●ビデオリサーチがドラマ・バラエティ別ランキング発表

3日、ビデオリサーチが「番組好感度」という見慣れないランキングを公表した。

これは、長年同社が行ってきたテレビ番組に関する評価サービスを約1年前にリニューアルした「コンテンツカルテ」のデータ。テレビ番組や配信コンテンツの総合的な評価や比較ができることを売りにしている。調査は東京50km圏の2,000人を対象に5・8・11・2月の年4回行い、今回は5月度の番組好感度の結果が公表された。

その結果は、ドラマでは1位『虎に翼』(NHK総合)83.7%、2位『アンチヒーロー』(TBS)82.5%、3位『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ)79.5%、4位『ブルーモーメント』(フジテレビ)77.0%、5位『アンメット ある脳外科医の日記』(フジ/カンテレ制作)75.7%。

バラエティは、1位『月曜から夜ふかし』(日テレ)75.1%、2位『水曜日のダウンタウン』(TBS)68.0%、3位『クレイジージャーニー』(TBS)・『マツコの知らない世界』(TBS)67.7%、5位『カズレーザーと学ぶ。』(日テレ)64.7%だった。

このような「番組好感度」、ひいては「コンテンツカルテ」という調査にはどんな意味があり、今後どんな影響が考えられるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

『虎に翼』伊藤沙莉(左)と『月曜から夜ふかし』マツコ・デラックス


○ドラマとバラエティに真逆の傾向

ランクインした番組を見ていくと、「だいたいイメージ通り」という印象があり、意外性はあまり感じなかったのではないか。また、「視聴率や配信再生数の結果に近いかもしれない」という感もある。

一方、番組好感度の数値を見ると、ドラマの5位(75.7%)がバラエティの1位(75.1%)を上回ることから、全体的にドラマのほうが好感度は高く、局やスポンサー企業のイメージアップに貢献している様子がうかがえた。

さらにドラマは、『虎に翼』『花咲舞が黙ってない』『ブルーモーメント』『アンメット』という正義感あふれる主人公の物語、バラエティは『月曜から夜ふかし』『水曜日のダウンタウン』『クレイジージャーニー』という過激さを押し出した構成の番組が目立つ。これは現在の視聴者が「ドラマには正しさや痛快さ、バラエティには毒や本音」という真逆のものを求めていることを示唆しているのかもしれない。

だからと言って、ドラマは正しさや痛快さ、バラエティは毒や本音の番組ばかりになったら、もちろんどちらの好感度も下がり、ランキングの結果も変わっていくだろう。基本的にこのような調査結果は、その時々の風潮や全体の傾向に左右されやすいだけに、将来における絶対的なものにはなりづらい。

ただそれでも、スポンサーにとってはいい目安に、制作サイドによってはいい励みになることは確かだ。

●イメージの重要性が飛躍的にアップ

そもそも世間の人々にとっては、さまざまな番組のジャンルがある中、「調査結果がドラマとバラエティの2つに絞られている」ことに疑問を抱く人もいるのではないか。

もちろん、「視聴率と配信再生数が高い」という事実はあるが、その本質は「各局が稼ぎたいのも、スポンサーが提供したいのも、ドラマとバラエティだから」ということだろう。この2ジャンルでテレビ局は視聴率と配信再生数を狙うのはもちろんだが、局全体のイメージアップやブランディングにもつなげていきたい。一方、スポンサーは視聴率と配信再生数の高さにとらわれすぎず、イメージのいい番組を選んで企業や商品のイメージアップやブランディングにつなげていきたい。

ネットの普及で自由に発言するなど個人の影響力が高まった今、視聴率や配信再生数というデータと同等以上に、テレビ局や企業・商品のイメージが重要になっている。つまり「どれだけ見られているか」だけではなく、「どれだけイメージがいいか」も同じくらい重要という時代になったということだろう。

ビデオリサーチによるコンテンツカルテは、今回公表された番組好感度のほかに、認知度、視聴頻度、視聴経路、イメージなどをまとめた評価と、出演者や企画内容など各項目のクリエイティブに関する評価で構成されているという。さらに、テレビ番組だけでなく動画配信も含めたコンテンツ全体を比較できるようになったほか、調査回数を年2回から4回に、調査サンプル数を約800から約2,000に拡大するなど、かなり力を入れた取り組みと言ってよさそうだ。

特にテレビ番組同士だけではなく、配信オリジナルコンテンツとの比較が可能になり、それぞれの強みや評価の上下動などが把握できるようになったことは大きな進歩。それ以外でも、「この番組はテレビで見られているのか、それとも見逃し配信サービスで見られているのか」「それは視聴習慣によるものなのか、それとも偶然見たのか」などの詳細も把握できるという。

ひいては、視聴者のプロフィールや生活習慣などに関するデータとかけ合わせることで、より番組のポジショニングがクリアになる。いずれにしてもスポンサー企業にとっては効率のいい提供が可能になるだろう。





○テレビ局に都合のいいデータ公表

コンテンツカルテによってスポンサーは、「視聴者にその番組における提供企業として認知されているのか」「それによってどんなイメージを与え、どんな効果を得られているのか」なども知ることができる。

これまで「この番組のスポンサーはこの企業」という印象のひも付けが弱く、その認知や効果はあいまいにされてきた。しかし、もはやそのようなスタンスがスルーされない時代になり、テレビ局にはスポンサー企業が認知や効果を明確に把握できるような工夫が求められていくだろう。

「良くも悪くも各番組の具体的な評価が可視化されるようになった」という点で、スポンサー企業にとって「コンテンツカルテ」はメリットの大きいサービス。また、今回のように「ドラマとバラエティのベスト5」という良いところだけを抽出してニュース化することで、テレビ局にとっても番組のイメージアップやブランディングなどのメリットが得られる。

一方で「視聴者不在」という感が否めないのも事実。営業的な調査でありデータであれば問題ないのだが、外部に公表していくのであれば、都合のいい「ドラマとバラエティのベスト5」だけで納得してもらうことは難しいだろう。

さらに、各自が思う好感度とのズレも、テレビへの疑問や不信につながりかねない危うさを感じさせられる。例えば、今回の結果でも「何でこの番組が入っていてこの番組が入らないのか」「本当にこの番組の好感度が高いのか」などと感じた人は多かったのではないか。

個々の好みが細分化され、多様性の尊重が求められる今、「ドラマとバラエティのベスト5だけを公表」というやり方は時代に合っているようには見えない。実際、テレビ業界に対する世間の目は厳しく、リリースに対して「自分たちの都合で情報操作をしている」などとみなす人も少なくないだけに、データを公表するならできるだけ透明性の高い形を選ぶべきだろう。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら