生姜に漬け込むのではなく、生姜をのせるという新しい生姜焼きを紹介します(以下、写真はすべて筆者撮影)

料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作れる方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。今回はこれまでとは見た目も違う豚の生姜焼きです。

生姜焼きに「しょうが」を入れる根本理由

毎日の献立を考えるのが大変という声をよく聞きます。そんなとき、頼りになるのが定番料理です。定番料理は多くの人に愛され、残ったレシピ。みんなが安心できるおいしさが詰まっています。

とはいえ、定番といっても人によって「強火で煮ろ」「弱火で煮ろ」という具合に作り方はさまざま。時代によって調理器具であったり、食材自体が変わっているからです。

今回のテーマである「生姜焼き」もいろいろな作り方があります。まず注目したいのは調味料につけるタイミング。生姜焼きは生姜風味のタレで豚肉を絡める料理ですが、肉を焼く前に調味料につけるレシピと焼いてからタレをからめる方法があります。

そもそも生姜焼きにしょうがを使う理由は

1. 「酵素を使って肉をやわらかくする」

2.「しょうがの香りで肉の臭みを抑える」

の2つ。手元にある調理学の教科書『NEW 調理と理論 第二版』にも硬い肉の前処理として、しょうがに含まれるタンパク質分解酵素を使って肉をやわらかくする方法が説明されています。

しかし、現在流通している豚肉で硬かったり、臭みがあったりする肉はそもそも少ないでしょう。そこで今回は新定番として「タレを後から絡める」生姜焼きをご紹介します。

旧 タレを肉に漬け込む

新 焼いてからタレを絡める

シン生姜焼き
材料 2人分
豚ロース(ソテー用) 2枚
小麦粉    適量
牛乳   適量
サラダ油  大さじ3
Aしょう油 大さじ2
Aはちみつ 大さじ2
Aみりん  大さじ1
Aしょうが(すりおろし) 小さじ1
キャベツの千切り 適量
しょうが(すりおろし) 適量


はちみつを使うことで肉にタレが絡みます

もう1つの新定番ポイントは「薄切り肉ではなく厚切り肉を使う」という点。薄い肉は食べやすくご飯が進む味に仕上がるのですが、タレが絡むと肉の味が負けてしまうという問題もあったので、今回はソテー用という厚めの肉を使っています。肉が厚いので、加熱し過ぎによってぱさつくリスクも減らせます。

また、しょうがはタレに入れ、さらに焼いた肉の上にすりおろしを添えます。タレに加えるしょうがは香ばしさ、後から添えるしょうがはおろしたてのすがすがしい香りを生かす手法です。


はちみつが溶けにくい場合はレンジにかけると楽に溶けます

まずタレをつくっていきましょう。Aをボウルや小鉢などに入れ、混ぜ合わます。はちみつが溶けにくいので、しっかり混ぜてください。


切り込みは肉1枚につき5〜6カ所入れておけば十分です

豚のロース肉の脂肪と赤身のあいだに切り込みを入れておきます。包丁の刃先をさし込むようにする「筋切り」という作業です。加熱によって肉が反り返るのを防ぐことができます。


小麦粉は薄力粉を使っています

バットや皿などに小麦粉と牛乳を用意します。まず、豚肉に小麦粉をまぶします。


牛乳は焼色をつける効果もあります

次に牛乳にくぐらせます。


小麦粉ははたきながらまんべんなくつけましょう

最後にもう一度、小麦粉をまぶします。小麦粉→牛乳→小麦粉と粉をまぶすことで表面にカリッとした食感を出すとともに、衣が肉から出る水分の一部を吸うので、ジューシーさが残ります。


26cmのフライパンを使用しています

冷たい状態のフライパンにサラダ油大さじ3をひき、粉をまぶした豚肉を並べ中火にかけます。はじめに1分焼きます。


イメージとしては揚げ焼きです

30秒経ったら裏返し、もう30秒経ったら裏返すことを繰り返します。鍋から煙が上がってきたら火加減を弱火に落としてください。トータルで3分焼きます。


最初は焼色が薄い気がするかもしれませんが、裏返しているうちに濃くなります

頻繁に肉を裏返すことで両面から加熱されることになり、結果として早く、均一に火を通すことができます。


火は止めた状態で大丈夫です

最後に脂の面を焼きます。この作業はトングがあればかんたんですが、家にフライ返しや菜箸しかない場合は難しいかもしれません。その場合はこの作業を省略してもいいでしょう。焼いた肉を皿などに移し、フライパンの油を一度捨てます。


ボウルの底にはちみつが沈んでいないかチェックしましょう

フライパンにタレを注ぎ、中火にかけます。


ここでは煮詰めすぎないように注意してください

タレに軽いとろみがついたら焼き上がった肉を戻し、表面に絡めます。


味付けしていないキャベツの千切りがあることで好みの塩加減に調整できます

器に盛り付け、キャベツの千切りを添えました。しょうがのすりおろしをたっぷりとのせたら出来上がりです。カリッと焼き上がった豚のロース肉に濃厚なタレが絡みますが、しょうがのさわやかさと辛味がさっぱりとした印象に変えてくれます。新定番を目指した生姜焼き。炊きたてご飯と味噌汁。漬物などを添えてどうぞ。


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(樋口 直哉 : 作家・料理家)