ベテラン俳優が制作現場で見せたプロ意識――(「マツケンサンバのハッピーまちがいさがし」より)

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 頭上に輝くミラーボールにも負けないほどピカピカの衣装をまとって羽ばたくマツケン……が目を引く、1冊の本。今年で芸能生活50周年を迎えた松平健さん(70)が7月に出版した、『マツケンサンバのハッピーまちがいさがし』(幻冬舎刊)だ。

【前後編の後編】

【実際の問題にチャレンジ】松平さんが実際に“縫って”撮影…間違いは「7つ」 ほか

 本書は2004年に大ヒットした松平さんの楽曲『マツケンサンバII』の世界観を、オールカラーの撮り下ろし写真70枚を使って表現。これまで明かされてこなかったマツケンの日常生活を追いながら、同時に300個もの間違い探しにチャレンジし、脳のはたらきも鍛えられるという内容だ。

 表紙を見るだけで「ジワジワくる」本書は、SNSやECサイトでも《普通に写真集として面白すぎる》、《ページを捲ると上下左右にマツケンが…目が幸せ》、《普段、ほぼ本を読まない妻(60代)が、6時間くらい没頭して間違い探しをしていました。ほとんど中毒です。》と話題に。

ベテラン俳優が制作現場で見せたプロ意識――(「マツケンサンバのハッピーまちがいさがし」より)

 そこでデイリー新潮では、この“奇本”が誕生したきっかけや撮影秘話、マツケンの魅力を探るべく、幻冬舎の担当編集・山口奈緒子さんにお話を伺った。インタビュー前半は、松平さんの「とにかく面白いことをしたい」という思いがこの書籍企画の実現につながったことや、本人イチオシのカットが生まれた背景、20年の時を経て公になった、マツケンサンバの世界における“掟”について語ってもらったが、後編では、長丁場となった撮影現場におけるエピソードから聞いていく。

すべてのシーンを“実演”するマツケンのプロ意識に感動

「会見で松平さん本人もおっしゃってましたけれど、この間違い探し、けっこう難易度を高く設定しています。編集した私でさえ、あれ、どこだっけ? と間違いの箇所を全部思い出すのにずいぶん時間がかるくらい……」

 そう言いながら照れ笑いする山口さんだが、摩訶不思議な世界観のページの数々は、どうやって撮影されたのだろうか。

「収録した70カットはすべて1日で撮り終えました。朝10時から撮影を開始して、終わったのは20時頃でしょうか。カット数も多いですし、松平さんがどんなテンションで臨んでくださるか最初は心配だったのですが、序盤からエンジンをかけていただけてホッとしましたね。ベッドで目覚めて、あくびをしながら両手を挙げるシーンから始めましたが、口を大きく開けつつ、“手をもう少し上にお願いします”などの細かい指示にも快く応じてくださったので、とても進めやすかったです」

 芸歴の長い松平さんだが、“大御所感”を漂わせることもなく、”モノボケ”を含む攻めたオーダーにも、嫌な顔せず応えてくれたという。

「松平さんは、“こういう風に撮りたいです”と説明すると、すぐにこちらの意図を理解して物語を作ってくださる。しかも“フリ”だけじゃなくて、ちゃんと演技してくださるんですよ。例えば、衣装の手直しをするシーンで裁縫道具を持っているのですが、ただ構えるだけでなく、実際にチクチクと縫い進めてらっしゃるんです。英会話の勉強シーンでも、“アッポー、アッポー”と口に出してくれたり(笑)。バランスボールに乗るカットも、ちょこんと“乗ってる風”で済ませるのではなく、本気で重心を調整してらっしゃいました。

 その姿勢はまさにプロフェッショナル。役者魂に感動しましたね。やっぱり、芸能界で50年も輝き続けている人ってすごいんだな、と。松平さんだからこそ、ここまで1枚1枚こだわった写真に仕上がったのだと思います」

 驚いたことがもうひとつあって、と山口さんは続ける。

「松平さんは休憩時間以外、セッティングの待ち時間などが発生しても、決して座らなかったんです。お着物ですし、お疲れになるかと思い、いつでも使えるスツールを用意していたのですが、腰かけることはありませんでした。お着物が乱れるのを避けるためと、ご自身の中で気力や集中力を切らさないようにしてらっしゃったのかと。1日がかりの撮影でしたが、体力的な面でストップがかかることもなく、マネージャーさんでさえもビックリしてらっしゃいました」

 本書の発表会見で、「普段から1時間、忙しい日でも20分くらいはウォーキングをしている」と話した松平さん。70歳を越えてなお体力づくりに余念がないことにも、プロ意識を感じさせる。

マツケンサンバ×間違い探しは脳活に“最強の組み合わせ”

 撮影に臨む姿勢は至ってまじめな松平さんだが、本書は“マツケンの日常”を描いただけあって、どのシーンも「明るさ」や「楽しさ」、そして「愛らしさ」にあふれている。そして、このポジティブ要素の詰め合わせとも言えるマツケンサンバの世界は、間違い探しと組み合わせることで、脳の成長を大きく促すことにもつながるという。

「本書を作るにあたり、脳内科医の加藤俊徳先生に解説をお願いしました。加藤先生いわく、“記憶力の向上や物忘れの改善には、好奇心を刺激することが大切。好奇心は脳の働きを良くするだけでなく、幸福感もアップさせます”と。そして老若男女から人気、すなわち、どんな人にとっても刺激的なコンテンツであるマツケンサンバは、“好奇心を刺激する”存在として最適なんだそうです。脳のトレーニングは、楽しく持続的に行えることもポイントであるため、その点においても“間違い探し”と“マツケンサンバ”の組み合わせは最強なのでは、とお話しいただきました」

 本書に掲載の写真にはどれも意欲を湧かせる要素があるため、最初はじっくり眺めることから始めるといいという。また、間違い探しは1度きりで終わらず、2度、3度と行うのがベター。再挑戦する際には正誤の写真を見比べず、記憶を頼りに正解を導くことで、初回以上に記憶系の神経細胞のはたらきを伸ばすことができるとのこと。

「マツケンサンバが好奇心の刺激に最適だと言われるのは、マツケン、つまり松平さん自身が、好奇心にあふれているからではないかと思っています。松平さんはこれまで、幅広くさまざまなことに挑戦されてきましたよね。『マツケンサンバ』シリーズもそのうちのひとつでしょうし、全力で歌って、踊って、演じるのはもちろんのこと、多くの企業とタッグを組んで面白グッズを作ってみたり、コラボカフェのメニューを自ら考えてみたり、漫画『マツケンクエスト〜異世界召喚されたマツケン、サンバで魔王を成敗致す〜』(秋田書店)では、異世界にワープしてみたり……。そういった松平さんのアグレッシブな活動の数々は、撮影シーンにも反映しているんです」

マツケンサンバは「希望を与えてくれる存在」。今作、次作にかける思いとは

 さらに、山口さんは、現代においてマツケンサンバが広く支持されている理由を、幕末に起こった民衆運動「ええじゃないか」(※)になぞらえて考察する。

(※ 民衆が仮装するなどして囃子言葉の「ええじゃないか」等を連呼し、集団で町を練り歩きながら熱狂的に踊ったとされる騒動。一般的に、混乱が続いていた世の中の立て直しを訴える運動であったと解釈されている)

「『ええじゃないか』の“いいからとにかく踊ろう”みたいな空気って、個人的にはマツケンサンバと近しいものを感じるんです。現代も、もう長らく景気が悪くて、暗いニュースも多くて……。そんな中で、マツケンサンバの絶対的な楽しさというか、光り輝いて浮かれ騒ぐさまは、人々の気持ちを明るくし、希望を与えてくれるものなんだろうなと。加藤先生も、マツケンサンバが求められるのは、多くの人がひそかに抱いている“半歩先の欲求”をかなえてくれるような存在だからでは、とおっしゃっていました。やっぱり人間は、キラキラした世界に惹かれるんですね。

 アニメや漫画においては、そういう世界も珍しくないのでしょうが、三次元に限ると、マツケンサンバは唯一無二のジャンルのエンタメであり、それが時代を越えて国民的スターであるゆえんなのかもしれません」

 そんな“生けるエンタメ”である松平さんは、本書の発表会見で「脳活にいいというお医者様からのご意見もありましたし、本当にもう、世代問わず楽しんでいただける本ではないかと思います」 と自信をのぞかせた。

 山口さんも、「ひとりでも十分楽しんでいただけますが、ご家族やご友人と一緒に遊んでいただくのも、おススメです。 特に、親子三世代で手に取っていただけたら嬉しいですね。夏休みに帰省するタイミングでおじいちゃんやおばあちゃんとお孫さんでやってみたり。また、ご高齢の親御さんに、お子さんから本書をプレゼントしていただくことも多いようです。まだまだ暑い日々が続きますから、ぜひ、おうち時間の充実に役立てていただけましたら幸いです」と語る。

 最後に、もしまたマツケンサンバとコラボするなら、どんな企画をやってみたいか尋ねると、

「実は、本書でまだ触れていない秘密があるんです。それが、マツケンの家族構成。奥様はいるのか、子どもはいるのか……。いずれ、書籍で、オープンにできたらと思っています!」

 なんと、マツケンを射止めたセニョリータまで明かされる日が来るやもしれぬとは。どこまでも奥が深いマツケンサンバの世界に、我々は今後もどっぷり浸ることになりそうだ。オレ!!

【INFORMATION】
『マツケンサンバのハッピーまちがいさがし』(松平健著/幻冬舎刊)
定価:1700円+税
A4オールカラー/80頁
《特典》人生は間違いさがしのようなものシール 封入

(取材・文/篠宮 明里)

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【前編】では、他に類を見ない「マツケンサンバのハッピーまちがいさがし」が誕生するに至った経緯などについて、詳しく紹介しています。

松平 健(まつだいら・けん)
1953年11月28日生まれ、愛知県出身。’75年にドラマ『座頭市物語 心中あいや節』でデビュー。’78年にドラマ『暴れん坊将軍』の徳川吉宗役に抜擢され、大ブレイク。同シリーズは12作を重ね、放送終了後も人気を誇る。『利家とまつ』『鎌倉殿の13人』などの大河ドラマにも出演。また、’04年にCDを発売した「マツケンサンバII」で紅白歌合戦の出場を果たし、日本レコード大賞特別賞を受賞。令和に入りマツケンサンバは改めて幅広い年代から支持され、第2次ブームを起こしている。

デイリー新潮編集部