地下世界の国「聖マーティン」からやってきた「全身緑色の地底人兄妹」が発した「言語」

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 ケンブリッジ大学のコーパス・クリスティ・カレッジには、イギリス初期の歴史を綴った貴重な文献が数多く保存されている。その中の1冊に、ニューバーグのウィリアム修道士が記したとされる「英国事件史(Historia Rerum Anglicarum)」と題された年代記がある。

 実はその中に、未知の国からやってきたという「緑色の肌をした兄妹」の記述が残されている。それが「グリーンチルドレンの伝説」として、今でも語り継がれているものだ。

 年代記によれば、この兄妹がイングランドのサフォーク州にあるウールピットという村に突如として姿を現したのは、12世紀のある日。村が作物の収穫に入った時期だった。

 当時、村には夜な夜な狼が出没し、作物を食い荒らす被害が頻発。村人たちはあちこちに穴を掘り、罠を仕掛けていた。すると、罠を仕掛けた穴から出てきたのが、その兄妹だった。

 彼らを見た村人たちは言葉を失った。なぜなら、奇妙な服をまとった2人の肌は、顔も手も全て緑色。しかも2人の口から発せられる言語は、聞いたことのない未知のものだったというのである。

 2人は保護された後、村の有力者の家に引き取られたが、食料を与えても何も口にしようとしない。唯一、サヤを剥いて豆を見せると、突然それをむさぼり始め、しばらくは豆以外のモノを口にしなかったという。

 しかし、やがて衰弱により、男の子は死亡。残された女の子が徐々に覚えた英語で話し始めたのが、自分たちは地下世界にある聖マーティンという国からやってきた「地底人」…というものだった。世界の伝承に詳しいジャーナリストが解説する。

「この話はウィリアム修道士だけでなく、コギシャル修道院長のラルフも同様の話を書き残しているんです。ウィリアムの記述は1220年に出版され、当時は大変な話題になったといいます。ただ、これが実際の出来事なのか、あるいは作り話なのかをめぐって、諸説入り乱れることに。兄妹の体が緑色だったのは砒素中毒だったからだ、という説のほか、実は2人の世話をしていたノーフォーク州の伯爵が、邪魔になった2人を森の中に置き去りにして殺そうとした、といったものまでありますね」

 事実であるなら、2人はいったいどうやってウールピット村にやってきたのか、なぜ全身緑色で、聖マーティンがどこにあったのか…謎はより深まる。イギリスでは時を経てもなお語り継がれる、ミステリーなのである。

(ジョン・ドゥ)