「理系出身だから営業は無理」…メーカー勤務の優秀な女性が出勤できなくなったワケ

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根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

前の部署に戻れず、出勤できなくなった女性

電機メーカーに勤務する20代の女性社員は、開発部門から営業部門に異動になり、大学時代に理系の学部で学んだ専門知識を生かせなくなったことに不満を募らせた。そのため、異動から1ヵ月後に上司に「私は理系出身なので、営業部門は無理です。前の部署に戻してください」と頼んだ。しかし、「たった1ヵ月では、無理かどうかわからない。もう少し辛抱して頑張ったら、やがて慣れてくるでしょう」と言われた。翌朝、目は覚めたものの、起き上がれず出勤できなかった。その後1週間全身倦怠感や頭痛が続き、内科で検査を受けても異常が見つからなかったため、私の外来を受診した。

この会社でも、幹部候補ほどすべての部署を経験することになっているらしい。だから、上司の助言はもっともで、営業部門の仕事に少しずつ慣れていけばいいだけの話だし、優秀な彼女ならできるだろうと私は思う。

だが、この女性はそれを受け入れられなかったようだ。というのも、名門国立大学の出身で、それが彼女のプライドを支えているようなところがあるからだ。「自分が見下していた大学の出身者に頭を下げながら営業の仕事を教えてもらうのは嫌」と愚痴をこぼしていたので、そのことに耐えられなかったのかもしれない。

その後、この女性は診断書を提出して休職したが、病状はなかなか改善しない。もっとも、自分の好きなことだったらできるのか、休職中に恋人と一緒に旅行に出かけ、旅先でマリンスポーツを楽しんでいる様子を撮影した写真をSNSに掲載した。それを会社の同僚が発見して上司に報告し、大問題になったらしいが、悪びれた様子はまったく見られない。それどころか、診察中も「私の病気がよくならないのは、私を飛ばした会社のせい」と不平・不満を訴え続けている。ときには、「前の部署に戻すことが治療上必要と診断書に書いてほしい」と要求することさえある。

自分の希望通りにならないことを受け入れられない

この女性も、先ほど紹介した新入社員と同様に自分の希望通りにならないことを受け入れられないようだ。

社内でどこに配属されるかは、会社の方針や上層部の意向によって決まることが多く、各人それぞれの希望通りにはいかないことがままある。第一、社員すべての希望を聞いて、それをすべて反映させた人事を実行するのは土台無理な相談だ。

誰か一人の希望を優先させたら、他の大勢から不満が噴出しかねず、「あちらを立てればこちらが立たぬ」事態になるのは目に見えている。そういう事情がわかっていれば、よほど理不尽な異動でない限り一応受け入れて異動先でしばらく勤務し、次の異動を待つことにしようとほとんどの方が考えるのではないか。

ところが、新入社員も、20代の女性社員もそれができない。そのため、作り話をして異動を画策したり、出勤できなくなったりする。しかも、その理由が中卒や高校中退の職人と一緒に働くのは嫌とか、自分が見下していた大学の出身者に教えてもらうのはプライドが許さないとかいうもので、ちょっと首をひねりたくなる。

こうした理由は本人にとっては深刻なものであり、耐え難いのかもしれない。だが、その理由を聞いて、「たしかに大変だね」と共感できる方がどれだけいるだろうか。少なくとも私は、心から共感することはできなかった。むしろ、女性社員の上司の「もう少し辛抱して頑張ったら、やがて慣れてくるでしょう」という助言に共感を覚えた。きついと批判されるかもしれないが、それを覚悟のうえで申し上げると、辛抱が少々足りないのではないかと思ったということだ。

もっとも、現在の日本社会で「辛抱」という言葉は20代の若者にとって死語なのかもしれない。終身雇用も年功序列も崩壊しつつあり、若い頃に辛抱したからといって、その会社に定年までいられるとは限らないし、給料が年齢とともに順調に上がっていくわけでもない。少なくとも、現在20代の若者が今勤務している会社に定年までいる可能性はきわめて低い。とすれば、一昔前の日本企業であれば社員に強いることができた辛抱であっても、それを今の若手社員に望むのは無理だろう。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。

どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体