「新都市型ホテル」として国内外に展開するアパホテル株式会社。取締役社長の元谷芙美子さんは47歳で社長に就任し、自ら広告塔になって、赤字すれすれだったアパホテルの知名度を上げました。リーマン・ショックやコロナ禍などの逆境があっても常に元気な笑顔で現場に立ち続け、ピンチをチャンスに変え続けています。ポジティブマインドで強気の拡大をけん引した元谷さんに、現代のビジネスパーソンが前向きになる秘訣を伺いました。

「自分は強運の持ち主」と信じると、自然と前向きになれる

Q.過去のインタビューで「人生に挫折・失敗・苦悩はない。気のせいだと思えばいい」と語ってらっしゃいました。そのポジティブマインドはどう身に付けましたか?

私は栄養失調の体で生まれて、お医者様に「この子は助からない」と言われました。翌年には福井地震があり、家が倒壊して仏壇の下敷きになったものの、観音開きのすき間に守られて助かり、1歳までに2回も生き延びたんです。

親に「いただいた命だし、きっと運がいいから頑張って生きないといけない」と言い聞かされて育ち、「人間として生まれたからには、可能性を全部発揮したい。こんなに幸運な人生はめいっぱい生きなきゃもったいない」と考えるようになりました。

人生って自分の意志で選択できるでしょう。好きに生きたって渋々生きたって、税金は一緒。 「自分は運がいいんだ」って信じれば前向きになれるし、何が起きても「ここで終わるはずない」と踏ん張れて、思った通りの人生を生きられます。

やっぱりね、いいことを信じるのがポジティブになる方法です。「芙美子」という名前は、親が「夫に冠を授けられる力を持って生まれるように」と願って付けたもの。内心「一体、どんなすごい人が結婚してくれるんだろう?」ってすごく楽しみで、それも前向きに生きるモチベーションになっていました。「親の期待に応えられるように頑張ろう」って小さい時から燃えていて、その結果として今があるんだと思います。

自分の弱みより強みを見て、自分に優しく甘くする

Q.47歳で社長に就任、53歳で大学に入学されるなど、常に自分を信じて挑戦を続けられる秘訣はなんでしょうか?

自信が持てない人は、自分を好きになれなくて「こんなんじゃダメだ」って自分に厳しくしちゃうんじゃないかな。自分に優しくして、自分を好きになってください。私は自分にも他人にも甘くて、とっても優しいんですよ。優しいっていうのは、ちゃんと褒めてあげるってこと。できるだけのことをして頑張っていれば、自分を褒めてあげられるし、好きになれるはずです。

人間って、強くないと優しくなれないんですよね。 奮い立って頑張って、自分の強みを持つのが大事です。「自分はあれもできない、これもできない」って弱みを数えるんじゃなくて、強みを数える。私は「営業ができるし、誰よりも高いマインドを持ってる。お客様に何を言われても味方になれるし、会社のいいところを自慢できる」って強みがあるから、優しくなれて自信を持てるんです。自分の強みを十指に余るほど数えられたら、もう天才ですよ。

自分の人生を決めるのは自分でしかないから、ネガティブにならないほうがいいです。 アパホテルの社長になったときはホテル事業が赤字すれすれでしたけど、社長の就任式で「ホテル業界のジャンヌ・ダルクになります」と宣言しました。会場がしらーっとした雰囲気になったものの、逆にやる気が出ましたね。それから心を砕いて営業して、広告塔として一心不乱に働いていたら黒字になりましたし、リーマン・ショックやコロナ禍などの逆境も全部追い風にして、いいことばかり起きています。

無理に挑戦する必要はない。今の環境で全力を尽くすのも一つの幸せ

Q.「このままではダメだ」と思いつつなかなか挑戦できず、リスクを恐れて安定を選ぶビジネスパーソンへアドバイスをいただけますか。

無理してリスクを取らなくていいと思います。 自分のペースで歩んで、安定を求めたっていいじゃないですか。 なかなか挑戦できなかったとしても「挑戦したい」と思っている時点で上昇志向がありますから、背伸びする必要はないでしょう。今の環境だって探せばきっと幸せはあるし、みんながみんな外へ飛び出さなくても大丈夫だと思います。

今の時代のトレンドはどんどん変化することだけど、いつかまた違うトレンドが巡ってきます。変化するためにリスクを取るのも素敵なことだけど、やっぱり大変なこともありますし、いいことばっかりでもないと思うんです。

みんな素敵ないい人ばかりですから、他の環境をうらやむ暇もないくらい、今の環境で一心不乱に頑張ったら今の仕事が大好きになれるかもしれないし、キャリアアップして人生が好転するかもしれません。今の環境で全力を尽くすほうが立派だと思います。

私はね、90歳になってもミニスカートを履いて、このまま大好きな営業の現場に立っていたいんですよ。ごはんをいっぱい食べて健康な体をキープして、毎日お客様や従業員一人ひとりに声をかけ続けるのが幸せであり、これからの目標でもあります。

プロフィール

元谷 芙美子(もとや ふみこ)

福井県出身。県立藤島高校卒業後、地元の信用金庫に就職。元谷外志雄氏と出会い結婚したのち、1971年に外志雄氏と共に信金開発株式会社(現アパ株式会社)を創業。1994年にアパホテル株式会社(1980年設立)社長に就任してからは、「私が社長です。」のキャッチフレーズと共に自らが広告塔となり、全国的なホテルチェーンへと成長させた。現在では国内のみならず、アメリカ・カナダにもホテルを展開する。