ChatGPTに「値上げ観測」!最高技術責任者に加え、副社長までも退社…「人材流出が止まらない」「巨額赤字」OpenAIの正念場

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人材流出が止まらないOpenAI

昨今の世界的AIブームの立役者、OpenAIからの人材流出が続いている。先週もCTO(最高技術責任者)ミラ・ムラティ氏や研究担当副社長、さらに最高研究責任者など3名がほぼ同時に退社を表明した。

それに先立ち今年5月には、2015年の創業以来、同社の技術開発をリードしてきたチーフ・サイエンティストのイリヤ・スツケヴァー氏も辞職して新たに会社を立ち上げる等、今年に入ってOpenAIを離脱した幹部社員や主力研究者らは全部で20名以上に上る。

その一方で、同社には巨額の資金が流れ込んでいる。現在もベンチャーキャピタルや大手IT企業などから総額で約65億〜70億ドル(1兆円以上)に上る資金の調達を進めており、今週中にはその交渉が妥結すると見られている。

これによりOpenAIの評価額(企業価値)は約1500億ドル(21兆円以上)に達する見通しだ。この額は非公開企業として中国のバイトダンスに次いで史上2位であるとともに、イーロン・マスク氏のスペースXを上回ると見られる。また世界的な半導体メーカー、インテルの時価総額(約900億ドル)をも遥かに凌ぐ。

異例の評価はOpenAIの将来に対する投資家の高い期待を反映したものだが、本来そうした期待を担うべき高度人材の流出に歯止めがかからない、という皮肉な事態となっている。

高い代償を伴う「普通の会社」への転換

これらの根底にあるのは、OpenAIが現在進めている組織体制の改革だ。

もともと、2015年に創業した当初のOpenAIは「単なる一企業(の利益)ではなく、人類全体に奉仕する高度で安全なAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)」の実現を目指した非営利の研究団体だった。

しかし、その後は同社の屋台骨となる「大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)」の研究開発に必要とされる数億ドル(数百億円)〜数十億ドル(数千億円)もの巨額資金を調達するため、2019年にはOpenAIという非営利団体の統治下に同名の営利企業を新設する、という不自然な組織体制に移行せざるを得なくなった。

昨年11月に起きたサム・アルトマンCEO(最高経営責任者)の解任騒動(社内クーデター)も、基本的にはそうした奇妙な統治構造の下で生じた社内の軋轢が主な原因と見られている。

ここに来てOpenAIはその体制を改め、通常の営利企業(に極めて近い形)へと転身を図っている(形式的には企業利益と公益の両方を追及する、いわゆる公益企業:Public Benefit Corporationになろうとしている)。これに伴い同社が従来、投資リターンに課していた(投資額の)最大100倍という上限も廃止される見通しだ。

OpenAIが(前述の)約70億ドルという巨額資金の調達に漕ぎ着けたのも、こうした同社の取り組みを米国のベンチャーキャピタルやアラブ首長国連邦の投資会社、さらにはマイクロソフトやエヌヴィデイアなど大口投資家が高く評価しているからだ(当初、アップルも同投資計画に加わると見られていたが、結局それを辞退したとメディアで報じられている)。

アルトマンCEOの指揮下でOpenAIは今後2年以内に営利企業へと転換する計画だが、万一それが達成されなかった場合、同社への(前述の)約65億〜70億ドルの新規投資(株式)は債券、つまり(OpenAIから見て)借金へと転換する取り決めになっている。

もちろん仮にそうなった場合でも、投資家らはOpenAIに「今、すぐお金を返せ」と迫るわけではないが、「いずれは利息をつけて返してくれ」と言うことになる。それほど「営利企業への転換」は、OpenAIが新規投資を募る上で重要な条件となっているのだ。

が、それは一方でスツケヴァー氏やムラティ氏をはじめ、ずっと以前から同社で働いてきた幹部社員らとの間に軋轢を引き起こした。そもそも彼らは「人類全体に奉仕する高度で安全なAGIの実現」という設立理念に賛同したからOpenAIに加わったのであって、それがここに来て利益を追求する「普通の会社」に転換するというのでは、最初の約束が破られたことになってしまう。

これが相次ぐ人材流出を引き起こしている主な要因と見られている。

収益・赤字拡大の背景に浮かぶグーグルの影

そうした高い代償のもとに営利企業へと転換を図るOpenAIだが、当面はどれほど巨額の資金を調達しても十分とは言えない状況だ。

ニューヨークタイムズ(NYT)の報道によれば、同社は最近ChatGPT Plus(有料サービス)の利用者数が約1000万人に達するなど業績は好調で、これによる2024年の売上は約27億ドル(3800億円以上)に達する見通しという。これに企業向けのサービスからの売上(約10億ドル)などを加えると、同社の総売り上げは約37億ドル(5200億円以上)となる。

特に8月のChatGPT Plusの売上は約3億ドルと前年比で約18倍に達した。ちなみに無料サービスも含めたChatGPTの月間利用者数は最近3億人を突破し、従業員も今年だけで約1000名を追加採用して総勢1700人以上となった。

しかし業容の急拡大に伴う人件費やオフィス賃貸料の増加、あるいはChatGPTなど生成AIの機械学習に必要となる莫大なクラウドコンピューティングの利用料金など事業コストも嵩んだことから、差し引きでは2024年に約50億ドル(7000億円以上)の赤字を計上する見通しという。しかも今のままでは、来年以降もChatGPTなどの利用者数が増加すればするほど赤字額も増していく見込みだ。

(NYTによれば)これに対処するため、OpenAIは主力商品の値上げを検討しているという。手始めにChatGPT Plusの月額利用料金を現在の20ドル(2800円以上)から、早ければ年内にも2ドル値上げする可能性がある。さらに今後5年にわたって段階的に値上げし、最終的には月額44ドル(6200円以上)に設定する。これにより2029年には約1000億ドル(14兆円以上)の売上を見込んでいるという。

ここからは筆者の主観だが、この価格設定には若干無理があるように思える。月額44ドルを高いと見るか妥当と見るかは人によって意見が分かれるであろうが、筆者個人の感触では高い。もちろん今から5年後には、そうした高い値段にふさわしい高度な機能・性能を提供するという自信があるからこその計画であろうが、それが消費者から受け入れられる保証はない。

そもそも収益の拡大や赤字解消などを単なる値上げに頼るのは策がなさすぎる。これはかつてのグーグルと比べてみると分かり易い。

インターネットブームの最中、1998年に設立されたグーグルは(当時としては)驚異的な検索エンジンの能力によって、世界にその名を知らしめた。しかし、それからしばらくの間はそうした検索エンジンによって肝心のお金を稼ぐ方法、いわゆるビジネス・モデルをなかなか見出すことができずに赤字が続いた。

もちろん当時のグーグルは現在のOpenAIと同様、ベンチャーキャピタルなどの投資家から調達した潤沢な資金を蓄えていたからこそ、そんな赤字を気にすることもなく事業の拡大に邁進することができた。

そんなグーグルが黒字に転じることができたのは、創業から約2年後となる2000年以降のことである。この年、彼らが導入した「アドワーズ」や「アドセンス」など、いわゆる検索連動広告によってグーグルは巨額の利益を生み出すことに成功した。

つまり検索エンジンという技術そのものよりも、そこから巨額の収益を生み出すビジネス・モデルの開発こそがグーグルを世界的な巨大IT企業の座へと押し上げたのである。

新たなビジネス・モデルの発明が求められる

恐らく現在のOpenAIも、1998〜2000年頃のグーグルと同様の状況に置かれている。確かにChatGPTはときに「誤った情報を提供する」「ありもしない事柄を捏造する」「様々な偏見を帯びている」などと批判されるが、これを実際に使ってみたユーザーの大半が心の底では「凄い技術が出て来たものだ!」と感心しているはずだ。

しかし、この並外れた技術から収益を上げるための画期的な方法、つまりグーグルの検索連動広告に匹敵するようなビジネス・モデルが未だ確立されていない。もちろんChatGPT Plusのようなサービス有料化は収益手段の一つではあるが、それだけに頼っていては自ずと成長の限界があるだろう。かつてのグーグルが経験したような事業規模の急拡大、IT業界関係者の間でいわゆる「スケール」と呼ばれる飛躍的な成長は難しいのではなかろうか。

では、逆に広告はどうであろうか?(前述の)グーグルにせよ、あるいはフェイスブック(現メタ)にせよ、創業からしばらくの間は新規技術の開発だけに専念して収益手段について何も考えていなかったが、結局は独自の創意工夫を凝らした広告を主な収益源とすることによって事業のスケールに成功したのである。

しかし一説によれば、アルトマンCEOはChatGPTなど生成AIビジネスに広告を導入することには消極的とされる。その理由は不明だが筆者の単なる推測では、OpenAIが目指すAGIなど「いずれは全人類(の知能)をも凌ぐ」と言われる超俗的AIの端末画面に、いかにも世俗的な広告が掲載されるというのは確かにそぐわない気もする。

ここからはほとんど一利用者としての要望に近いが、OpenAIには難局を打開するために主力商品の値上げなど通常の手段に頼ることなく、むしろ目の覚めるような新規ビジネス・モデルを編み出して欲しいものだ。

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