フランス代表の監督としてW杯とユーロの本大会3連続出場という快挙を成し遂げた唯一の人物といえば、ローラン・ブラン現監督の前任者、レイモン・ドメネク氏。しかし代表監督としての最多出場記録保持者であるにもかかわらず、国民からの人気は歴代ワーストといっても過言ではなく、多くの人にとって忘れたい過去となっているほどだ。

 実際にその退任はあまりにひっそりと行なわれ、その後はメディアにもいっさい登場していない。9月末に雇用センター(職業斡旋と失業保険を管轄)での目撃情報が伝えられたほかは、ほぼ忘れられた状態といってもいい。しかしここへ来て、またドメネク氏の名前が人々の口にのぼることになった。フランスサッカー連盟(FFF)が“重大な過失”を理由に退職金なしの解雇を行なったことがやはり係争に発展しそうな雲行きなのだ。

 本来ドメネク氏は、監督の契約満了後、籍を置くFFFの技術強化本部(DTN)に戻り、監督などの指導を行なう職務に就くことになっていた。しかし在任中にさまざまな問題を引き起こした同氏がFFFに留まることに反発が強く、W杯の南アフリカ戦終了後に相手監督との握手を拒否した“事件”を最大の理由に、解雇が言い渡された。労働法上、被用者に“重大な過失”があれば、雇用者には退職金を支払う義務が発生しない。

 ところが26日付のル・フィガロ紙は、ドメネク氏がこれを不当解雇として労働裁判所に訴える構えを見せていると報じた。これまでもドメネク氏がタダで“厄介払い”を受け入れるはずがない、との見方が強かったために驚きは少ない。むしろ“円満解決”を強調してきたデュショソワFFF会長の発言を疑う声のほうが多かった。その会長すら今回、同紙に「彼が労働裁判所に提訴する可能性はまだある。たぶん実行するだろう」と語っており、係争が“想定内”だったことをうかがわせる。

 賠償を求めれば、国民のさらなるブーイングを招くのはたしか。ただし、ドメネク氏のコンサルタントであるフランク・オックミリエ氏の「ドメネクはカネにまつわる世界にもっとも無頓着な人物」という発言を信じるなら、法廷闘争は「自分に“過失”はなかった」とする、名誉をかけたアピールともいえる。本人からすれば、FFFがドメネク氏(とエスカレット会長)のクビを切って事態を収拾しようとしたことへの憤懣もあろう。“討ち死に”覚悟で裁判に臨んでも不思議はない。