●長田の言葉で思い出した「耐え抜いた」時期

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、フジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』(毎週土曜20:00〜 ※17日は19:00〜2時間SP)演出の田中良樹氏だ。

カギメンバー(霜降り明星 せいや・粗品、チョコレートプラネット 長田庄平・松尾駿、ハナコ 菊田竜大・秋山寛貴・岡部大)の総合司会で、7月20〜21日に放送された『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』では、同期の杉野幹典氏とともに総合演出を務めた田中氏。数字面でも成功を収め、大きな反響となった実績を踏まえ、「『新しいカギ』のレギュラーにちゃんと還元できて、フジテレビの安定的な鉄板のソフトにすることが、僕のいちばんの仕事だと思います」と気を引き締める――。

田中良樹1991年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学卒業後、14年にフジテレビジョン入社。『アウト×デラックス』のADを経て、『BACK TO SCHOOL!』『関ジャニ∞クロニクルF』演出、『さまぁ〜ずの神ギ問』『ホンマでっか!?TV』ディレクターなど、数々のバラエティ番組制作に携わる。現在は『新しいカギ』の演出を担当し、7月に放送された『FNS27時間テレビ 日本一たのしい学園祭!』では同期の杉野幹典氏とともに総合演出を務めた。


○議論を重ねて作った若者たちへのメッセージ

――当連載に前回登場した『バナナマンのせっかくグルメ!!』『いくらかわかる金?』のTBS平野亮一さんが「『学校かくれんぼ』はうちの小学生の子どもも大好きで、いつも見ています。純度の高いバラエティで、ああやってみんなで盛り上がれる番組は、昔はうちでも『学校へ行こう!』がありましたけど、今の時代は視聴率のことを考えると結構難しいんです。でも『新しいカギ』はちゃんと結果も残している」と称賛されていました。

平野さんの番組はものすごく研究していて、もしこの連載で自分に回ってきたら平野さんの名前を挙げさせてもらおうと思っていたので、めちゃくちゃうれしいです! 『せっかくグルメ』は、世の中に刺さる理由がちゃんとある番組だと思っていて。しっかりとテクニカルに作られていながら、演出の人柄も感じるような仕上がりになっていて、そのバランス感覚を今いちばん勉強していますし、脅威にも感じています。『わかる金?』は『新しいカギ』とOA時間がかぶることもあるので。

――早速、先日の『FNS27時間テレビ』のお話から伺いたいと思いますが、本番が迫る中でオープニングアクトのKEYTALKさんから首藤義勝さんが脱退を発表したり、当日には「100kmサバイバルマラソン」に出場する金田朋子さん・森渉さん夫妻が離婚を発表したりと、想定外の事態が発生しました。

これは本番も何が起こるか分からないし、どうなるんだろう…と思いながら臨みました。

――オープニングは、コロナで青春を奪われた若者たちへのカギメンバーのメッセージ(※)からスタートしました。あの台本はどのように作られたのですか?

番組チーフ作家の樅野(太紀)さんにお願いしました。ギャラクシー賞を頂いたときの放送でも、そういうメッセージを伝えたのですが、そこも含めて評価していただいた気がしていて。『27時間テレビ』で初めて『新しいカギ』を見る視聴者の方もいらっしゃると思いますし、『27時間テレビ』の大事な振りの部分で番組の目線にもなるので、「改めてこういう思いで番組を作っていることを言いたいんです」と樅野さんに相談したら、夜中に熱い文言を送ってくださって。そこから議論を重ねて作っていきました。ちょっとこっ恥ずかしいので、スタッフにもほとんどアナウンスしないで進めて(笑)

(※)…「覚えていますか? 今から4年前、日本中の若者たちから笑顔が消えたこと。覚えていますか? 期待に胸を膨らませた若者たちの青春が奪われたこと。そんな姿を見た時、思ったんです。“こんな時こそ、大人の出番なんじゃねぇの?” 僕たちは本気で思ったんです。“こんな時こそ、テレビの出番なんじゃねぇの?” 若者たちよ、君たちが笑顔じゃないと意味がない。君たちがワクワクしてないと意味がない。我慢し続けてきたみんな、準備はいいか? いいのか? さぁ踊るぞ、騒ぐぞ」

――長田さんの「こんな時こそ、テレビの出番なんじゃねぇの?」だけ、ちょっとテンションが違っていてイジられていました(笑)

長田さんのパートは、「学校かくれんぼ」のキャラクターの隠密マサルの画を重ねると決めていたので、「隠密さんで読んでください」とお願いしたんです(笑)。カッコよかったですよね。

――カギメンバーがスタジオに登場する前のあのアバンのVTRが流れている間に、裏で霜降りさんとチョコプラさんが「ここまできたな」と涙しながら称え合っていたそうですね。

僕はサブ(副調整室)の卓にいたので見ていなかったんですけど、その話を聞いて本当にうれしかったです。

チョコレートプラネット (C)フジテレビ

○粗品の魅力が世の中により伝わった

――最初のメイン企画が「超!学校かくれんぼ」でしたが、「学校かくれんぼ」は第1弾から1年半で大きく進化しましたし、生徒さんにものすごく浸透しているのが伝わってきました。

回数を重ねるごとに、企画名を伝えたときの盛り上がりが大きくなっています。回によっては、「新日本かくれんぼ協会」という名前を出して、「わーー!!」って盛り上がることもあるんですけど、よくよく考えたら「新日本かくれんぼ協会」は番組名でも企画名でもない、架空の団体名なのに、それで気づいて盛り上がってくれるんです。OAでは使いきれてないのですが、カギメンバーの名前を言いながら捜してくれたり、「いつも番組を見てくれてるんだな」という捜し方もしてくれるので、とてもうれしいです。

――秋山さんが生徒さんに紛れるパターンで逃げ切ったのは、初めてですよね。

そうなんです。めちゃくちゃうれしかったです(笑)。仕上がりとしては、展開も含めて完璧だったと思います。

ハナコ (C)フジテレビ

――生放送のスタジオでカギメンバーやゲストが「学校かくれんぼ」のVTRを見守るというスタイルでした。ここで27時間の生放送が勢いづいた感じだったでしょうか。

そうですね。それにスタジオ観覧には高校生の皆さんがいたので、一緒に見ている空間が良かったなと思います。今回の「超!学校かくれんぼ」の舞台だった横浜高校の生徒さんも何人か来てくれて、その子たちがめちゃくちゃ盛り上がりながら見てくれたので、ライブビューイング会場のようになっていました。

――そうすると演者さんのテンションも上がってきますよね。

演者さんだけでのモニタリングよりも、1個ギアがかかっている感じがしました。

――その次が、「千鳥の鬼レンチャン 〜サビだけカラオケ タッグモード大会〜」でした。ここで長田さんが「最初の頃はコントで数字が厳しくて、何やっていいか分からない感じで、スタッフも演者もピリピリしてた感じになっていた」と、『新しいカギ』のこれまでを振り返っていましたが、当時を思い出しましたか?

思い出しましたね…。こうして『27時間テレビ』ができて、本当に良かったと改めて思いました。終わってしまう番組って、どうしてもあるじゃないですか。でも、それぞれができるMAXで作っているから、つまらない番組はないと思っていて。だから視聴者の方に知ってもらう、ひとつきっかけを探さなきゃいけない。『新しいカギ』は「学校かくれんぼ」がきっかけになり、ラッキーでした。ただ、そのきっかけをつかむまでの時期が本当に苦しくて、長田さんの言葉にグッときましたし、支えてくれたいろんな人たちの思いもあって「耐え抜いた」という気持ちもあります。

――続いて、「さんまのお笑い向上委員会」です。

実は「超!学校かくれんぼ」は僕、「鬼レンチャン」は千葉(悠矢)、「向上委員会」は杉野(幹典)と、番組冒頭からつながる3企画はそれぞれ、『新しいカギ』を立ち上げから担当しているオリジナルディレクター3人が演出としてまとめていたんです。それぞれ違う番組の企画ですが、一緒に丸3年『カギ』をやってきた3人が「今年の『27時間テレビ』はこういうものにしたい」という思いを共有しながら、トップスピードで流れを作れた気がしています。

霜降り明星 (C)フジテレビ

――そして、深夜の「粗品ゲーム」です。粗品さん、だいぶかかってましたね(笑)

「粗品ゲーム」という名前ではあるんですけど、「カギチーム」がここを盛り上げてやるぞという気持ちを感じて、他のチームも巻き込んで結果として団体芸になったという感じがあります。

――特にせいやさんは、相方さんの発案したゲームの面白がり方など、流れを作っていましたよね。最後のローション階段大喜利の「松本人志、今、何している?」などは、粗品さんがその場で思いついたお題だったそうで、やはり制作側としてはヒヤヒヤものでしたか?

僕としては、粗品さんがヒール役になって盛り上げたり、ツッコミによって1個の笑いのパッケージにしたり、「OKラインの笑い」を瞬時に作り上げるスキルがすごく優れている方だと思っているので、そういったところでの不安は実はあんまりなかったんです。

――オープニングでの際どい発言から、「FNS逃走中」でのまさかの行動、「ハモネプ」での専門知識をふんだんに披露した審査コメント、そして全体の仕切りまでこなした粗品さんに、放送後には称賛する声が相次ぎました。

この『27時間テレビ』で粗品さんの魅力が世の中により一層届いてくれるという気がしていたので、そこがしっかり伝わって良かったなと思います。ヒールになる時はヒールになるんですが、絶対に一般の方を嫌な思いにさせないんです。『カギ』のロケでも、高校生を“刺す”ようなことは絶対に言わないので、27時間でいろんな要素がある中で、彼の中の使い分けがうまく表現されたのかなと思います。

――アバンVTRの裏では粗品さんも泣いていたと聞いて驚いたのですが、一緒に仕事されている立場としてはいかがですか?

粗品さんって、めちゃくちゃ熱いんですよ。グッとくる瞬間もあってカッコいいし、熱いので、感極まって涙されたと聞いても、驚きよりは「うれしいな」という感じでした。

●組み合わせ以外は演出しなかった「カギダンススタジアム」

――そして、クライマックスは大きな感動と反響を呼んだ「カギダンススタジアム」です。やはり演者さんと高校ダンス部の組み合わせというのは、相当考えられたのですか?

逆に、組み合わせ以外は考えてないと言ってもいいかもしれないです。僕らが何か演出をしたとするなら、唯一組み合わせだけで、それ以外はもうドキュメントでした。今年の『27時間テレビ』の裏テーマとして、『新しいカギ』を新たに知ってくださる視聴者の皆様に対して、「こんなメンバーでこんな番組やってるんだよ」というプレゼンの意識があったので、それぞれの個性がしっかり生きるように、応募いただいたチームとどう組み合わせようかと、丁寧に考えました。

――例えば三重高校はストーリー仕立てのダンスを得意とされるので、コント職人の秋山さんにお願いしよう、という感じでしょうか。

そうですね。三重高校の応募VTRや他の大会での映像も見て、このストーリー性に、世の中に知られている秋山さんのコント職人としての魅力が合わさったらどんなダンスが作れるんだろう…と考えました。それと、組み合わせについてはプロのダンサーさんにもアドバイスをもらっていて、三重高校の「ロックダンス」は相当練習しないと踊れないから、めちゃくちゃ頑張る人がいいという意見を受けて、ここは秋山さんだなと決めました。

三重高校×秋山寛貴 (C)フジテレビ

――本番のパフォーマンスの前に、ダンスに込められた思いや、演者さんとダンス部の皆さんが一緒に過ごしたひと夏の物語が描かれたVTRがありましたが、これはどのような意識で作られたのでしょうか。

だいたい12分前後のVTRなのですが、めちゃくちゃ時間をかけて作りました。意識したのは、あくまでもダンスに向けた“振り”だということ。彼らが本番に至るまでに、頑張ってきた部分や、ここは事前に紹介しておいたほうがダンスを楽しめるという部分を入れながらも、本番のダンスで完結するというパッケージにしました。

――直前のVTRで感情移入してほしいから、どこまで見どころを詰め込むかのさじ加減は難しかったのではないでしょうか。

今回の本番のダンスは4分という尺だったのですが、高校ダンス部の大会は2分半がスタンダードなので、結構長いんです。そうなると見どころとしてはたくさんあるので、最後まで見たくなるための目線付けというのも、意識しました。

――そうすると、百戦錬磨の高校ダンス部の皆さんにとっても、コーチの先生にとっても、4分のダンスというのは結構な挑戦だったんですね。

そうだったと思います。だから、この4分どう作るかというところから、演者さんとコミュニケーションを取ってもらいました。そんな中で、松尾さんが4分間出ずっぱりで踊り切るというのを決めたので、高校生の皆さんがいちばん驚いていました。

武南高校×松尾駿 (C)フジテレビ

――カギメンバーの皆さんが高校生たちから青春時代に置いてきたものを受け取るのと同時に、高校生の皆さんもカギメンバーの一生懸命な姿から受け取るものがあったように見えて、お互いに刺激を受ける関係性がすごくいいなと思いました。

めちゃくちゃいいですよね。本当にカギメンバーというのは熱くて優しい人たちなので、そこが高校生にうまく届いて良かったなと思います。

○「前代未聞のお願い」技術チームに助けられる

――本番では演者さんも観覧席もみんな涙を見せていましたが、田中さんはいかがでしたか?

『BACK TO SCHOOL!』(※)など、エモい瞬間に立ち会う番組は結構やってきましたが、編集しながら泣くことはなかったですし、ロケでディレクターが泣いていたら「ちゃんと撮れよ」って思っていたタイプなんですけど、入社11年目で、初めて本番で泣いてしまいました(笑)

それで、キュー(合図)が出せなくて、CMを入れるタイミングが遅れちゃったんです。見返すと恥ずかしいんですけど、秋山さんと三重高校の点数が出て、それまで1位だった岡部さんが「花東(花巻東高校)のみんなに優勝してほしかったから…」と泣かれて、粗品さんが「続いては優勝候補の登場です」ってCMに入るところで、なかなかCMに行かず変な間が空いているのは、僕が泣いているからなんです(笑)。サブでかなりイジられましたが、あそこは耐えられなかったですね。

(※)…青春時代にやり残した思いを抱える芸能人が、期間限定の転校生として実際の高校生活を体験するバラエティ番組。2019年10月〜20年3月にレギュラー放送。

花巻東高校×岡部大 (C)フジテレビ

――ハプニング的なところで言うと、菊田さんが日曜の夕方に少し体調を崩されて休憩されていましたが、無事本番には回復してパフォーマンスしてくれました。

出番順としては最後だから、粘れるところまで粘ろうと思っていたのですが、本当にどうしようもなかったときのために、菊田さんと踊る1MILLIONの振付師のリア・キムさんが踊るスタンバイをしてくれていたんです。菊田さんの体調が第一なので、もし出られない場合はエキシビジョンマッチとして披露してもらうことも考えたのですが、ドクターのOKも出て、「カギダンススタジアム」のオープニングにも間に合って無事、菊田さんが練習の成果を見せてくれました。

1MILLION×菊田竜大 (C)フジテレビ

――ダンスパフォーマンスのカメラワークも素敵だったのですが、やはり音楽番組のチームが担当されたのですか?

『FNS歌謡祭 夏』の放送が近かったので、音楽番組の制作チームにがっつりお願いができなかったんです。オープニングのKEYTALKさんとブラスバンドのカット割りは、1個下の川上(惇ディレクター)が助けてくれたんですけど、ダンス4分×7本はさすがに頼めないなと思って、自分たちで準備して挑んでみたものの、全然違うなという感じで。そこで、『FNS歌謡祭』のカメラマンさんをはじめとする技術チームに、普段はディレクターが担当するカット割りを「本当に前代未聞かもしれないのですが、僕ら本当に何も分からないんで助けてください!」とお願いしました(笑)

練習の映像を見せて「ここは1ショットでいきたいです」といった最低限の部分をお伝えして、それ以外の部分をお願いしたら、「お祭りだから、みんなでやろうぜ!」ってなってくれて、めちゃくちゃカッコよかったです。それに、演目ごとに担当を分けてカット割りしているので、自分のチームのように応援しながら撮ってくれたんですよ。それも、『27時間テレビ』ならではの全社一丸な感じがあって、結果として良かったなと思いました。

●見ることのきっかけと、その奥にある伝えたいこと

――日曜朝の「めざましテレビ×ぽかぽか」から、皆さんが「最後にダンスがある」と不安を吐露されていたので、相当なプレッシャーをずっと抱えながら生放送を走り続けているのが伝わってきました。

自分がミスることで高校生たちに迷惑をかけたくないという思いが強かったんだと思います。約24時間生放送に出演し続けた状態で踊るなんて経験をしたことがないから、どんなに準備しても本番で迷惑をかけてしまう可能性をずっと感じながらやってくださっていたので。

宝仙学園高校×長田庄平 (C)フジテレビ

――長田さんがパフォーマンス後に自分のミスを話して涙されている姿も、本当に意外でした。このように「カギダンススタジアム」は、カギメンバーの知らない顔がたくさん見られましたが、田中さんは事前の取材で、この企画に込めたのは、演者さんと高校生が一緒に作り上げるものと、「学校かくれんぼ」が1日のロケで終わってしまうのに対して、長期間にわたるものをやりたいとおっしゃっていました。それは、ご自身が企画されて半年で終了してしまった『BACK TO SCHOOL!』でやりたかったことだと思うのですが、今回そのリベンジを果たせた思いはありますか?

本当に個人的な話になってしまいますが、「報われたな」という思いがあります。やりたいことは当時から変わってないんですけど、今振り返ってみると、『BACK TO SCHOOL!』は伝えたいことに正面突破しすぎたという反省があるんです。

最初にお話しした平野さんの番組もそうなんですが、『せっかくグルメ』は「グルメ」という見ることのきっかけと、その奥に制作者の伝えたいものがあると思っていて、『BACK TO SCHOOL!』には、そのきっかけがなかった。だから今回の「カギダンススタジアム」は、ダンスの賞レースという部分に見せる動機をつけた上で、『BACK TO SCHOOL!』でやりたかったドキュメント性を描けたし、結果もついてきてくれたと思っているので、個人的な反省を落とし込めたなと思っています。

――感動がありつつも、やっぱりカギメンバーらしい笑いがあって、改めて『新しいカギ』らしい、27時間のフィナーレにふさわしい企画だったと思います。

これは本当に、演者様々ですね。

KADOKAWA DREAMS YOUTH×せいや

北九州市立高校×丸山礼

(C)フジテレビ

――KEYTALKさんが歌う『新しいカギ』のテーマ曲は「MONSTER DANCE」と、図らずも「ダンス」がタイトルに入っているわけですが、これは番組の立ち上げ時に田中さんが選曲したと伺いました。

ひとつは『新しいカギ』と「KEYTALK」の「キー」つながりだったんですが、もうひとつはめちゃくちゃ個人的な話で。僕はずっとバンドをやっていたんですが、高校1年の時に、別の学校にいた2個上の首藤さんのthe cabsというバンドのライブを見たことがあるんです。でも、その後に見たKEYTALKは、the cabsの魅力を残しながらも、マスに向けたシステムを付けて、全然違う音楽をやっていたんです。

そこで、さっきの『BACK TO SCHOOL!』の話につながるんですが、自分のやりたいことをマスに伝えるためのフックを作るという、もの作りをする人間としての同じような苦しみを勝手に想像して、マスに向いている「MONSTER DANCE」という曲を番組のメインテーマに立てたら、聴くたびに自分の方向性を正してくれるんじゃないかと思って使わせてもらっています。

――その曲を『27時間テレビ』のオープニングとしてKEYTALKさんが生披露されて、放送4日後に活動休止を発表されました。『27時間テレビ』までは…という思いがあったのかもしれないですね。

そうだとしたら、本当にありがたいです。最後の最後まで、「ブラスバンドの高校生を巻き込んでいるんだから、出なきゃな」と話し合いがあったとも聞いているので。

○若い世代に「テレビ面白いぜ」と伝えられた

――27時間を振り返ってみて、カギメンバーの皆さんに助けられた場面を挙げると、どんなところがありましたか?

基本的にはほとんど助けられたというか、演者さんあっての27時間でした。今年の『27時間テレビ』を評価していただけたのは、7人のドキュメント性だと思うんです。あの7人の魅力は、これまでのTVスター像とはちょっと違う気がしていて。圧倒的で破壊的なカリスマ性のある人がこれまでのTVスターだったと思うのですが、カギメンバーはロケに行くといつも“隅っこの人”にも優しいんです。上だけで盛り上がらず、全員に目を向けていて、その気配が今回出た気がします。若者に向けて、「見せてやるよ、俺らおもろいだろ?」じゃなくて、「一緒に作ろうぜ!」っていう姿勢が随所に感じられたので、そこが良かったです。

――高校生が参加する企画というのは、例えばタレントさんよりも丁寧な誘導や説明などが必要になったりして、通常よりも手間がかかると思うんです。それを、27時間の中でやるというのは、とても大変だったのではないかと想像しますが、いかがでしたか?

そこがカギメンバーにいちばん助けられたところだと思います。実は、僕らが演出をかけた部分は、通常の『27時間テレビ』より少ない気がしていて。「こういうのが面白いだろう」という演出はそんなにかけず、わりとドキュメントなんです。「学校かくれんぼ」ひとつとっても、高校生とカギメンバーが戦うという構造しか僕らは作っていないですから。ただ一般の方なんで、全部が全部撮れ高にならないという点で例年より不安があったかもしれないですが、そこをカギメンバーが丁寧に拾い上げて笑いにしてくれたので、めちゃくちゃ助けられました。

――生放送の最後に、せいやさんが「テレビ最高〜!」とおっしゃっていましたが、田中さんの思いは。

いや、もう最高でしたね。本当にそこをスローガンにやってきて、若い子に向けて「テレビ面白いぜ」というのを伝えたかったので、X(Twitter)のトレンドに入って、ちょっとウルッときました。

――生放送が終わって軽い打ち上げだったと思いますが、そこでのカギメンバーの皆さんの様子はいかがでしたか?

本番が終わって、それぞれ高校生たちとお話をしているので、打ち上げ会場になかなかいらっしゃらなくて(笑)。でも、皆さん「やり切った」という満足の表情でしたね。それと、「ダンスは大変だった」とずっと言っていました(笑)

(C)フジテレビ

――今回、事前に立てた目標値というのはあったのですか?

番組として具体的に立ててはいなかったのですが、僕と杉野の中で、土日ゴールデン帯のコア(男女13〜49歳)視聴率の数字は、去年を超えたいという目標がありました。それは去年に対するライバル心ではなくて、『27時間テレビ』は去年4年ぶりに復活してとても評価されましたし、去年を見て面白いと思って今年も見てくれるお客さんが絶対いると思うので、そういう意味でも上回らないと、去年のメインのスタッフにも失礼だという話をしていました。だから、そこはクリアできて良かったなと思います(※)。

(※)…昨年のコア視聴率は、土曜(19:00-22:00)6.8%、日曜(18:30-21:54)7.8%。今年は、土曜(19:00-23:25)7.4%、日曜(18:30-21:54)7.8%。ビデオリサーチ調べ・関東地区。

――『27時間テレビ』という大きな仕事を終えて、『新しいカギ』の“第二章”が走り出していますが、今後の展望はいかがでしょうか。

やはりここからつなげていくことが、いちばん大事だと思います。『27時間テレビ』で知っていただいたことを、『新しいカギ』のレギュラーにちゃんと還元できて、フジテレビの安定的な鉄板のソフトにすることが、僕のいちばんの仕事だと思うので、そこが目標です。

――先ほどゆりかもめの台場駅を降りたら、『お台場冒険王』の『新しいカギ』ブースで買ったグッズを持っている子どもたちがたくさんいて、驚きました。

そういうのは、めちゃくちゃうれしいですね。

●SUPER EIGHTが教えてくれた「本当のカッコよさ」



――田中さんがテレビ業界を目指したのは、どんな経緯があったのですか?

小学生の頃から大学までバンドをやっていて、曲作ってライブしてCDを作ったりしていたんですけど、それは今の番組作りと同じような気持ちで、「誰かの生活をちょっと良くしたい」といった思いでやっていたんです。ただ、自分の好みですごくニッチなジャンルでやっていたので、誰かの生活を良くしたいという思いを一生やるなら、もっと大きなサイズでやりたいと思ったのがきっかけです。

――そしてフジテレビに入社されてバラエティ制作に配属され、『新しいカギ』を担当するまでに特に印象に残る演者さんは、どなたになりますか?

自分の考えを大きく変えてくれたのが、関ジャニ∞さん、今のSUPER EIGHTの5人なんです。僕が『関ジャニ∞クロニクルF』に入ったのが、5人体制になって「友よ」という曲を出された時でした。状況的にめちゃくちゃ順風満帆かと言われたら、そうとは言えない時期で、ファンからすると「大丈夫かな」と不安にもなっていたであろうタイミングで出した「友よ」だったのですが、そこに酸いも甘いも経験したからこそ出せる男のカッコよさがあったんです。

番組の演出家として、演者さんを魅力的に見せようとするときに、それまでの自分だったら“完璧な人”として撮っていたと思うんですけど、彼らと出会ってから、人間の弱い部分や負けた部分を知っているからこそ描ける姿をちゃんと切り取ったほうが、本当のカッコよさが出るんだということを知って、すごく衝撃を受けました。

だから『新しいカギ』でも、この前の放送でせいやさんが母校に凱旋したときに、「1年生の時に友達関係とかうまくいかなかったのを『学校かくれんぼ』で払拭したい」と語ってもらったように、そういう部分は意識的に出しています。カギメンバーの皆さんが優しい人なんだと気づけたのも、SUPER EIGHTさんとの出会いのおかげです。

――「カギダンススタジアム」は、それがすごく出た企画でしたね。

松尾さんが4分通して踊るというのも、「自分には長田さんの器用さはないから、とにかく頑張るんだ」という意志を落とし込んだ結果であって、そこに至るまでに松尾さんの中でいろんな葛藤があったんじゃないかと思いながらVTRを作りました。そういう部分に気づいて描くという自分の美学を作ってくれたのは、SUPER EIGHTさんだと思います。

――最近は「テレビはオワコン」なんてことも言われることもある中で、今回の『27時間テレビ』はそこに対する一つの答えを出したような気もしますが、改めて今の時代のテレビの役割というのは、どのように考えていますか?

同じ時間に同じものが流れて、共通の話題を作れるというのは、大きな役割だと思います。それと、無料で見られるって、めちゃくちゃデカいことだと思うんですよ。サブスクでものすごくたくさんのコンテンツを月額1,000円で見られるというのは破格だと思うんですけど、テレビは線をつなげば良い画質で遅延もなく、大の大人がめちゃくちゃ顔を突き合わせて一生懸命作ったものがタダで見られる。僕はものすごく裕福な家庭で育ったというわけでもないので、「こんないいもんねぇぞ!」と思いながらかじりついて見てたんです。その感覚がいまだにあるので、今の子どもたちに絶やさないであげたいなと思います。

○「カギダンススタジアム」からさらに広げられる企画を

――そんなテレビにかじりついて見ていた田中さんが影響を受けた番組を1本挙げるとすると、何になりますか?

人生で一番見たのは、バラエティじゃないんですけど、ドラマの『ウォーターボーイズ』(フジテレビ)なんです。

――おお、青春!

本当に大好きで、下手したら50回くらい見ています。全キャラクターの全セリフを言えるくらい(笑)。モデルになった川越高校が地元から近くて、「カワタカ(※川越高校の愛称)の男のシンクロが映画になるんだぜ」って友達と話題になって、そこからドラマになって何回も見て、後日放送された撮影の裏側を紹介する番組もめちゃくちゃ見てました。それはもう半分ドキュメンタリーで、彼らがずっと合宿で特訓しているのを追っていたんですけど、あれを作りたいのかもしれないです。ただドラマでは超えられる気がしないので、違う角度からやってやろうとバラエティに行ったところも、今思い返すとあります。

――「カギダンススタジアム」は、それが一つ達成できた企画ではないかと思います。今後『新しいカギ』のレギュラーなのか、はたまた来年も『27時間テレビ』を担当するのか分かりませんが、またカギメンバーが汗をかいて、学生の皆さんと一緒に何かを作り上げていく企画はやっていきたいですか?

やりたいですね。むしろ、ああいう場を会社に与えていただいて、「成功」と言ってもらえたので、あれっきりにするのではなく、出た芽を広げて、会社にどう貢献するかというのを考えなければいけないと思っています。

一方で、どうすればできるんだろうと悩ましいです。今回は初めての『27時間テレビ』で起きっぱなしで最後のメインイベントという状況が相まってのものですし、そこに向けてやり切ってくれた演者さんの熱量がいちばんの勝因だと思うので、「同じことやって、同じだけ熱量注いでください」はあまりにも失礼な気もします。今回の「カギダンススタジアム」を超える形を見つけて、さらに広げられる企画を作るというのが、今の課題です。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

『関ジャニ∞クロニクルF』でお世話になった、ナレーターの服部潤さんです。この連載は前から読んでいて、有田(哲平)さんも出てこられたじゃないですか。テレビというものを本当にいろんな職業の人が作っているのを世の中に広げていただいているすごくいい連載だと思うので、その中に今まで出てこなかったナレーターさんが登場したら面白いなと。

それと、ナレーターさんはいちばん近くでいちばん客観的に番組を見てる方だと思うんです。作家さんもいろんな局をまたいで客観的に見てくださってますが、ナレーターさんは番組の最後の仕上げを見ているんです。だから、潤さんとテレビの話をすると、めちゃくちゃ芯食ったことを言ってくれるんですよ。いちばん面白い位置で、番組も、テレビマンもよく見ていて、「あいつはダメだった」とかも聞くので、潤さんに褒められたらめっちゃうれしいんです(笑)

――今回の『27時間テレビ』は褒められましたか?

まだ伺ってないので、ぜひ聞いてください(笑)

次回の“テレビ屋”は…



ナレーター・服部潤氏