ソニー元CEO・平井一夫「努力は数を打つことじゃない」限られた時間の中でよい結果を出す方法

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「社会人として早く成長するには、数を打つのではなく、『どこにどう打つのか』を考えたほうがいい」……。そう語るのは、著書に『仕事を人生の目的にするな』がある、ソニー元CEOの平井一夫氏だ。そんな平井氏が、「有効な努力」とはどういうものか、最速で成長するには何を心がければよいか、未来を担うビジネスパーソンにアドバイスを贈る。

いきなり千本ノックを始めるな

社会人になったら、ある程度は自分に厳しく努力をする必要があります。こう聞いて千本ノックのような「数を打つ」訓練や修行を思い起こす人は多いかもしれませんが、私は「努力」というものについて、それとはちょっと違う見方をしています。

1つのことを徹底的に反復することで体得する。そういう方法も、もちろん有効でしょう。繰り返し練習することでしか身につけられない技術や、とにかく数多く経験しないと理解できないことが多いのは事実です。

ただ、能力や基礎知識には個人差や限界があります。時間にだって限りがある。一人の人間がすべての事柄を把握して身につけることは不可能と言っていいでしょう。

そう考えると、ひたすら数を打つだけが努力ではない。社会人として早く成長するには、数を打つのではなく、「どこにどう打つのか」を考えたほうがいいのです。

たとえば「数字」が苦手だとしましょう。

仕事に数字は付きものですから、まったく苦手なままでは支障があります。ならば、がんばって数字に強くなろうと決意したとする。しかし、手当たり次第に数字を勉強するのは非効率的すぎます。

ここで勉強を始める前に必要なのは、「努力の的」を定めることです。「どこがどれくらい苦手なのか。そして現実問題として、どこをどれくらい強めなくてはいけないのか」によって努力の方向性は大きく異なるからです。

「努力の的」はこのようにして定める

ひと口に数字といっても様々です。まずどこが弱いのか──データが読めないのか、それとも財務諸表のBS(貸借対照表)が読めないのか、PL(損益計算書)が読めないのか。

さらには、どれくらい苦手なのか──知識ゼロの初心者レベルなのか、多少はかじったことがある入門者レベルなのか、概要は理解しているが実務に役立てられるほどではない中級者レベルなのか。

そして、どこをどれくらい強めなくてはいけないのか──仮に「全部、同程度に苦手」だとしたら、その中でもどれが最も自分の仕事上、「読めないといけない数字」なのか。それをどの程度まで理解したら仕事に役立つか。

このように、「わかっていない部分を、どれくらいわかっていないのか」を自分で客観的に理解してから努力を始めることです。

私も常にこうして「努力の的」を定めてきました。ポジションが移り変わるごとに努力の対象も変化しましたが、「ひたすら数を打つ」のではなく「どこにどう打つのか」という発想はずっと変わっていません。

たとえばソニーの社長時代、会議で技術の詳細についての話になると、私にはちんぷんかんぷんです。

ここで知ったかぶりをして、本当はよくわかっていないのに重要な経営判断を下すのはリスクが高すぎる。場合によっては会社を危機に追い込みかねませんし、そうなったときの全責任は私にあるわけです。

だからこそ苦手なりに勉強するわけですが、ここでも「どこにどう打つのか」を考えました。時間が限られている中、経営判断が下せる程度に物事を理解するには、手当たり次第に勉強している余裕はありません。

自分はどこがどれだけわかっていないか?

この「努力の的を絞る」というプロセスは、実は「他力を上手に頼る」ということにもつながっています。「どこがどれくらい苦手なのか」を把握すれば、自分一人でがんばらなくても、その部分に明るい人に助けを求めて物事を進めることができるからです。

自分自身がすべてを把握していない状態でも、「どこがどれくらいわかっていないのか」が自分でわかっていれば、少なくとも、わかっている人に質問できる。すると、質問と応答のやり取りの中で理解を深めることができます。

わからないまま丸投げせずに、質問し、確認しながら重要な判断を下すこともできます。

逆に「何がわからないのかわからない」状態では、誰かに教わろうにも何から手を付けたらいいのかがわからず、教える側を困らせるだけでしょう。「ここはどういうことでしょうか」という質問すらできないため、一向に理解は深まりません。

このように、「自分はどこがどれだけわかっていないのか」を理解した上で人に頼る。これもまた有効な努力のあり方なのです。

あらゆる仕事は人間同士の協働によって成し遂げられるものです。

人にはそれぞれ得意分野と苦手分野がありますから、「自分はどこがどれだけわかっていないのか」を理解していれば、苦手なことに関しては人に任せる(丸投げではなく、そのつど確認しながら任せる)という道を選ぶこともできるでしょう。

「打つべきところ」は人それぞれにある

思い返せば小学生のころ、母に勉強を教わっていたときに「あなたは、わかっていないところがわかっていない」と言われたことがあります。

ショックを受けつつも納得したことを鮮明に覚えているので、ひょっとしたら、ここで述べている私の「努力観」の根っこには、あのときの母の一言があるのかもしれません。

たとえ全体を見渡さなければならないリーダー的立場にあったとしても、自分が携わる事業や会社の隅々まで把握して、すべてを自ら実行できるほどの理解や経験を会得しきるのは難しいものです。時間だってかかります。

努力は大事ですが、やはり無暗に「数を打つ」だけでは、必ずしもいい結果や成長には結びつきません。

ひたすら数を打てばいいわけではなく、人それぞれに「打つべきところ」がある。

そこを見据えて、その時々の状況にとって有効な努力をすること。いきなり千本ノックを始めてしまうより、「今の自分にとって有効な努力とはどういうものか」を考えた上での努力のほうが、はるかに有効だと言えます。

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