「南海トラフ地震臨時情報」は解除されたが…じつは過去にも例の多い「誘発地震」のおそろしさ

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大地震発生後に警戒すべき「誘発地震」

今年8月8日16時43分頃、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生した。この地震は南海トラフ地震の想定震源域で発生した一定規模以上の地震であったことから、大規模地震の可能性が平常時に比べて相対的に高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことは記憶に新しい。このときは幸いにも南海トラフ地震は発生しなかったが、解除後に地震のリスクはなくなったわけではなく、依然として高い状態にある。

南海トラフ巨大地震等の大地震が発生した際の懸念は、「半割れ」地震のような後発地震や、近辺を震源とする余震だけではない。震源の近く、または少し離れた地域で、巨大地震に『誘発』されて発生したとみられる「誘発地震」が起こることがある。しかも、年単位で続くような可能性もあるのだ。

南海トラフ地震を例にとると「半割れ」地震でも、マグニチュード8クラスの地震が想定される。震源域が陸から離れていても非常に大きな規模であり、津波や地震による揺れ、液状化、土砂災害、また火災など様々な被害が発生していることが想定される。まして、マグニチュード9クラスの南海トラフ巨大地震であれば、最大のケースとして想定される被害が最大となるケースでの死者・行方不明者が、 30都府県で約323,000人、全壊は約2,386,000棟という途方もない数字に達する。

海溝型の地震は、南海トラフ地震だけでなく、三陸沖から房総沖、千島海溝沿い、日本海東縁部の地震などの地震がある。今回説明する、「巨大地震に誘発された地震」は、これら巨大な海溝型の地震が単発で発生するだけでなく、近隣ややや遠い距離で、異なる海溝型の地震や、活断層の活動による内陸直下の地震などが起こってしまうというケースがあるものだ。

誘発地震で注意したいのは、既に巨大地震で都市が、町がダメージを受けているときに、近い場所で重ねて地震があることで、既に耐震性が失われて中破、大破している住宅が倒壊に至るなど、より大きな被害に発展する可能性だ。次に、離れた場所で地震が起こってしまうと、救助や支援が後手に回ってしまう可能性なども想定される。

このような誘発地震は、決して絵空事ではなく過去の巨大地震で発生している地震だ。近年で巨大な地震といえば、マグニチュード9.0という歴史的に大きな地震となった2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)がある。非常に巨大な地震であり、東北地方から関東地方ではしばらくの間は「数分おき」ともいえるほど激しい余震に見舞われた。このような震源域近傍における余震活動とは別に、東北地方太平洋沖地震に「誘発」された可能性がある地震が発生している。

過去に起きた「誘発地震」

東北地方太平洋沖地震から13時間ほどが経った、翌3月12日3時59分ごろに長野県北部・新潟県との県境近くを震源とするマグニチュード6.7、最大震度6強の長野県北部地震が発生した。震源近くの長野県栄村ではこの地震を栄村地震(震災名;栄村大震災)と呼ぶこともある。栄村では死者3名(震災関連死)、負傷者10名、全壊33棟、半壊169棟の被害が出ている。長野県北部ではその後も同日中に震度5弱〜6弱の地震が3回発生している。

さらに東北地方太平洋沖地震から4日後の3月15日22時31分には静岡県東部でマグニチュード6.4、最大震度6強という地震が発生した。この地震のほかにも、しばらくの間は日本国内の広い範囲で多くの地震が発生していた。

震源の近傍の活断層の地震にも影響を及ぼしている。茨城県北部では活断層の活動により2011年3月19日にマグニチュード6.1の地震があったのち、2016年12月28日に同じ活断層がマグニチュード6.3の地震を引き起こしたという事例がある。活断層は、通常は1000年〜10000年単位という非常にが長い間隔で活動しているが、わずか5年9か月後に同じ活断層が活動したことになる。

この原因を、東北大の研究チームは、「東北地方太平洋沖地震によってひずみが急速に蓄積し、活動間隔が縮まった」としている。巨大地震は、このような近傍の活断層の活動間隔にも影響を及ぼす可能性があることも懸念される。

過去の南海トラフ地震の後にも、誘発された可能性があるとされる地震が発生した事例がある。しかも、直近の南海トラフ地震のひとつである、1944年12月7日1時36分に発生した、マグニチュード7.9の昭和東南海地震の際に発生している。

まず、昭和東南海地震はどんな地震だったのであろうか。和歌山県〜静岡県浜名湖沖を震源とした南海トラフ地震における、東側の「半割れ地震」で、強い地震動による家屋倒壊や、三重県尾鷲市で最大9mに及んだ津波により、推定1,223名の死者・行方不明者が出たとされる。被害が大きかったのは愛知県438名、三重県406名、静岡県295名とされる。家屋の全壊18,000戸、半壊36,000戸余りの被害とされる。

非常に大きな被害を受けた地震であるが、報道などではほとんど知らされず、救援の手も非常に乏しかったと言われる。この原因としては、戦時下にあり終戦の7〜8か月前の時期にあたり、既に激しい本土空襲も始まっており、日本が劣勢の時期であった。このことから、敵陣営に戦力低下を推測されるような情報について悟られないよう、情報統制が行われていたことによるとされる。そのため、大規模な行政や隣接地域からの救援も行われた記録もないようだ。

他にもある、南海トラフ地震の誘発地震の例

この昭和東南海地震から37日後、1945年1月13日午前3時38分、愛知県東部の三河湾を震源として、マグニチュード6.8の三河地震が発生した。三河地震は、深溝断層と横須賀断層と呼ばれる活断層の活動による地震であり、昭和東南海地震の震源域東方に近い位置にあることから、誘発されて発生した可能性が高いことが指摘されている。

三河地震の被害は、死者2,306人、行方不明者1,126人、家屋の全壊7,221戸、半壊1万6,555戸という記録がある。昭和東南海地震よりも多くの死者が出ており、日本の1885年以降に発生した地震被害の中でも10指に入る大きな人的被害となった。しかし、昭和東南海地震と同様に戦時下の地震であることから、大規模な行政や隣接地域からの救援も行われた記録もない。

三河地震では現在の愛知県西尾市、安城市、蒲郡市などで大きな人的被害が生じた。この原因としては、37日前に起きた昭和東南海地震で既に大きな被害を受けて建物が損傷していたところに、重ねて三河地震という内陸直下で起きた地震が発生したことも想定される。

南海トラフ地震の誘発地震の例はほかにもある。1854年12月23日に発生した巨大な南海トラフ地震であるマグニチュード8.4の安政東海地震の後には、11ヶ月後の1855年11月11日にマグニチュード7.0〜7.1で南関東直下地震の1つであるとみられる安政江戸地震(安政の大地震)、4年半後の1858年4月9日にマグニチュード7.0〜7.1の飛越地震 (M 7.0 - 7.1)、4月23日にはマグニチュード 5.7の信濃大町地震(信濃北西部)などが発生した事例などがある。1年や数年という単位は、人間からすると長い期間だが、地球の歴史から見れば一瞬のようなものであり、数年後に誘発地震が続く懸念もあるのだ。

以上のように、巨大な海溝型地震の発生後には、近傍から少し離れた地域(東北地方と長野県北部、静岡県東部など)で誘発されたとみられる地震が発生することがある。大きな地震があった後、震源域の近傍における余震活動のみならず、震源域の近くで離れた場所で異なる大きな地震が発生する可能性もある。

家屋の耐震性能が重要

そもそも、地震の中には、本震が一番大きくてその後に余震活動が続く「本震―余震型」の地震だけでなく、本震の前に少し規模が小さい「前震−本震−余震型」の地震が起こることもある。東北地方太平洋沖地震では、3月9日にマグニチュード7.3の比較的大きな地震があった。これが前震と考えられる。どれが本震かは、後になってみないとわからないところもあることから、近年では「余震」という言葉は使わず「同程度の地震」という言い方をしている。

地震は、大きな地震が一度きりとは限らない。特に海溝型の巨大な地震では、誘発地震、余震活動、「半割れ」ケースの様な、後発のより大きな地震の可能性も否定できない。内陸直下の活断層による地震でも、熊本地震のように震度7が2回観測されるようなケースもある。繰り返しの大きな地震も想定外とは言えない時代にある。

まずは命を失わないためには、家屋の耐震性能確保が必須だ。いくら備蓄や備えをしても、家屋が倒壊しては避難もできずに即死も想定される。倒壊することで前面道路を歩いている人を巻き込んだり、避難の妨げとなってしまうことも課題だ。

以上のように、特に南海トラフ地震で大きな連れが想定されている地域だけではなく、それ以外の地域どこでも近所で起こる誘発地震、またその後の地震活動の可能性はある。繰り返しの地震があれば、耐震性が衰えていくことも想定される。南海トラフ地震だけに備えていればよいわけではないのだ。津波の可能性がない地域の方も、揺れへの備えはマストだ。

今後新築を検討している場合であれば耐震等級3として繰り返しの大地震でも住み続けられるようにすることが良いだろう。既存住宅であれば旧耐震基準の住宅は必須、新耐震基準の住宅でもできれば耐震診断・耐震改修を行うことが望ましい。

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