「やったろか感みたいなものが、出ているように感じますね」飼育員さんも思わず苦笑してしまった…動物園のパンダの「マジな怒り」

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ちょっと短めのおみ足にまるいボディ。唯一無二のフォルムを持つ、神戸市立王子動物園のメスのジャイアントパンダ「タンタン(旦旦)」。そのかわいい姿と優雅な所作から、親しみを込めて、“神戸のお嬢様”とも呼ばれています。

2021年に心臓疾患が見つかり、治療を続けていたタンタンですが、2024年3月31日に虹の橋を渡りました。国内最高齢の28歳でした。いつでも笑顔をくれた神戸のお嬢様・タンタンをしのび、在りし日の日常を振り返りながらお伝えします。

魅惑のおみ足

お嬢様のおみ足について語られたのは、連載63回目(https://gendai.media/articles/-/92026)。みなさま、よそのパンダたちを見ていて、「パンダってこんなに足が長かったっけ……?」と、不思議に思ったことはありませんか?

飼育員の梅元良次さんによると「それは、タンタンの見過ぎだね」とのこと。ちょっと控えめなおみ足は、タンタンならではの特徴のひとつなのです。

しかし、園の公式ツイッターには、意外と足長な画像がツイートされました。

「足を伸ばして、体をかくときなんかは長く見えますね。ただ、パンダは股関節が柔らかいので、どこまで足と言って良いのか……。僕は写真でしか知りませんが、タンタンのきょうだいも、ああいう体形ではなかったですね。タンタンは小柄で足が短く、こどものパンダに近い体形なんですよ」と、梅元さん。

中国でも、タンタンのような体形のパンダは見たことがないそうです。

デーンと足を投げ出し、腰を落として座る“パンダ座り”ができないのも、この足のため。足をそっと前に出し、上品に座ってお食事をする姿は、まさに「神戸のお嬢様」。ずっと眺めていたくなる、魅惑のおみ足なのです。

人によって態度を変えます

ふたりの飼育員さんに、それぞれ態度を変えるというタンタン。「一番わかりやすいのは、トレーニングの時ですかね。僕はすぐにご褒美のリンゴをあげちゃうんですが、吉田さんはそのあたりちょっと厳しめかな。タンタンも人を見て、甘え方やタイミングを決めているというか……」と、話す梅元さん。

お二人とも基本的なやり方は同じなのですが、梅元さんはルールを守りつつ、タンタンの気分を損ねないように、ある程度柔軟にトレーニングを進めるタイプ。もうひとりの飼育員・吉田憲一さんは、ルール厳守。タンタンがイライラしたら、ブラッシングをするなどして、ご機嫌を取りつつ進めていくタイプなのだそう。

「甘やかす所は甘やかしたほうがスムーズというか。さっと安全に終わらせたいんです。僕はタンタンの気分を最優先にしていますので、吉田さんとは、ちょっとやり方が違うかもしれませんね」(梅元さん)。しかし、吉田さんも「いまは、俺も甘々だよ」とおっしゃっているのだとか。

好き嫌いがなく、性格も温和だったという2代目コウコウなら、もっと楽だったろうなと話す梅元さん。「温和すぎて、発情期にはタンタンに『ワンッ!』って追い返されたんですけどね」と、笑います。

タンタンの扱いに関しては「人間の女性と同じで、むずかしいですね」と、嘆いておられました。乙女心は複雑。2人の飼育員さんは、今日もお嬢様に振り回されているようです。

「お前か!」苦手は顔に出ます

公式ツイートでは、まるで「リンゴ美味し〜です!」と言っているようなタンタンの姿が紹介されました。表情が豊かなタンタン。他にも、思っていることが顔に出ることはあるのでしょうか。

「一番わかりやすいのはトレーニングの時、やる気のあるなしですかね。本当に細かい変化なんですけどね。僕と吉田さんには、その違いが分かるんですよ」と、梅元さん。ちょっとイラッとしているときは目つきもキツくなるようで。「やったろか感みたいなものが、出ているように感じますね」(梅元さん)。

さらに、苦手な人が来たときは、バッチリ顔に出ることも。「獣医の中で、苦手な人が健診に来た時は、パッと顔を見て『お前か!』っていう表情をしますね」(梅元さん)。タンタンが苦手とする獣医さんは、採血や検査を担当しているため、「イヤなことをするヤツ」として覚えられてしまっているのだとか。

「検査も、その後の消毒もすごく丁寧にしてくれて。それはいいことなんですが、タンタンにしてみれば『早くして!』というようなものでしょうね」と、梅元さん。いつか、獣医さんの思いやりが、お嬢様に通じるように祈らずにはいられません。

朝のお嬢様

朝は、大体同じ時間に起きてくるというタンタン。「眠っていても、僕らの気配やシャッターを開ける音で、すぐに起きてきますね」(梅元さん)。

朝のお世話にルーティンはあるのか尋ねると、「朝イチは、薬入りのサトウキビジュースからですね。自分から欲しがっておねだりに来ますよ。一緒にニンジンなども用意するのですが、いつもジュースから飲んでいますね」と、話す梅元さん。薬を飲んでもらうために、あんなに苦労したのがウソのようですね。

寝起きも、とても良いのだそうで「パンダはもともと野生の生き物。ボーッとしていたら敵に襲われる危険がありますから、その辺はさっと起きますよ」(梅元さん)。しかしパンダは天敵が少ないため、どちらかと言うと寝起きがゆるい方なのだとか。

そういえば、たまにぼんやりした姿が公式ツイッターに上がっていますね。朝は甘い物をいただきながら、まったり。飼育員さんとの時間をお楽しみなのですね、お嬢様。

かわいい「甘えタン」

圧タンに続くタンタンの新たなる技(?)「甘えタン」が紹介されたのは、連載64回目(https://gendai.media/articles/-/92265)。「じつはこれ、よく見るポーズなんです。今回はわかりやすい写真が撮影できたので、ついにお披露目しました」と、話す梅元さん。

この「甘えタン」によって、ちょっとリンゴを増やしてあげたりしていないか、うかがうと「かわいさにまけてご褒美の量を増やすのは、トレーニング的に良くないので、増量はしていませんよ……多分」と、笑いながら答えてくれました。

それにしてもこのビジュアル。何でもしてあげたくなってしまうかわいさですね、お嬢様。

魅惑のブラッシング

飼育員の吉田憲一さんに、気持ちよさそうにブラッシングされるタンタン。トレーニングでイライラしたときや、やる気がでない場合など、タンタンの気分転換のために行うのだそうです。「ほかにも、トレーニングをよくがんばった時や、ただ単にコミュニケーションを取るためにもブラッシングします」と、吉田さん。

「毛が生え代わる季節に毛を取ってあげようとか、土の上でゴロゴロした時に、汚れている部分をキレイにしてあげようと思ったことがきっかけでした」と、教えてくれました。

ブラッシング中のタンタンの様子をうかがうと「伏せているときはこちらに体を傾けてくるし、座っているときはオリに体をすりつけてくるので、ブラッシングする場所をリクエストされているのだと思います」。ただ、後ろからブラッシングするため「タンタンの表情が見えないので、どう思っているかは正直わからないですね」(吉田さん)。

タンタンはどこをブラッシングされるのが好きなのでしょうか。「たぶん、耳の後ろの辺りから背中を通るルートが、好きなのではないかと思います」と、吉田さん。

実際にブラッシングしているからこそわかるマニアックな情報、ありがとうございます!

春節とお嬢様

中国と中華圏の旧正月である春節。取材をした2022年も中国駐大阪総領事館からタンタンに、春節の飾り物と大好物のリンゴが届きました。「タンタンちゃんは日本にいる特別な華僑として、私たち総領事館にとっても大事な存在です」と語るのは、中国駐大阪総領事館の広報さん。

今回の贈り物に込めた思いをうかがうと、「タンタンちゃんがひとりぼっちでさびしく春節を過ごすことがないよう、私たち中国人と一緒に、この寅年の到来を祝ってもらいたいと思って、春節の飾りを贈りました」と、話してくれました。

パンダ館の入り口には、春節気分を盛り上げる赤いランタンが飾られています。赤は中国で福を招く最高におめでたい色とされ、とても縁起の良い色。さらに中国と中国人を代表する国民色でもあります。

「今年(2022年)は、新型コロナの関係で中国からの観光客もなく、春節の雰囲気も以前と比べて薄く感じます」という総領事館の広報さん。「タンタンちゃんが大好きなりんごを食べて、元気に幸せに神戸で暮らしていって欲しいです」と、今の気持ちを語ってくれました。

さらに、タンタンを「外交官の先輩」と語る、駐大阪中国総領事の薛剣(せつ・けん)氏からも、あたたかいメッセージをいただきました。

「神戸のお嬢様タンタンちゃん、旧暦寅年新年、おめでとう! 長く異郷の地で友好使者として中日間で架け橋の役割を果たしてくれて、総領事館一同から、お疲れ様! 大勢のファンに恵まれ、幸せだね!

今年(2022年)は中日国交正常化50周年、滞在は更に一年伸びるけど、この大事な年に引き続き友好増進の大任を担ってくれて嬉しい!私達もファンの皆さんも『パンダ愛から人間愛へ』と一層頑張るので、引続き宜しくね!」

自らもパンダ好きだという薛剣総領事。『パンダ愛から人間愛へ』には、パンダを愛するように、私たち中国人のことも愛して欲しいという意味が込められています。

神戸のお嬢様として、また敏腕外交官として活躍したタンタン。その存在の大きさを、今さらながら実感していますよ、お嬢様。

NEXT:次回は2024年10月9日(水)に、お届け予定です!

※今回のおまけ写真は、2022年1月に撮影したものです。

<動物園の基本情報>

神戸市立王子動物園

〒657-0838 兵庫県神戸市灘区王子町3-1

TEL : 078-861-5624(代表)

公式ホームページ:https://www.kobe-ojizoo.jp

公式Twitter(@kobeojizoo):https://twitter.com/kobeojizoo

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