再審開始決定を受け、弁護団と記者会見に臨む前川彰司さん(右)(23日午前、金沢市で)=桐山弘太撮影

写真拡大

 福井市で1986年に起きた女子中学生殺害事件を巡り、殺人罪で懲役7年が確定し、服役した前川彰司さん(59)の第2次再審請求審で、名古屋高裁金沢支部(山田耕司裁判長)は23日、再審開始を認める決定を出した。

 有罪の根拠となった目撃証言について「警察が不当な働きかけを行い、うその証言が形成された疑いが払拭(ふっしょく)できない」と判断した。

 2審・高裁金沢支部の確定判決では、前川さんは86年3月、福井市の市営住宅で、留守番中だった中学3年の女子生徒の顔や首を包丁で刺すなどして殺害したとされた。

 前川さんは87年3月の逮捕後、一貫して否認。前川さんが殺害したことを示す直接的な証拠はなく、「事件後に着衣に血の付いた前川さんを見た」などとする知人6人の証言が有罪の根拠となった。第2次再審請求審では、6人のうち1人が「本当は前川さんを見ていない」と説明を覆し、弁護団は「無罪を言い渡すべき新証拠」と主張した。

 この日の決定は、今回の再審請求審で検察から開示された証拠287点のうち、テレビ番組に関する捜査報告書に着目した。

 この知人が確定審で「事件の日に見ていた」と述べた番組について、実際はその日に放送されていなかったことを踏まえ、「警察の誘導により、ありもしない体験を述べた供述が作り出された」と指摘。説明を覆した今回の再審請求審の証言と、捜査報告書を新証拠に位置付け、目撃証言の信用性を否定した。

 さらに、別の知人についても、自身の覚醒剤事件の刑を軽くしてもらうためにうその供述を行い、他の知人も迎合した可能性があると言及。「新旧の証拠を総合すると、間違いなく信用できるとは判断できない」と結論付けた。

 決定は、検察が確定審段階から捜査報告書の存在を把握していたのに明らかにしなかったとし、「罪深い不正行為だ」と非難。確定判決についても「虚偽供述の危険性をいいかげんに扱ったと批判されてもやむを得ない」と述べた。

 前川さんは確定審の福井地裁で無罪とされたが、高裁金沢支部で逆転有罪となった。心神耗弱状態で懲役7年とされ、97年に最高裁で確定した。服役後の第1次再審請求で、2011年に再審開始決定が出たが、その後、取り消され、22年、有罪とした同支部に第2次再審請求を申し立てていた。

 再審開始決定に対し、検察は28日を期限に、異議を申し立てることができる。名古屋高検の畑中良彦次席検事は「決定文を子細に検討し、適切に対応したい」とコメントした。