記事のポイントブランドの価値低下が指摘されているSupreme。所有元のVFコーポレーションは業績不振により同ブランドを売却する。Supremeの過剰な商品供給と拡大が希少性を損ない、文化的な魅力が薄れたと指摘されている。新オーナーのエシロールルックスオティカがブランド復活を図るも、ストリートウェアブランドでは競争が激化している。

ストリートウェアブランドのシュプリーム(Supreme)が7月初めに赤字で売却されたが、アナリストたちに驚きはなかった。同ブランドを所有していたVFコーポレーション(VF Corp)は、過去7四半期連続で前年同期比減収を報告しており、同社がバランスシートの健全化のためにシュプリームを売却しようとしているという報道は数カ月前から飛び交っていたからだ。毎週商品をドロップし、リミテッドエディションのリリースを行うというシュプリームのビジネスモデルは、ザ・ノース・フェイス(The North Face)、ティンバーランド(Timberland)、ディッキーズ(Dickies)、ヴァンズ(Vans)といったVFコーポレーションのほかのトラディショナルブランドとは一線を画していた。VFコーポレーションもこの点を認識しており、プレスリリースで「自社とシュプリームとのあいだには限られた相乗効果しかない」と述べている。だが、1994年にニューヨークのスケートショップとしてスタートしたシュプリームは、長いあいだ、独自の問題にも対処していた。2023年度、VFコーポレーションはシュプリームに対して7億3500万ドル(約1062.3億円)の減損処理を行い、シュプリームの売上が前年比7%減の5億2310万ドル(約756億円)だったことを明らかにした。セントリックソフトウェア(Centric Software)のサービスであるセントリックマーケットインテリジェンス(Centric Market Intelligence)によると、「シュプリーム」の検索ボリュームは、2022年5月から2024年5月の2年間で30%近く減少していることが判明している。再販サイトでさえ、需要の鈍化を目の当たりにしていた。ストックX(StockX)の広報担当者が米モダンリテールに語ったところによれば、2022年にシュプリームは、同社のアパレルカテゴリーで史上初めて1位ではなくなったという。シュプリームは現在、ストックXのアパレル市場の16%を占めているが、2020年の36%、2023年の19%からは縮小している。

シュプリームは名声を失ったのか?

かつてインディペンデントなブランドだったシュプリームは、過去10年間で何度も所有者が変わっている。2017年には、ブランドの株式の半数を5億ドル(約722.6億円)でカーライル・グループ(Carlyle Group)に売却。その後2020年に、21億ドル(約3035.1億円)でブランドを買収したVFコーポレーションの傘下に入る。そして今回、エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)がシュプリームを15億ドル(約2179億円)の現金で買収することになった。買収は今年末までに完了する見込みだ。今でもシュプリームには数百万人ものファンがおり、その多くが毎週木曜日の商品のドロップのためにシュプリームのWebサイトや店舗に集まり、FacebookやeBay、さらにはReddit(レディット)で自分たちのアイテムを販売している。だが、同ブランドはここ数年で文化的な名声を失っている。その理由の大半は、VFコーポレーションのもとで商品があまりにも入手しやすくなったこと、企業的になりすぎて成長志向が過剰になったからだと、複数の情報筋が米モダンリテールに語っている。現在、一部の小売アナリストやコンサルタント、経営幹部は、「シュプリームが新しい所有者であるエシロールルックスオティカのもとで状況を好転させられるかどうかはわからない」と述べている。「シュプリームは不安定な状態にあると思う」と、米モダンリテールに話すのは、ウィメンズストリートウェアプラットフォームであるスノベット(Snobette)の共同設立者、ロイス・サカニー氏だ。「トップラインとボトムラインを重視する企業に所有されている限り、シュプリームがあるべき姿に戻るのは難しいと思う。大口投資家に所有されてしまうと、本来の状態に戻すのは本当に困難なのだ」。

市場における過飽和

何十年ものあいだ、シュプリームはカウンターカルチャーの一角に存在するブランドとして知られていた。創業者のジェームズ・ジェビア氏は、30年前にニューヨークのノリータ地区にブランド1号店を作った。同氏はシュプリームを地元のスケーターやアーティスト、パンクやヒップホップのファンのためのホームとして構想していた。その後、このブランドはジャスティン・ビーバー氏やヴィクトリア・ベッカム氏といったメインストリームのセレブリティに受け入れられるようになったが、シュプリームの魅力はその排他性にあった。特定の商品を決まった数量しか販売しないため、ファンはそれを手に入れるために毎週のように店に殺到。何年ものあいだ、人々は最新のスウェットシャツやスウェットパンツを確実に手に入れようと、何時間も前からシュプリームのニューヨークの店舗の前に列を作った。そしてすぐに全米や海外にあるシュプリームの他の16店舗でも同じように行列ができるようになった。なお、シュプリームの2号店は日本の代官山に1998年にオープンしている。ところが、シュプリームのこうした排他的な雰囲気は、拠点が増えるにつれて薄れていく。2020年12月にVFコーポレーションがシュプリームを買収した際、2022年度の売上高を5億ドル(約724.5億円)と見込んでいたが、その目標を達成するには、ブランドの商品を多く生み出し、店舗をさらにオープンするという膨大な拡大が必要だったのだ。VFコーポレーションにとってタイミングも悪かった。世界は新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中にあり、世界中のブランドが生き残りをかけて奔走していた。「VFコーポレーションは高値で(シュプリームを)買収し、ほかのすべてが縮小しているときに事業を拡大しようとした」と、eコマースオペレーティングシステムのスワップ(Swap)のチーフマーケティングオフィサー、フアン・ペレラノ氏は米モダンリテールに語っている。コンサルティング会社スパーウィンクリバー(Spurwink River)の創業者であるマット・パウエル氏は米モダンリテールに対し、「VFコーポレーションのシュプリームの戦略はブランドの価値提案とずれていた」と話す。「VFはシュプリームにあれだけの金額を支払ったため、非常に迅速に売上を上げる必要があった。(だが)シュプリームやほかのストリートウェアブランドの大前提にあるのは、製品が入手困難である、ということだ。希少性と成長はまさに相反するものなのだ」。

新しいものが必ずしもよいとは限らない

今、多くのアイテムが「シュプリーム化」している。ストックXでは、ファンはシュプリームxヘインズ(Hanes)の下着、シュプリーム版たまごっち、シュプリームの折りたたみテーブル、シュプリームのICEEマシンを買うことができる。eBayでは、シュプリームの靴下やシュプリーム x ザ・ノース・フェイスのトートバッグが販売されている。エシロールルックスオティカは、メタ(Meta)と提携してシュプリームのスマートグラスを計画していると報じられている。このニュースにはレディットで不満の声が上がった。あるユーザーは「熱狂してた気持ちが2019年に冷めて本当によかった」とスレッドに書き込んだ。「もうこういうのは耐えられない」と書いた人もいた。一部のシュプリームファンが掲示板で語っているように、新しいものが必ずしもよいとは限らない。実際、eBayが米モダンリテールに語ったところによれば、シュプリームが独立していた頃の商品を探すユーザーが増加しているという。eBayでは2023年2月から2024年2月にかけて、1990年代と2000年代のシュプリームコレクションの検索数がそれぞれ100%と85%急増している。すべてのシュプリーム製品が10年前のように高いプレミア価格で転売されているわけではない。シュプリームの定番商品であるボックスロゴのTシャツは、8月1日の時点でストックXに139ドル(約2万円)で出品されている。MM6メゾンマルジェラ(MM6 Maison Margiela)とのコラボレーションであるそのシャツは、ことし3月に発売された当時は小売価格が88ドル(約1万2800円)だった。対照的に、シュプリームのスワロフスキー(Swarovski)のパーカーは、2019年に発売された翌日に1500ドル(約21万7700円)で転売市場に出た。当初の小売価格は398ドル(約5万7800円)だった。

クールなブランドとは何か

買い物客がより多くのシュプリーム製品を入手できるようになった理由のひとつは、シュプリームが現在、2023年にオープンしたロサンゼルスの新店舗を含め、世界中に17店舗を構えているからだ。シュプリームのWebサイトによると、米国、ドイツ、日本、英国、フランス、イタリア、中国、韓国に店舗がある。デジタルクリエイティブエージェンシーのカルチャー(Qulture)のCEO兼創業者であるクイン・マイ氏は米モダンリテールに対し、「この物理的な拡大はブランドへのアクセスを増やすのには役立ったが、シュプリームを特別な存在にしていた『イット』の要素を低下させた」と述べている。「昔、シュプリームがラファイエットストリートにあった時代、そこはスケーターのたまり場であり、クラブハウスのような場所だった。規模を拡大し、何軒もの店舗をオープンしたとき、それがどんなに立派なものだったとしても、コミュニティは失われてクールなブランドではなくなってしまった」。こうした成長はすべて、シュプリームの創業者であるジェビア氏が2017年にインスタグラムに投稿したメッセージとは正反対のようにみえる。ただしその時点でシュプリームはすでにニューヨーク以外へ拡大しており、売上が数百万ドルに達していたことは特筆に値する。2017年8月23日のインスタグラムの投稿でジェビア氏は、「シュプリームは小さなスケートショップとしてスタートし、今でも拡大するつもりはない」と語っていた。「私たちのショップはほとんど『秘密』のような場所だ。ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のような有名ブランドとのコラボレーションや独占商品がある。限られた供給が私たちの商品に対する価格と欲求を高めている」。

オルタナティブでもニッチでもなくなった

ジェビア氏がインスタグラムにその投稿をした2カ月後、シュプリームは株式の50%を、4250億ドル(約61.6兆円)の資産を運用すると称する世界的な投資会社、カーライル・グループに売却した。カーライル・グループはこの取引に5億ドル(約722.6億円)を支払い、シュプリームの評価額は10億ドル(約1450.3億円)となった。そして3年後の2020年、VFコーポレーションが21億ドル(約3035.1億円)でブランドを買収した。どちらの動きもシュプリームの「クールな要素」を縮小させたと、情報筋は米モダンリテールに語っている。長いあいだ、アンダーグラウンドな世界の一部だったシュプリームは、今や米国企業の最前線に君臨することとなった。もはやオルタナティブでもニッチでもなくなった。結局のところ、コングロマリットと手を組むことは「異なる認識を生み出すのだ」とスノベットのサカニー氏は言う。今、シュプリームは再び新しい所有者を迎えようとしている。7月17日、レイバン(Ray-Ban)やサングラスハット(SunglassHut)も所有するアイウェア企業エシロールルックスオティカが、シュプリームを15億ドル(約218億円)で買収すると発表した。エシロールルックスオティカのCEOであるフランチェスコ・ミレリ氏と副CEOのポール・ドゥ・サイヤン氏は共同声明のなかで、シュプリームの「独自のブランドアイデンティティ、完全直営の商業的アプローチ、顧客体験を維持するために努力する」と述べた。シュプリームの創業者ジェビア氏は同社に留まるという。

再び調子を取り戻すには?

シュプリームが再び調子を取り戻す手助けができるのは、エシロールルックスオティカかもしれない。同社はラグジュアリー業界に属しており、ブランドを支援するリソースを豊富に持っていると、以前情報筋が米モダンリテールに語っている。スワップのペレラノ氏も、エシロールルックスオティカがシュプリームとともにできることについて楽観視していた。「ルックスオティカについて私が知る限りでは、おそらく実店舗の面での投資をより選択的に行うだろう。すでにシュプリームを出店できる店舗をたくさん持っているため、それが戦略の大きな部分を占めると思う」とペレラノ氏は話す。だが、シュプリームにとって競争はまだ続いている。2013年に創業したライフスタイルブランドのフィア・オブ・ゴッド(Fear of God)と2017年創業のコルテイズ(Corteiz)は、とくに黒人が所有するブランドを支援しようという呼びかけのなかで近年大きな支持を集めている。また、キース(Kith)、エメ・レオン・ドレ(Aimé Leon Dore)、パレース(Palace)は、いずれも過去15年間に創業したストリートウェアブランドで、シュプリームの市場シェアを食っている。また、1990年代から2000年代にかけてシュプリームが広めたドロップモデルを、多くのブランドが取り入れているという点を、スパーウィンクリバーのパウエル氏は指摘した。そのなかには、大企業や個人経営の小規模な企業も含まれている。「複雑なビジネスモデルではないため、多くの人がこのビジネスモデルを模倣した。皆、同じことをやろうとしているのだと思う。ただそこに、自分たちのラベルを貼っているだけだ」と、同氏は米モダンリテールに語った。ジャーナリストであり、マーケティングコンサルタント会社のユニティマーケティング(Unity Marketing)のオーナーであるパメラ・ダンジガー氏は、シュプリームが2017年にルイ・ヴィトンと行ったように、エシロールルックスオティカがほかのブランドと魅力的なコラボレーションを行うことに成功すれば、シュプリームの人気を高めることができるかもしれないと考えている。「エシロールルックスオティカは非常に強力な数々のブランドと良好なコネクションを持っているため、そのような契約を取り付けることが可能かもしれない」とダンジガー氏は米モダンリテールに述べた。「しかし、」とダンジガー氏は続けた。「シュプリームはかつてのような強力なパートナーではなくなってしまっている」。[原文:‘Scarcity and growth are oppositional’: How streetwear legend Supreme lost its luster]Julia Waldow(翻訳:Maya Kishida 編集:島田涼平)