中国で押し進められている、「軍部」と「民間企業」の癒着…習近平の「真の思惑」が見えてきた

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2015年3月、習近平国家主席は軍民融合施策を国家戦略として発表した。軍政改革によって軍部・民間の繋がりを強化するだけでなく、習近平の軍部内掌握のための人事改正が行われたのだ。

2015年に発表された国家戦略である「軍民融合」は、2017年に実施された。軍事的技術向上と軍民双方の経済発展を目的とする政策である。この政策により軍事と民間の相互補強が成された一方、軍制改革として人民解放軍内部の腐敗是正が行われた。

中国研究者でありインドの国立大学研究フェローの中川コージ氏は『日本が勝つための経済安全保障--エコノミック・インテリジェンス』にて中国の「軍民融合」について詳しく解説している。

中国が実施する「軍民融合」

日本が経済安全保障を議論する前から、中国で実施されていたのが「軍民融合」です。

産業、国防、その他あらゆる場面において軍と民の垣根をなくし、平時においては軍事技術の民間転用などを推進、有事においては民間人や民間資源を軍事転用することにより、安全保障の場面だけでなく、経済発展においても軍と民の一体化を図る政策が、中国の「軍民融合」です。

中国の第12次5カ年計画(2011年発表)にある「軍民融合」の説明箇所を見ると、どのようなものを想定しているか、より詳しく分かります。

第60章 軍民融合発展の推進

国家主導、制度革新、市場運営、軍民包括の原則を堅持し、経済建設と国防建設を統一して計画し、社会資源を充分に頼り活用して、国防力と軍事力を高め、軍事資源の開放・共有および軍民両用技術の相互移転の推進に力を入れ、社会主義市場経済の法則に適応し、情報化の条件下で局地戦争に勝利するために必要となる中国の特色ある軍民融合型の発展体制を逐次構築する。

軍民を結合し、軍工企業を民間経済に宿らせる武器装備科学研究生産システム、軍隊人材養成システムおよび軍隊保障システムを構築・整備する。

先進的な国防科学技術工業を建設し、構造を最適化し、情報化を志向し、先進的研究・製造を基礎とした核心能力を強化し、科学生産を妨げる基礎的なボトルネックを早急に解消し、武器装備の自主的な発展を推進する。

武器装備購入制度を整備する。

軍隊人材の募集・選抜を見直し、地方から直接徴兵された各種人材に関する政策制度を整える。

退役軍人への配慮政策を整備し、退役軍人の研修・就業配慮を強化する。

生活保障と汎用物資の備蓄、装備メンテナンスなどを重点とした軍隊保障社会化改革を着実に推進し、国家人事労働と社会保障法規体系に適した軍隊従業員管理制度を構築し、軍民を結合した軍事物流システムと、軍民が一体化した戦略的投射戦力システムを構築する。

経済建設において国防ニーズを貫く方針に徹し、重要なインフラと海洋、航空・宇宙、情報など重要分野における軍民の深層レベルでの融合と共有を強化し、政策メカニズムと基準・規範を整え、経済づくりと国防づくりの調和の取れた発展と相乗効果を促進する。

国防に対する全国民の意識を高め、国防動員体制を健全化し、国民の武装、国民経済の動員、人民の防空、交通軍備建設および国防教育を強化し、国防動員による平時のサービス、非常事態の緊急対応、戦時応戦能力を増強する

習近平はこの軍民融合施策を2015年3月、国家戦略にすると正式に発表し、2017年から実施。2017年1月に党機関として「軍民融合発展委員会」を設置しました。

日本では主に経済分野で「民間で培い、あるいは民間から吸い上げた技術が軍事面での技術開発に使われる」「それによってイノベーションが促進され、より中国の軍事技術の開発速度が上がる」といった部分への警戒が指摘されますが、実際には「退役軍人の再就職支援」が入っていたりもします。

元軍人が創業・経営の民間企業

これは単なる再就職という意味だけでなく、2017年の軍制改革で削減対象となった30万人を中心に、積極的に起業・操業を促したことにつながっています。今般の「軍民融合」とは意義も時代も異なりますが、中国では一見、軍関連企業ではなくとも元軍人が創業・経営する民間企業は多く、その先駆けで最も成功した事例がファーウェイ創業者の任正非です。

背景には中国が驚くべきペースで伸ばしてきた国防費の伸び率が近年、低下し始めたことがあります。もともと軍工企業が持つ技術を民間転用して稼いでいたところに、デュアルユースの裾野を広げ、民間セクターでも利潤を上げることで民間関連企業の体力をつけます。また、民間企業や国有の軍工企業による共同軍事研究を促進、さらに民間のイノベーションを軍事研究に生かそうというわけです。結果として、国防費を抑えながら技術向上を図ります。

軍部内腐敗に大鉈を振るう習近平指導部

また中国が経済合理性のために必要だったという理由以外に、習近平指導部は中国内部の政局的に利用したという側面もありました。習近平指導部が発足した2012年当初から掲げられたいくつかの解決課題の一つが「反腐敗」だったという背景もあります。

習近平指導部は、発足初期の数年間は行政機関や司法機関の腐敗低減を中心とする政策にとりかかりました。そのうえで、さらに巨大な腐敗の温床となっていた人民解放軍にも手をいれる必要がありました。

強権の習近平党指導部といえども、人民解放軍組織の腐敗是正はそう簡単に達成できるものではありません。大鉈を振るった軍制改革を通じて組織体制を変更させることで、人事異動を発生させ徐々に中央軍事委員会主席たる習近平が動かしやすく目が行き届きやすい人民解放軍の人事構成に変化させていきました。

武器調達取引汚職をはじめとした軍内の腐敗を低減させるために、軍の各部門と民間が取引する軍民融合は都合が良い施策だったともいえるでしょう。

中国では「軍事技術を民間転用できそうなもの」と、逆に「民間技術で軍事技術に使えそうなもの」をそれぞれリストアップし、事細かな技術を掲げつつ、研究プロジェクトを募っている実態もあります。たとえば前者であれば新素材、スマート製造、ハイエンド装置、応急救援など。後者では水中無線潜航機、スマート無人装置、ネットワークセキュリティ、画像処理などが掲げられています。

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