動物園や水族館、音楽鑑賞にも「年収による格差」が生じている「厳しい実態」

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習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか?

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

*本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

「楽しい思い出」があることの意味

「文化的体験」の中で、旅行やお祭り以外の参加率はどうなっているだろうか。それをまとめたのがグラフ16だ。動物園や水族館、音楽鑑賞、あるいはスポーツ観戦などでも世帯年収による格差が生じている。

こうした「体験」の数々は、そして「体験」の欠落の数々は、一人ひとりの子どもたちが成長する過程の中で徐々に蓄積していく。

その一つひとつは些細なものに見えるかもしれない。美術館に行ったことがあるのかないのか。演劇を鑑賞したことがあるのかないのか。しかし、それはゆっくりと蓄積していくのだ。どこにも行くことのない休日も、遠出や旅行のない夏休みも。

もちろん、学校教育の中でも、色々な「体験」をする機会はある。しかし、それらに加えて、学校の外でもより豊富な「体験」をできる子がいる一方で、そうした機会がほとんど与えられない子たちもまたいるのだ。

生活困窮家庭や不登校の子ども・若者の支援事業を行うNPO法人TEDICの代表理事を務める鈴木平氏は、活動をする中で、「様々な困難を抱えている子どもにとって、学校の外で行ったキャンプやお出かけの思い出が、生きるうえでの心のよりどころになる」と感じてきたという。

一緒にキャンプに行った男の子は、数年経った今もそのときのことを楽しげに語ってくれる。昔の「楽しい思い出」が、しんどい日常に戻らなくてはいけないときにも、もう少しがんばってみようというエネルギーになると思う。

かつての「楽しい思い出」が、つらいことに直面したときに心の支えとなることがある。子どもだけではない。大人にとってもそうだろう。そんな思い出を「休日」の中で一つずつ、ゆっくりと積み重ねていけるかどうか。残念ながら、この社会の現実の中では、まだまだ「当たり前」から程遠い理想だ。

「息子が突然正座になって泣きながら…」多くの人が知らない「体験格差」の厳しい実態