奇本「マツケンサンバのハッピーまちがいさがし」誕生秘話 “剣はNG”の世界観が初めて明らかに
「オレ〜オレ〜」 デデデデデン! 「マツケンサンバ〜♪」
【前後編の前編】
【実際の問題にチャレンジ】ミラーボールに水やり中…間違いは「5つ」 ほか
このフレーズを耳にしただけで、金ピカの着物に身を包んだちょんまげ姿のイケオジが、ダンサーたちを引き連れ踊る場面を思い浮かべる国民は、少なくないはず。気づけば疲れや悩みごとも忘れ、恋せよアミーゴな気分にさせてくれるビバな楽曲、『マツケンサンバII』である。
2004年に同曲で一世を風靡し、今もなお老若男女を惹きつけてやまないのが、“マツケン”こと松平健さん(70)。今年でCD発売から20周年、芸能生活50周年というメモリアルイヤーを迎えたその勢いはとどまることなく、50周年記念公演や『タマホーム』のCM出演のほか、全国各地でのコラボイベントや、埼玉・越谷における「田んぼアート マツケンサンバ×こしがや2024」を展開。さらに、8月31日から放送される『24時間テレビ47』(日本テレビ系)や’24年後期のNHK連続テレビ小説『おむすび』にも出演予定と、日本中に元気を届け続けている。
さまざまなアプローチで我々をあっと言わせてくれる松平さんだが、7月22日に、一風変わった書籍を出版した。その名も『マツケンサンバのハッピーまちがいさがし』(幻冬舎刊)。内容は、「マツケンの日常に密着」をテーマにした実写の間違い探し本だ。先月下旬、都内の明治座で新刊発表会見を行った松平さんは、おなじみのきらびやかな衣装で登場し、
「マツケンが普段どういうことをするのか、マツケンサンバの扮装で生活したらどんなふうになるのか、というのを想像して、あれこれ意見を言わせていただきました」
と、はにかんだ。計70枚の収録写真はすべて撮り下ろしで、間違い探しの数はなんと300個。ニワトリの鳴き声とともに目覚めたマツケンが、一日かけて想像を超える“あんなことやこんなこと”をやってのける姿にクスリとしながら、脳の活性化も促すことができる。
ご本人いわく、
「1つの写真に5つ間違いがあるんですけれど、4つまで見つかっても、最後の1つが全然わからない。なかなか難しいです」
とのことで、一筋縄には解き進められない模様。お気に入りの1枚を聞かれると、
「“ミラーボールの木”ですね。他にも屋上で撮った写真は、いろいろな場面があってすごく楽しかった」
とニヤリ。撮影は一日がかりで、松平さんは人生初の”モノボケ”にも挑戦しているという。
それにしても、「マツケンの実写」と「間違い探し」を組み合わせるというアイデアは、いったいどこから生まれたのか? 編集を担当した幻冬舎の山口奈緒子さんに話を伺った。
書籍企画を受けたマツケン、「とにかく面白いことをしたい」
「2021年あたりから、マツケンブームが再燃していましたよね。商業施設のPARCOで展開された『マツケンサンバ』の期間限定店が、中高年のみならずZ世代にも盛況でしたし、少女漫画誌の『ちゃお』から『週刊女性』のような週刊誌まで、マツケンとコラボした付録をつけていて、幅広い世代に愛されているなと感じていました。
あと、昔からカラオケで『マツケンサンバII』を入れると、みんな一緒に歌えるし、なかには踊れる人もいて、盛り上がるんですよね。 ブームが再燃したときに、マツケンサンバにはやっぱり人を楽しませる、ハッピーな力があるんだなと思いました」
マツケンの持つ力を確信した山口さんは23年7月、「書籍を一緒に作りませんか」と事務所にオファー。当初は、本人が多忙とのことで据え置きになったが、諦めきれなかった山口さんは年明けに再度アタックし、企画の詳細をプレゼンする機会を得た。松平さんサイドからは事前に、「とにかく面白いことをしたい」とのオーダーがあったという。
「もともと複数の企画を考えていました。24年が芸能生活50周年ということで、まじめな新書を書き下ろしてもらうという案もありましたが、もっと楽しい内容に振り切りました。実現した“間違い探し”は70代の義母と小学生の甥っ子が同じ間違い探し本を解いているのを見て、これなら幅広い世代に楽しんでもらえるかもしれないと思いついたんです。そのほかに、“ウォーリーを探せ”ならぬ“マツケンを探せ”的な企画と、パワースポット巡りに絡めた企画を提案。最終的には間違い探しとウォーリーの決戦となり、前者に落ち着きました」
間違い探しに軍配があがったのは、マツケンの“ビジュアル力”にも着目したからだそう。PARCOの企画展で、配布されたマツケンのお面が若者に大人気だったことにヒントを得た。
「マツケンは、そのオーラや表情にもインパクトがあるから、みんなが惹きつけられるんだなと。ご本人から、“これだけマツケンサンバが支持されているのだから、世界観を作りあげたい”、“この扮装で生活している様子を見せたら面白いのでは”という思いも伺ったので、“知られざるマツケンの日常に密着”をテーマに、写真を大きく使える間違い探し本を作ることにしたんです」
マツケンのイチオシ「ミラーボールの木」が生まれるまで
ならば写真にはとことんこだわろうと、制作チームは打合せを重ねた。マツケンは何に興味があって、どんな毎日を送っているのか? 松平さん自身の趣味や性格も反映しながら、マツケンが起きてから寝るまでの全70シーンを、ひとつひとつ具現化していった。制作を進める上でのキーワードは、「わかりやすくてキャッチー」、そして「明るくてハッピー」だったという。また、ご本人サイドから「全体的にキラキラさせて」との希望もあったそうで、目指すところはまさに、世間が抱いているであろうマツケンサンバの印象そのものだ。
「そのうえで、松平さんサイドからはまず、マツケンサンバには欠かせない『ミラーボール』が出てくるシーンと、ステージで使うマイクを選んでいるシーンの案を出してくださいました。そこから生まれたのが、ご本人もいちばんのお気に入りという、“ミラーボールの木”を育てているカットです。でも、これ……どうやって表現したらいいのか、そうとう悩みました。小道具は手作りしたものもたくさんあるのですが、“育成中ってことは、いろいろな大きさのミラーボールの実が必要だよね”、“実の模様も複数あったほうがバリエーションが出るかなぁ”と、あれこれ考えながら何種類もミラーボールを買ってきて、自宅の観葉植物に吊るしてバランスを見るなど、悪戦苦闘しました。
だから、現場で松平さんが“これ、やっぱり面白いね”と笑顔を見せてくださったのは嬉しかったですね。このシーンに限らず、細かい設定を考え抜いたので、読者の方から“写真を見るだけで癒される”、“かなりこだわって作っていますね”などの声をいただけることが励みになっています」
マツケンサンバの世界における暗黙の“掟”とは?
「あと、実は、驚きの事実が判明しまして。マツケンサンバの世界では、剣の使用がNGだったんですよ! 私は、(松平健の代表作である時代劇の)『暴れん坊将軍』とちょんまげのイメージもあって、“剣を使って、殺陣の練習とかをしているシーンも入れられますか”と提案してしまったのですが、“いや、マツケンが持つのは、剣じゃなくてマイクなんだよ。剣は、腰に刺してすらいない。武具もつけない。この世界でのマツケンは、上様ではなく町民だからね”と言われてハッとしました。
つまり、マツケンは雲の上の存在ではなく、もっと私たちに近しい存在なんですよね。だから、ご近所さんと仲良く交流しているシーンを入れたり、住んでいる家の中もどこか庶民的で、ツッコミどころが多々あったり。そういった親しみやすさを大事にして作りました」
なるほど、マツケンサンバの世界には殺伐とした空気など必要なし、どこまでもラブ&ピース街道を突っ走っているのだ。不景気が叫ばれて久しい現代において、その存在がわれわれの心を掴んで離さないのにも頷ける。
インタビュー後半では、脳内科医も太鼓判を押すマツケンサンバ×間違い探しの効能や、撮影現場で山口さんが心を打たれた松平さんのふるまい、マツケンサンバが数十年にわたり愛され続けるゆえんを深堀りしていく。
(取材・文/篠宮 明里)
【INFORMATION】
『マツケンサンバのハッピーまちがいさがし』(松平健著/幻冬舎刊)
定価:1700円+税
A4オールカラー/80頁
《特典》人生は間違いさがしのようなものシール 封入
松平 健(まつだいら・けん)
1953年11月28日生まれ、愛知県出身。’75年にドラマ『座頭市物語 心中あいや節』でデビュー。’78年にドラマ『暴れん坊将軍』の徳川吉宗役に抜擢され、大ブレイク。同シリーズは12作を重ね、放送終了後も人気を誇る。『利家とまつ』『鎌倉殿の13人』などの大河ドラマにも出演。また、’04年にCDを発売した「マツケンサンバII」で紅白歌合戦の出場を果たし、日本レコード大賞特別賞を受賞。令和に入りマツケンサンバは改めて幅広い年代から支持され、第2次ブームを起こしている。
デイリー新潮編集部