2021年、ガムとグミの売上は逆転した。コンビニなどでも、ガムのコーナーがグミに入れ替わり、各社新商品を出し続けている。インテージによると、2023年のグミの市場規模は前年比24%増の972億円だった。そんな市場で圧倒的な存在を誇るのが、カバヤ食品の「TOUGH GUMMY(タフグミ)」だ。企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていくDIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「look inside!―マーケターの思考をのぞく―」。競合がひしめく市場において、タフグミが重視するのは一度食べたらさらに食べたくなる「連食性」と、それを実現する商品力。そんな飽きさせないプロダクトへのこだわりを、カバヤ食品のマーケティング本部でマネージャーを務める荒殿郁海氏に聞いた。

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DIGIDAY編集部(以下、DD):「タフグミ」は市場の拡大を上回るペースで成長しているとのことですが、誕生のきっかけを教えてください。荒殿郁海(以下、荒殿):「タフグミ」は2014年に販売を開始しました。グミの市場は当時拡大しており、各社さまざまな食感やフレーバーのグミを販売していましたが、そのほとんどは女性や子ども向けの商品ばかりで、全世代に浸透している途上でした。当社の主力商品のひとつでもあり、2004年から販売している「ピュアラルグミ」は女性向けですし、もともとグミ自体も子ども向けのお菓子からはじまっている商品です。2013年に明治が「コーラアップ」のリニューアルをし、グミにも「大容量」や「食べ応え」「満足感」といった要素が生まれました。その結果、大人の男性が市場に入ってきましたが、「男性向け」と謳っている商品はありませんでした。そこに対し「男性向け」として「噛み応え」をプラスした商品を開発できないかと模索しているなかで「タフグミ」が生まれました。

荒殿 郁海/カバヤ食品株式会社 マーケティング本部 カテゴリー戦略室 第三グループ マネージャー。 2018年、新卒でカバヤ食品に入社。2021年から「タフグミ」を担当。入社から現在に至るまで”グミ一筋”で、さまざまな商品の企画・開発を担当。日常では感じられない刺激を求めて休日を過ごしている。渓流釣りにハマっており、山の上流部でヤマメやイワナを釣っている。ひとりになり自然と一体化しているような気分になるのが好き。ツーリングも好きで、岩手まで往復1500キロの道を、1日500キロずつ3日間走り続けた。

DD:女性や子ども向けの商品ばかりだったなか、どのように男性消費者のパーセプションを獲得していったのでしょうか。荒殿:それまで販売されているグミの大半は、主要なターゲットだった女性や子どもが手に取りやすいカラフルでポップなデザインやフレーバーで、裏を返せば男性が手に取りにくい状態でした。なのでシンプルに男性にも手に取りやすいようなデザインで市場を開拓していきました。デザインはかっこよさを追求し、ブラックとゴールドのパッケージ。コーラやエナジードリンクのフレーバーを入れ、男性向けの商品であるということを押し出しました。

社内でも最注力ブランドの「タフグミ」の商品力

DD:「タフグミ」が男性向けグミ市場を開拓して10年目ですが、現在はどのようなポジションなのでしょうか。荒殿:登場以降右肩上がりで成長しており、新商品を出すたびに過去最高を記録している状態です。当社ではさまざまな商品を販売していますが、売上全体に占める割合は現段階で21%(2024年7月時点)。今では「タフグミ」が売上拡大のドライバーです。2024年の秋以降も販路を拡大する予定なので、さらに販売構成比率が高まっていくと確信しています。DD:幅広い商品を販売されているカバヤのなかでも圧倒的な存在感を持っているんですね。荒殿:当社のグミカテゴリーのなかではもちろん最注力ブランドなのですが、全社的にも「塩分チャージタブレッツ」と並んで主力商品となっています。DD:ここまで伸びる要因はどういった部分にあると考えていますか。荒殿:成長を続けられる最大の要因はこの商品が持つそもそもの商品力だと思っています。クセになる弾力食感がもっともお客さまに評価をいただいているポイントで、お客さまを対象とした定量調査でも、高弾力の食感は、非常に高いスコアを得ており、データでも証明されています。ハードグミのジャンルでは、ただ単純に硬いだけといった食感のものが多いイメージですが、「タフグミ」は、絶妙に跳ね返すような弾力食感にこだわっているので、そこがやみつきになるポイントだと思っています。データを見てみると、1度トライアルしてくれた方は、かなりの確率でリピートしてくれる傾向にあります。「タフグミ」のあの食感こそが、ファンを生み出す原動力だと自負しています。

フレーバーの拡張とTVCMで女性顧客の獲得も成功

DD:男性だけでなく、女性顧客の獲得も成功していると聞きました。荒殿:以前までは市場のなかで男性向けに差別化をするという戦い方をしていましたが、いまやほとんどのお客さまが食感でグミを選択するようになっています。この事実に着目し、昨年から性別問わず、すべてのグミを好むユーザーに認知してもらい、「クセになる弾力食感」であることを理解してもらうという作戦に変えました。2023年5月から初めて、ブランド成長を加速させるためにTVCMを作成し、女性のファンが多い俳優の鈴鹿央士さんを起用。これまで「タフグミ」に興味を示していなかった20〜40代の女性へのアプローチを強化していきました。DD:男性向けに圧倒的な存在感を持つグミを女性にも訴求する、というのは簡単ではなさそうです。クリエイティブで工夫したポイントはありますか。荒殿:男性向けとしてブランディングしてきた「タフグミ」について、女性のお客さまは何も知らない状態。まずは製品が「何者」なのか伝えるところにフォーカスしました。シンプルに分かりやすく伝えるところにこだわり、クセになる高弾力食感のグミであるということが、一貫して伝わるように注力しました。また、ブランドのイメージカラーでもあるブラックとゴールドは変えることなくクリエイティブに落とし込んでいます。DD:フレーバーの展開も豊富ですが、これも購買層拡大施策の一環なのでしょうか。荒殿:販売当初は男性の好むドリンクフレーバーで、男性向けというコンセプトを引き立たせるように販売していたため、コア層は深くて狭い、「これしか買わない」「こればかり買っている」という方が大半でした。知る人ぞ知る、といった商品でしたが、その間口を広げていきたいという意識は常にありました。そこで、2021年9月に、グレープのフレーバーを発売しました。これまでは男性向けのフレーバーに特化したブランドでしたが、グミの王道フレーバーを展開することで、男性だけでなく、グミのボリュームゾーンでもある女性を獲得し、ブランドとして大きくなりたいという想いを込めていました。その後、定期的にブランドに話題を与えるという意図もあり、ドリンクフレーバーとフルーツフレーバーを展開するようになりました。

「連食性」の秘訣は味わいに変化をもたせること

DD:ブランドのイメージは守りながら、性別問わず好まれるフレーバーを選定するのは難しそうです。荒殿:王道のフレーバーを選ぶということは大前提としてありますが、もっとも大事にしているポイントは、「やみつき感」です。社内では、「連食性」という言葉を使っており、連続して食べたくなるという意味で、ひとつ食べて満足にならないような設計にしています。1度食べたらやみつきになり、次もどんどん食べたくなるような仕立てになることを重視してフレーバーを開発しています。フレーバーに加えて、単純にずっと甘かったり、酸っぱかったりではなく、甘さと酸味の絶妙なコントラストも連食性を生み出す秘訣です。DD:フレーバーがあのやみつき感を生み出すのにそれほど大きな意味を持っていたとは、考えていませんでした。荒殿:王道のフレーバーのなかで、連食性を実現するために、「タフグミ」では、ひとつの商品のなかに同じフレーバーで少し違う味わいを用意することがあります。たとえば、グレープ味でも、程よい甘さの「グレープα」とスッキリとした酸味の「グレープβ」をひとつの商品にすることで、飽きさせない連食性の高さを実現しています。こうした商品はあまり市場にはなく、「タフグミ」の特徴でもあると自負しています。DD:同じフレーバーでも少し違った味わいにするというアイデアはどのように生まれたのですか。荒殿:私はもともとお菓子が好きで、幼い頃からグミをよく食べていました。ひとつのパックにいろいろな味が入っているアソートのグミを食べた時、好きではない味はよく残っていました。子どもの頃から感じていたこの「課題」をなんとか解決したいという思いが、同じフレーバーで2種類の味わいを生み出すきっかけです。そのフレーバーが好きな方は、違いを楽しみながらも好きなフレーバーだけを食べることができ、商品のファンになってくれるのではないかという考え方で実現しました。

インパクトのあるネーミングは音楽や映画から

DD:フレーバーの設計もユニークですが、それぞれの商品にキャッチーな名前がつけられているのも気になります。荒殿:季節ごとに出る商品にはハッシュタグをつけて、特徴的な名前をつけています。2021年9月のグレープ味には「#グレーピーダイナマイツ」とつけました。当時、「『ダイナマイツ』は意味が分からない」と営業部から反対されましたが、面白さを出すことで、店頭でお客さまの目に留まり、印象にも残ると説得しました。社内で「超刺激グレープ味」のような、いたって普通の名前と、「グレーピーダイナマイツ」でどちらの名前がよいかアンケートを取った際にも、圧倒的に普通の名前の方が多かったのですが、押し通しました。DD:そういった尖ったネーミングはどのように考えているのでしょう。普通の名前からキャッチーなものまで何種類も考えるのは大変そうです。荒殿:ここにはこだわって特に時間をかけているところです。パッケージに乗った時にお客さまに「何だこれ」と思ってもらい、興味関心を持たせることを狙って考えています。私は、お菓子売り場やグミコーナーを見ていてもあまりアイデアが浮かぶタイプではありません。特に多いのは、音楽の歌詞やタイトル、映画などからアイデアをもらうことが多いです。「タフグミ」と親和性のありそうな世界観で、刺激のあるような元気になりそうなものから考えています。お客さまに店頭で気づいてもらい、興味や関心を持ってもらうには従来と同じ考え方では限界があると感じたため、インパクトのあるネーミングは非常に重要だと思っています。そこをうまく営業部に伝えて実現しています。DD:これほど急成長を遂げているなかで、今後はどのようなことに取り組もうと考えていますか。荒殿:我々も驚いているのですが、急拡大に対して認知が追いついていないという事実があります。2023年度のグミにおける推計販売規模(金額)を見ると、当社は3位で、その前年成長率・額はともに競合ブランド内でトップクラスです。ですが、*認知率に目を向けると、カンロの「ピュレグミ」や明治の「果汁グミ」と比較した時、約2倍の差が開いています。*2024年2月のインテージWEB定量調査によるもの。「タフグミ」は販売10年目と歴史がまだ浅く、認知が拡大しはじめたのが3〜4年前。まだまだ伸び代はあると思っています。たとえば、「塩分チャージタブレッツ」はゴルフ場やスポーツ大会といった場でサンプリングを行い認知を拡大して成功しているという実績があります。「タフグミ」にも応用し、フェスやゲーム・eスポーツのシーンなどでサンプリングを行い、さまざまなシーンで「タフグミ」を食べたくなるようなモーメントを生み出していきたいです。Written by 坂本凪沙Photo by 三浦晃一