思っていたんですけど、意外にありそうでなかったんです」(鼻毛の森)
そりゃ、ないでしょう! 賛否が分かれ過ぎることは目に見え過ぎているもの。

しかし、確実に「賛」を表明するファンも現れているらしい。
「主なファン層は、恋愛に対してドライな20代後半女性から熟年夫婦まで。……実は、ライブ会場には第一線のアーティストなど業界関係者の隠れファンが結構いるんです。本人の名誉のためなのか、あまり公言してくれませんが(笑)」(鼻毛の森)

では、どんな楽曲が発信されているのか、一つ一つ検証していきたいと思います。
まず『それまではそばにいるよ』という曲について。こちらは、ピアノを用いた静かなイントロから始まり、そこからグアッ! とバンドサウンドで爆発するという流れになっている。メロディはすごく綺麗。特に、女性がすごく好きになる曲調だと思う。
しかし、そんな調べに乗るのは「綺麗な人を見かけました 君の姿が霞むぐらいの 綺麗な人でした」、「微妙な人を見かけました 君の姿を重ねるほどの 微妙な人でした」、「君よりも綺麗な人が目の前に現れたなら 僕は迷わず飛んでいくよ 後ろなんて振り返らないさ」という、過激な歌詞であった。何というか、紛れもなくメッセージソングである。

『もう一度選び直せるのなら』は、曲調がこれまた美しい。これはバラードだな? しかして、そこに乗るのは「君に巡り会えてよかった そう胸に言い聞かせてきた」、「すべてを投げ出してしまえるほどの夢見た出会いは 夢のままで」、「もう一度時を戻せるなら 僕は君を選ぶのかな? 選び直してみたい」という歌詞であった。今生きる自分の選択を完全否定する、残念な内容じゃないですか。
『だから言ったのに』は、爽やかなギターサウンドが耳に残る曲です。だけれども、歌詞は「いつも君は見えずにいた やがてそんな目に遭うこと」、「たまに僕は伝えていた いずれそんな目に遭うはずと」、「ほら見たことか 当たり前だよ もう知らないよ だから言ったのに」と、相手の心の傷に塩をまぶすような内容に終始する。何なんだ、これは……。

っていうか、ファンの方々はこのような曲達にどのような反響を寄せているのだろう? だって、キツい曲ばかりなんだもの。
「『反論できないのでもどかしい』、『共感する自分が嫌だ』、『曲は結構いいので勿体無い』と、よく言われますね。まさに狙い通りです」(鼻毛の森)
狙い通りかよ! ちなみにこの曲を聴くシチュエーションとして最適なのは、失恋直後や恋に疲れた時だそう。逆に開き直ることができるらしいですよ。ショック療法なのか?
「軽い嫌がらせとしてCDを友人にプレゼントする方も多いです」(鼻毛の森)

ところで、さっきから私は気になっていた。「鼻毛の森」って、一体なんなの? そのネーミングセンスは、どうしちゃったのか。
「『あからさまに見えても指摘できない』、そんなデリケートな立ち位置を抽象表現しました」(鼻毛の森)
なるほど、よくわかります。腑に落ちた自分が悔しい。

そんな彼の草の根運動は間違いなく芽を結んでおり、嘉門達夫氏司会のテレビ番組企画において「着うたダウンロード全国1位」の座を獲得したこともあるとのこと。少なからず、実績もあるのだ。

ご本人曰く「残念すぎる失恋の反動でミュージシャン活動を始めました(笑)」そうなので、「私の気も知らないで!」という憤りはお門違いということになる。
“リアルラヴソング”とは、すなわち「理想論をやわらかく排除した“リアルメッセージ”」の意のようだ。
(寺西ジャジューカ)