それみたことか…「世界的EV不況」が進行中!欧州でもトヨタのハイブリッド車が「爆売れ」な「納得の理由」

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2030年にすべての自動車をEVに――欧州勢が掲げた目標はやはり無謀なものだった。再び脚光を浴びるのが日本のHV技術である。いずれEV化は避けられないにしても、いまはそのときではない。

日本車へのライバル意識

今年の夏も耐え難いほどの猛暑が日本列島を襲った。地球温暖化、いや「地球沸騰」の影響は誰の目にも明らかだ。

もちろん、猛暑はアジアだけの現象ではない。欧州でもここ数年、毎年のように熱波が襲来し、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスは今年の7月22日が観測史上「最も暑かった日」だと発表した。

地球を温める作用のある二酸化炭素の排出を少しでも減らさなければならない。欧州各国や自動車メーカーが旗を振ってきた電気自動車(EV)普及の流れは、この危機意識が背景にある。

「'97年に京都市で行われた地球温暖化防止のための京都会議、いわゆるCOP3で、温室効果ガスの排出削減に数値目標が設けられました。これが出発地点となり、自動車の電動化が加速しました。

さらに欧州は'22年に一歩踏み込んで、'35年に欧州域内で二酸化炭素を排出する乗用車と小型商用車の販売を禁止することで合意(環境に良い合成燃料を使う燃料車は除く)。'35年以降は欧州で原則EVしか売ってはいけなくなりました」(自動車評論家・国沢光宏氏)

欧州が国を挙げて自動車の完全電動化を進めようとする背景には、日本の自動車メーカーへのライバル意識がある。ブルームバーグ・インテリジェンスの自動車業界アナリスト・吉田達生氏が背景を解説する。

「電動化の先陣を切ったのが、(京都議定書が採択された)'97年にエンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車(HV)、プリウスを発売したトヨタ自動車でした。ハイブリッド技術で遅れを取った欧州勢は、クリーンディーゼル車で巻き返しを図ります。しかし、ディーゼル車で排気ガスの排出を抑えるのは、コストの面でハードルが高い。

しかも'15年にフォルクスワーゲンが不正な排ガス規制逃れに手を染めていたことが発覚し、欧州勢は劣勢に立たされました。その後、彼らもHVの開発を検討はしましたが、すでに20年近くの蓄積を持つ日本車に対抗できる性能と価格を持つ車は簡単には作れませんでした」

そこで欧州勢が普及に力を入れたのが、EVだ。ドイツやフランスなどではEV購入に潤沢な補助金を支給。その結果、ドイツのフォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツ グループ、傘下にプジョーやシトロエンを持つオランダのステランティス、フランスのルノーなどがこぞってEVにシフトした。左図のように年々EVの世界販売台数は増えていった。

中国製EVに負けた

ところが、今年に入って欧州のEV市場に変調が起きている。欧州自動車工業会の集計によれば、今年8月のEU域内のEV販売台数は前年同月比44%減の9万2000台だったという。ドイツでは昨年末にEV購入補助金を打ち切っており、前年同月比69%減と大幅に減少した。

「なぜ売れなくなったのか。理由は単純で、EVの高い価格を受け入れる客がそれほど多くなかったということです。ドイツでは補助金を打ち切ったことも大きい。そもそも論として、補助金がないと成り立たない技術はビジネスとして本物ではありません」(吉田氏)

本来であれば、大量生産することで価格を下げて、市場を支配できるはずだった。ところがそうはなっていない。

「メルセデスやワーゲンはEVが大量に売れると思って莫大な開発資金を投入してきたが、売れ行きは芳しくありません。価格を下げられない大きな原因は、バッテリーを自前で生産できていないからです。メルセデスですら、EVに搭載するバッテリーの大半を中国からの供給で賄っている状況です。

一方で、中国は政府の後押しを受けて大量にEVを生産することでどんどん安く作れるようになり、競争力を高めました。これもまた、欧州の自動車メーカーにとって想定外だったはずです。この状態でBYDなどの安い中国製EVが入ってくるのは困る。そこで、中国製EVに高い関税をかけて対抗しようとしています」(前出・国沢氏)

欧州メーカーのEV大失速で窮地に陥ったフォルクスワーゲンはドイツ国内の工場閉鎖を検討していると発表。メルセデス・ベンツも'30年までに新車販売のすべてをEV化する計画をすでに撤回している。一方で、「欧州で日本製のHVが爆売れしている。とくにトヨタは大儲けしている」(国沢氏)という。

中編記事『将来的にEV化は避けられないが、それはいまではない…日本製ハイブリッド車の逆襲が始まった!』へ続く。

「週刊現代」2024年10月5・12日合併号より

将来的にEV化は避けられないが、それはいまではない…日本製ハイブリッド車の逆襲が始まった!