上海株急騰のウラにある「劇薬」とは…李強首相を押しのけて習近平が打ち出した経済救急策の正体と「副作用」の恐怖

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中国共産党はようやく危機を認めた

9月26日、中国共産党中央政治局は習近平主席の主宰下で会議を開き、現代の経済情勢と今後の経済政策を討議・決定した。翌日の人民日報の公式発表によると、会議は現在の経済情勢について「当面の経済形勢を客観的・冷静に認識し、困難を直視しなければならない」と述べたという。

習近平政権下の十数年以来、共産党指導部は「困難を直視」という表現で、中国経済が困難に直面していることを初めて認めた。

昨年以来、習近平指導部が「中国経済光明論」を打ち出して、それを高らかに唱えることによって中国経済崩壊の実態を国民の目からごまかそうとしていた。だが、ここに来て、政治局会議が公然と「経済が困難に直面」と認めたことは、まさにこの「中国経済光明論」の破綻と放棄を意味している。それはまた、経済の実態はすでに、光明論を唱えたことで覆い隠せないほど悪化していることの証拠でもある。

そして政治局会議は困難克服の救急策として、大幅な利下げ、預金準備率の引き下げ、「有力な」不動産刺激策・株市場刺激策の実施などを打ち出した。どうやらここにきて、習主席と習近平指導部が瀕死の経済状況に深刻な危機感を抱き、まさに「死際の足掻き」として、思い切った救急策を打ち出すこととなった。

株価急騰!劇薬の中身と効果

実はそれに先立って24日、中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁は記者会見を開き、2日後に発表されるこの政治局会議方針に沿っての具体策を前倒しで発表していた。

1)短期金利を0.2%引き下げると同時に、金融機関から預金を強制的に預かる預金準備率を0.5%を引き下げる。潘総裁の説明では、預金準備率の引き下げで市場に1兆元(約20兆円)の資金を放出できるという。つまり、大恐慌の中国経済に資金という名のカンフル剤を注入することで延命を図る。

2)不動産購入の頭金の比率を通常の25%から15%に引き下げること、住宅ローン金利を0.5%を引き下げること。それを持って不動産需要を刺激し瀕死の不動産市場を救う。

3)さらに、3000億元(約61兆円)の資金を捻出して「株回収購入融資枠」を設け、企業がそれを使って自社株を購入することを奨励し、持って瀕死の株市場を刺激する。

以上は、中国の中央銀行が中央指導部の方針に従って発表した一連の大規模金融緩和・経済刺激策であるが、そのうち、1)の株刺激策は直ちに功を奏し、

それが打ち出された翌日の25日から、上海株は連日のように急上昇、2700ポイント台から3300ポイント台に急騰した。

問題は上海株が今後においてどこまで上がっていくかである。ある程度まで株価が上がると、売り出して逃げる人が大量に出てくる可能性はあるから、いずれか勢いを失って元通りになるかもしれない。

その一方、一連の救急策はある程度株価を持ち上げることはできたとしても、実体経済全体と不動産市場の救済になるかどうかは大いなる疑問である。例えば不動産市場の場合、すでに34億人が住む分の住宅が出来上がっていて完全に供給過剰となっている以上、頭金比率の引き下げや住宅ローン金利の多少の引き下げ程度で不動産は再び売れるとは思えない。全体的に見れば、今回の「乾坤一擲」の経済救急策は空振りに終わる可能性がむしろ大である。

ここに李強の影はない

もう一つ注目すべきなのは、今回の経済救急策は、本来、経済行政を所管する国務院の李強総理(首相)によってではなく、習主席の主導下で考案・執行された可能性が大きい、という点である。

実際、全体方針を決めたのは前述の政治局会議であり、一連の具体策を発表したのは前述の中央銀行総裁である。李首相はやっと、政治局会議の方針を受けて追認の国務院会議を開いたのは9月29日になってからのことである。

実は6月25日、李首相は大連で開催の世界経済フォーラムに出席する際、中国経済の振興策について次のように述べたことがある。

「中国経済は大きな病気から回復したばかりの病人の如く、いきなり劇薬を投入してはならない、中国の中医(漢方医)学が推奨する“固本培元”の手法でそれをゆっくりと治していかなければならない」。

「固本培元」とは文字通り、「本」を固めながら元気を培う、という意味合いであって、中国伝統の漢方医がよく使う療法の一つであるが、李首相はここで、この言葉を用いて、中国経済には劇薬としての「刺激策」を講じるのではなく、ゆっくりと経済の体力回復を図っていくべきとの考えを示した。

しかし今月下旬に中国政府が施行し始めた前述の刺激策は、まさに李首相がいうところの「劇薬」であるに他ならない。おそらく、李首相とは政治面ですでに離反しあう関係にある習主席は、李首相の悠長な「固本培元論」に業を煮やして、それを退いて急激な経済救急策を主導したと思われる。経済政策の策定と遂行の背後にもやはり、習主席と李首相との確執がある。

「副作用」の恐怖

習主席の主導下で始まった今回の金融緩和策は「劇薬」であるだけに大きな「副作用」も心配しなければならない。

その一つはすなわち、前述の一連の金融緩和策で市場に資金を大量に流していくと、それが結果的にインフレを招く恐れがあることである。

9月19日公開の「習近平の中国でついに始まった大乱の予兆…大不況・失業・収入減の人民を襲う『食料品価格の暴騰』という『最悪の危機』」で指摘したように、今はただでさえ食料品価格が急騰して民衆の生活を圧迫している中であるが、もし食料品などを中心に本格的なインフレが起きてしまったらそれは逆、中国経済をより一層の危険に晒しだすと同時に政権にとっての危機をもたらしかねない。

習政権はむしろこれから、大変深刻な時を迎えようとしているのである。

習近平の中国でついに始まった大乱の予兆…大不況・失業・収入減の人民を襲う「食料品価格の暴騰」という「最悪の危機」