田中康夫に聞く官製談合の構図
でも、みんなが怒り出すようなことじゃなければ改革じゃないよね。ボクとか橋本大二郎とかは、議会にとって不愉快極まりない存在。本当に変えようとすれば役人の大半は反発するし、議会も共産党も含めて守旧派ばかりだし。
── 談合をなくすためにどのような改革をしたのですか。
長野県では制度を抜本的に変えて、公正取引委員会出身の人や倒産を経験した経営者など外部の人たちで委員を組織した。地域にしがらみのある地元の弁護士や首長などを委員にしたら、日が暮れても改革なんてできない。
でも、実際の工事は地元の孫請け、ひ孫請けがやっていたから、彼らの技術でも機械と従業員を抱えていればできることだった。そこで、県内の小さな業者も直接入札に参加できるよう、年間500カ所の維持・補修工事を、800万円規模で分割発注できる参加希望型入札制度を作った。
── 競争原理を取り入れすぎると落札率が下がって、手抜き工事も出てくるのでは。
最初は落札率が6割にまで下がったが、結果的に8割程度に戻ってきた。
「安かろう悪かろう」の超低落札ではなく、かといって昔のような99.5%といった高落札でもなく、適正価格に落ち着いてきたのは、あえて品質検査チームを会計局の出納部門に作ったから。土木部や林業部、農政部にいる検査官をそこに移動させ、粗雑工事にはやり直しや入札参加制限などのペナルティを課すことにした。
これまでのように、土木部で検査すると、天下ったOBの会社の仕事が「安かろう、悪かろう」だったとしても文句が言えないわけ。
落札率の高止まりではなく、適正な基準の下でいい仕事をしてもらうということ。良い意味でのチェック機能や競争原理を入れるような改革をしていかねばだめだ。
── 長野方式にすれば談合は根絶できる?
長野県でやることに、北海道や九州、極論ではアメリカから入札してくるわけではないから、構成しているのは顔見知り同士なんだよね。だから常に制度は改革し続けなければならない。
保守ってのは「民主主義を守る」ために常に絶え間ない変革をしなければならないのに、単に精神論、「修身」を語っているだけなんだよね。革新も2割しかいない組合員しか見ていない。
── 知事に就任すると「誘惑」はあるものなんですか。
最初はあるでしょう。ボクも知事に当選したときにたくさんの胡蝶蘭が届いたけど全部送り返した。「ウチは銀座のクラブじゃねえぞ」って感じで(笑)。お歳暮も。すると、次は来なくなった。俺に出すとばらされることを学習して贈るのをやめ、追い出しに掛かったわけ。
── では、得したことは。
ねえよ。
でもまあ、神戸であれだけの人が空港建設反対に署名したって、市議会が住民投票条例案を否決したから通りもしなかった。櫻井よしこや大前研一、保守と呼ばれている奴らと一緒に運動していたって、止まらないわけでしょ。知事になればそういうことを止めることはできた。
── 知事の権限は首相よりも強いって表現されることも多いですよね。
権限があっても、人々のために行使しようとすると膨大な足の引っ張り合いが始まる。
政官業学報のために利権を分配している分には気持ちがいいんじゃないかな。多くの知事は権限を人のために使わずに、自分の権威や利権のために使うから失敗しちゃうわけでしょ。
── 統一地方選が間もなくありますが。
とにかく投票に行こう。「入れたい人がいない」って言っていたら、みんなが入れたくない人ばかりが通っちゃうんですよ。