小泉純一郎元総理大臣首席秘書官 
飯島 勲氏

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小泉純一郎元総理大臣首席秘書官 飯島 勲(いいじま・いさお)
1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理大臣首席秘書官。現在、松本歯科大学特命教授、ウガンダ共和国政府顧問、シエラレオネ共和国日本総領事。最新刊『プーチン絶賛の仕事術 リーダーの掟』。

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■仏の有名ブランド「○ル○ス」とは?

あらかじめ言っておかねばならないが、地位が高い人間は、総じてつまらないものだ。本当に面白い人は、偉くなどなれないと認識すべし。もし読者のなかに、面白くて偉い人になろうなどという、二兎を追うことを考えている人がいるのなら、そんな考えは今すぐ捨て去ったほうがいい。面白い人間は他人から付け入れられやすい。絶対に出世コースから外される。

さて、当たり障りのない会話をして、好印象を残したいとは、誰もが考えることだ。そこで大切なのは物怖じをしないということ。目上の人を相手にすると、どうしても緊張して、話を切り出せない人が多いのではないか。

引っ込み思案の人なら、コミュニケーション不足から、一方的な思い違いを上司にされ、卑屈になった経験を味わっていることだろう。苦しいけれど自分から話しかけるという訓練は、日常から心がけたほうがいい。私も大学の授業で質問の時間を設け、生徒に訓練させたことがある。自分のことを知ってもらい、上司の考えを聞いていれば、よっぽどのことがない限り、悪くは扱わないはずだ。皆の尊敬を集める人であろうと、内心小バカにするぐらいの心構えでいったほうがうまくいく。

平社員が、突然社長と2人きりになってしまい、沈黙が続いてしまいそうになったら、どうすべきだろうか。

社長とて、役職のない社員に経営の話をしてもしょうがないと考えるだろうし、無難に天気や家族の話題などでお茶を濁してもいいだろう。私なら開口一番、社長に、

「そのスーツ、アルマーニですね」

と、言ってみる。内ポケットの下あたりにあるブランドのロゴを見せてくれるなら話は別だが、アルマーニのスーツがどういうものか、見た目でわかる人などいない。

それを受けて社長は言うだろう。

「え、違う。そんないいスーツじゃないよ」

アルマーニのスーツを1万円のAOKIのスーツと間違えられたら怒るだろうが、その逆で怒ることはない。むしろ「そうか、そうか。オレが着ると安物のスーツもそう見えてしまうものか」と考える可能性すらある。ひどい勘違いだが、偉い人というのはこれぐらいの勘違いがないとなれない。

「アルマーニだ」と言って間違いないのは紳士服の世界でも互いに影響され、どうせ似たようなデザインになっていることが多いからだ。当てずっぽうでも「アルマーニに似ている」ことなどいくらでもあるだろう。特に日本の紳士服など外国ブランドのほぼパクリに決まっている。

社長は、これをどこで買ったとか、ファッションの話をいろいろとし始めるだろう。毎日服を着ていて、それなりの地位にいる人間なら、服装についてなんらかの考えを持っているはずだ。ないというのであれば、なぜないのか。

「服なんて男の考えることじゃない」

であれば、「男論」を拝聴すればいいし、「無関心で、嫁に任せっきりだ」と言うのであれば、社長の奥さんのセンスを褒めちぎればいい。どうせ家庭では夫婦の会話はネタ切れだろうから、とても喜ぶはず。はじめに「アルマーニですか」とヨイショしているので、どう転んでも楽しく話が展開していく。天気の話をするよりは、熱のこもった会話になるだろうし、上司との距離感を考えても適切な話題だ。

あともう一押し、社長への印象を強くしたいのであれば、こう切り出してはどうだろう。

「社長、僕のしているネクタイは、どこのブランドかわかりますか。フランスの超有名ブランドで、スカーフが人気で、カタカナ4文字、最後の文字は、ス。2番目の文字は、ル……」

フランスのブランド、○ル○ス。

「エルメスか」

「違います、アルニスです」

アルニスとは、実際にフランスにある超有名ブランドだ。柄もよく似ている。ここで重要なのは、アルニスをエルメスっぽく発音することだ。あらかじめ練習をしておいたほうがいいだろう。面白い話をしようと、暴露話をしたり大げさなことを言う人もいるだろうが、そんな人は信用されない。「口にチャックにガムテープ」が出世のための鉄則だ。

(小泉純一郎元総理大臣首席秘書官 飯島 勲 撮影=浜村多恵)