「小学生の10%に発達障害の可能性」ってホントですか...「子供たちが被害者」となっても学校が「いい加減すぎる運用体制」を取る「衝撃の理由」

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'02年に文部科学省が発達障害の調査結果を発表してから社会全体での認知度が上がっていった。その一方で、過剰ともいえる診察が横行し、中には誤診まで。子供たちがその最大の被害者となっている。

問題児の扱い方が変わった

神奈川県に住む野村恵子さん(40歳・仮名)は小学2年生、8歳の男の子を持つ母親だ。

息子は明るく活発な性格で、成績はクラスで真ん中くらい。これまでに問題を起こしたことはなかった。だが、そんな息子がある日、下校時に同級生とケンカになり、押し倒して泣かせてしまったという。小学生の男の子ならよくある光景にも思えるが、学校側が思わぬ対応をとる。

「『こんな乱暴をするなんて、発達障害の可能性がある。地元のクリニックを受診してください』と担任の先生に言われてしまいました。にわかに信じがたかったのですが、ひとまず地元のクリニックを訪問しました。すると、『重度のADHD』と診断されてしまった。これを受けて学校側が、特別支援学級への転籍を勧めてきたのです」

あまりに急な展開に驚愕した野村さんは、別の発達障害の専門医を受診。「発達障害でもなんでもない」と診断され、その診断書をもって学校側とも和解できたという。

授業を聞かず、友達と大声で話す。同級生とケンカをする-。一昔前であれば、こういった子供は「ひょうきんな子」「ヤンチャな子」と言われ、先生や保護者たちが温かく見守り、成長するにつれ落ち着くようになっていったものだ。しかし、いまの教育現場では、野村さんの例のように「ちょっとした問題」を起こしただけで、「障害のある子供」として扱われてしまうケースが急増している。

小学生の10%は発達障害

実際、文部科学省が発表した最新の調査結果によれば、発達障害によって特別支援教育(通級指導)を受けている子供は、'06年は6894人だったのに対し、'22年は12万2178人。過去16年で約18倍にも増えている。驚くべきことに、同じく文部科学省が発表した別の資料によれば、小学生の実に10・4%は「発達障害の可能性がある」とされているのだ。

発達障害とは、ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、学習障害など多くの疾患の総称。一括りにされてはいるが、別々の特徴がある。発達障害が専門の精神科医、岩波明氏はこう解説する。

「ADHDは、多動で忘れっぽい。ASDはコミュニケーションが苦手でこだわりが強い。学習障害は読み書き計算が苦手、といったように、発達障害にも種類があります。『宿題をやらない』という事象一つとっても、たとえばADHDの子は宿題そのものを忘れてしまった可能性があります。ASDの子は嫌だからやらないと判断したのかもしれない。同じ宿題をやらない子でも、その原因が異なってくるので、対処方法も変わってくるのです」

1944年にオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーが、認知や言語の発達は正常だが、偏りがあって社会参加が難しい人がいることを発表。「アスペルガー症候群」と名付けられたことが発達障害という概念の始まりとされる。それが'00年代に「軽度発達障害」とも呼ばれるようになり徐々に浸透。いまでは誰もが知る言葉となった。

SNSを少し覗けば、クラスに馴染めない子供を持つ親たちが、「うちの子、発達障害かも」と悩みを共有する時代……。認知度が上がったことで、親がすぐに疑うようになったのも、急増の要因の一つとされている。

簡単に診断が下される

また、親の価値観の多様化も発達障害の増加に関係している。児童精神科が専門でパークサイドこころの発達クリニック院長の原田剛志氏はこう指摘する。

「昔は『先生の言うことは正しく、指導には従うべき』という社会文化が一般的でしたが、今は親の価値観の多様化や、教師不足、学校現場の疲弊から、“育てにくい子”“指示が聞けない子”が『発達障害かもしれない』と特別視され、一般教室から排除されがちになっているのです」

発達障害研究の第一人者でお茶の水女子大学名誉教授の榊原洋一氏も、こう問題視する。

「離席が多い、話し続ける、すぐに手が出てしまうといった子供は昔から一定数いました。こうした子供たちは、以前は『ディフィカルティチャイルド(難しい子供)』として扱われるだけでした。しかし、近年はこうした子供たちが発達障害と疑われるようになってきているのです。

実際、障害のある子もいるでしょうが、集団生活ができない子供のすべてが発達障害であるわけがありません。教育現場の人たちが、育てにくい子供をすぐに発達障害とレッテル付けするのは問題があります」

少しでも先生が「扱いにくい」と感じた生徒は安易に発達障害扱いにして、特別支援学級へと移していく。モンスターペアレントの問題などで、親からの指摘が厳しくなっている昨今、教室で問題を起こしたくない学校側に、そうした意識が働いているのだろう。

後編記事『「子供の話を聞かずに発達障害と診断を出してしまう」...一部の医療機関で横行している「ヤバすぎる診断体制」と「避ける唯一の方法」』へ続く。

「週刊現代」2024年9月28日号より

「子供の話を聞かずに発達障害と診断を出してしまう」...一部の医療機関で横行している「ヤバすぎる診断体制」と「避ける唯一の方法」