【佐藤 大輝】「ウーバー届くの遅すぎ!」待たされてキレる客も…33歳ベテラン配達員が危惧する「負のスパイラル」

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四角いバッグを背負って街中を走る、Uber配達員の姿をあまり見なくなった。飲食店の前でたむろする「地蔵」と呼ばれる配達員の姿も同様に見なくなった。仕事が暇になったのか、それとも忙しく走り回っているのか……。ネットには「ウーバー来るの遅すぎ」「予定していた配達時間が過ぎても商品が届かない」といった声も散見される。

勤続年数4年6ヶ月・配達回数6000回以上・現役配達員として頑張っている佐藤大輝氏(33歳)が、「いま現場で何が起きているのか」を明かす。

フードデリバリーで起きている「負のスパイラル」

生活を回すため、ママチャリのペダルを汗だくで回していたのは4年ほど前……。新型コロナウイルスの影響で外出自粛が推奨されていた頃、僕はUber Eats配達員として働き始めた。今振り返ると、当時はUber Eatsの全盛期だった。

6時間稼働の週休2日で、月20万円を稼ぐのは難しくなかった。報酬を時給換算した場合、1600円前後で平均的に推移した。最高月収で30万円ほど稼いだこともある。バイク配達員の人たちはもっと稼いでいた。ネットには「Uber Eatsで月収100万円稼いだ」なんて話も転がっていたが、たぶんあれは嘘じゃない。割のいい仕事だと当時は思っていた。

ところがどっこい。ここ最近は働く季節や時間帯によって「時給換算0円」も珍しくなくなった。僕たちの報酬は固定給ではない。成果報酬型の歩合制だ。注文が来なければ収入にならない。1軒あたりの報酬金額は(距離等によって金額が変動する上で)300円〜500円前後。僕は2024年9月、月間で40時間ほど稼働して約3万2000円の報酬を得た。時給換算すると800円。猛暑日の続いた9月の繁忙期でこれだ。

顔見知りの配達員は、みんないつの間にか居なくなってしまった。割のいい仕事から、割のよくない仕事へ……、この悪い流れは、おそらくサービスを利用する側へも波及する。

注文数が減る → 稼げなくなる → 配達員の数が減る → 雨の日など注文が集中した際、さばき切れなくなる(後述する「配送先のたらい回し」が発生する) → サービスの使い勝手が悪くなり、より注文数が減る……、負のスパイラルが起きているように感じる。

なぜ「配送先のたらい回し」が発生するのか

ここだけの話だ。現場では今、配達員同士で注文のあった配送先を押し付け合う「たらい回し」が発生しやすい環境にある。僕自身の経験談を紹介したい。

2024年の夏。その日は雨だった。少し前の自分であれば「よっしゃ雨だ。今日は稼ぐぞ〜」と無理矢理にテンションを上げて頑張っていた。しかし僕はライターの仕事を始めてから「雨の日は原稿を執筆しよう」と考えるようになった。けれどその日は、なんだか身体を動かしたい気分だった。Uber Eatsアプリを起動させると、さっそく注文を知らせるアラーム音が鳴った。

配送の仕事はランダムに配達員へ振り分けられる。いつ注文があるのか配達員には分からない。注文があった際はアプリ画面上に「配送距離・地図・報酬金額」などの情報が表示される。仕事の依頼を受けるか否か、配達員には10秒間ほど選択する時間が与えられる。配送依頼を拒否した場合、その仕事は他の配達員に振られる。

ベテラン配達員には土地勘があった。注文のあった配送先は、かなり坂がキツイ場所にある。報酬は350円。ぶっちゃけ自転車じゃ労力に見合わない。この注文はバイクの人たちに頑張ってもらおう……、僕は配送依頼をキャンセルした。次にあった配送依頼も同じような理由でキャンセル。その次は……、お、配送距離が2キロで報酬は420円。これだ!

この日は全盛期を思い出すくらい、配送依頼を知らせるアラーム音が鳴り続けた。時給換算で1500円を超えたのは久しぶりだ。気分よく自宅に帰ろうと思ったその時、再びスマホが鳴った。あまり条件のいい仕事ではなかった。けれど帰り道の途中にある配送先だった。空気を運ぶくらいなら、帰るついでに配達してくか……。

お弁当屋さんでハンバーグ弁当をPICKして、配送先に向かおうと思ったその時、お客様からメッセージが届いた。

「もう来なくていい! こっちは1時間以上も待ってんだぞ! 帰れ!!」

何が起きているのか分からなかった僕は、お客様に電話をかけた。男性の方だった。開口一番でブチ切れていた。ラチが明かなかったので、Uber Eatsのサポートセンターに対応してもらった。

結局、報酬はそのまま頂戴した上で、お弁当は僕が持ち帰っていいことになった。僕個人としては得をした。けれど後味は悪かった。ただしハンバーグ弁当は美味しかった。

配達員が街中に溢れていた頃、飲食店の前でたむろする「地蔵」と呼ばれる配達員が多くいたことを覚えているだろうか。あの光景は、とどのつまり配達員同士で仕事の奪い合いが発生していたことを意味する(注文のあった飲食店の近くにいる配達員に仕事が振られやすい……、といった経験則が、僕たち配達員の中で一般常識として定着している)。しかしこれは裏を返せば、配送遅延の問題が起きにくかったことを意味する。

けれど配達員の数が減った今、例えば雨の日のように注文が殺到してしまうと、配達側がさばき切れない状況が生まれる。配達員にも都合があるため、配送先を選り好む。またご覧の通り、配達員には「今どれくらい注文が遅れているか」を把握する術がない。

このような背景があるため、Uber Eatsを利用する側からすると「なんで配達にこんなに時間がかかっているんだ」とストレスを感じる機会が増えているのだと推測する。需要と供給のミスマッチに伴うトラブルは、今後も増えていきそうだ。

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本稿で指摘した「負のスパイラル」以外にも、「サービスの質が低下した大きな原因」あると佐藤氏は考えているようだ。後編記事〈いま「ウーバーイーツ配達員の質」が落ちている…?「満足度100%」評価の33歳配達員が目にした「異様な光景」〉では、Uber Eatsの現場でいま何が起きているのか、引き続き佐藤氏に話を聞く。

いま「ウーバーイーツ配達員の質」が落ちている…?「満足度100%」評価の33歳配達員が目にした「異様な光景」