じつは暑い「赤道直下」ではなく、地球の緯度30度前後に「砂漠が集中」している「意外すぎる理由」

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「謎解き・海洋と大気の物理」、「謎解き・津波と波浪の物理」で知られるサイエンスライター保坂直紀氏による『地球規模の気象学』。

風、雲、雨、雪、台風、寒波……。すべての気象現象は大気が動くことで起こる。その原動力は、太陽から降り注ぐ巨大なエネルギーだ。

赤道地域に過剰に供給された太陽エネルギーは大気を暖め、暖められた大気は対流や波動によって高緯度地域にエネルギーを運ぶ。

ハドレー循環やフェレル循環、偏西風が、この巨大な大気の大循環の中心を形作る。大気の大循環を理解すれば、気象学の理解がより深まるはずだ。*本記事は、保坂 直紀『地球規模の気象学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

地球にはいつもきまった風が吹いている

東京の羽田空港から太平洋を越えてアメリカのワシントンに飛行機で行くとしよう。直行便だと13時間ほどでワシントンに着く。ところが、ワシントンから羽田までは14時間あまり。行きより帰りのほうが時間がかかる。

それは、この旅客機が飛ぶ中緯度の上空1万メートルのあたりには、つねに東向きの強い風が吹いているからだ。季節によって西向きになったりはしない。アメリカへ東向きに飛ぶ飛行機にとってはいつも追い風で、反対に日本に来る飛行機は風に逆らって進むことになる。

この風は、中緯度上空を、地球をぐるりと一周するように吹く大規模な流れだ。この流れを「偏西風」という。偏西風のなかでもとくに流れの強い部分は「ジェット気流」とよばれており、高度1万メートルくらいにある。ジェット機が飛ぶ気流というわけではない。液体や気体の細く強い流れを意味する「ジェット」が地球の大気のなかにできているのだ。

このように、地球には、いつもきまった風が吹いているところがある。人々は古くからそれに気づいていた。いまから600年ほど昔の15世紀に始まった大航海時代。ヨーロッパからアメリカ大陸へ大西洋を西に進む帆船は、熱帯付近の低緯度にいつも吹いている東寄りに吹く風を利用したという。この風が「偏東風」だ。

この偏東風は「貿易風」とよばれることもある。これは英語の「トレード・ウィンド(trade wind)」の直訳だ。いまでこそ「トレード」といえば「貿易」だが、もともとは「通り道」を指しており、むかしは「定風」「恒信風」とよばれていた。帆船がいつもおなじ進路をとれるくらい、一定の向きに吹いている風という意味だ。

地球の風は、わたしたちの身の回りでは、あちらに吹いたりこちらに吹いたり変化が激しいが、それでも大局的には、いつもおなじように吹いている。去年と今年とでまったく違ってしまったということはない。それが偏西風や偏東風であり、こうした風は、地球の気候とも深い関係にある。

中学や高校の地理で「ケッペンの気候区分」(図1─1)を習う。西岸海洋性気候、熱帯雨林気候といった言葉に覚えがあるだろう。これは、ロシアに生まれたドイツの気候学者ウラジーミル゠ペーター゠ケッペンが20世紀初めに提唱したものだ。ケッペンは世界の各地域が違った植生をもつことに注目し、木や草の生育に影響が大きい「気温」と「降水量」をもとに、世界を五つの気候帯とそれを細分した13の気候区に分けた。

この気候区分では、赤道に沿って熱帯気候が広がり、その高緯度側には順に乾燥帯気候、温帯気候、亜寒帯気候、寒帯気候が並ぶ。南半球に亜寒帯気候はない。

「ケッペンの気候区分は、そのような気候帯が生ずるしくみに触れていないので、なぜそうなるかが理解できない」「四国と東北がおなじ気候区といわれても、実感と合わない」といった批判はあるが、それでも、地球の気候をおおまかに可視化した意義は大きいだろう。

大気は上昇し、下降する

地球規模の大きな大気の流れを大循環とよぶことは、「まえがき」でお話しした。大循環の物理から考えると、さきほどの偏西風と偏東風は、それぞれ別のしくみで生じている。そのしくみを理解することで、地球の気候がケッペンのように分けられる理由がわかる。実態と理由がここで結びつくわけだ。その話は、第2章から先で詳しくしていくことにして、ここではまず、地球規模で風はどのように吹き、それにどういう名前がついているのかをみておこう。

まず、北半球の地上付近を吹く風からみていこう(図1─2)。赤道付近から亜熱帯にかけての領域では、北東から南西に向けた風が吹いている。これが「北東貿易風」だ。さきほど偏東風と説明した風は、この北東貿易風を指している。亜熱帯から亜寒帯にかけての中緯度帯で優勢なのは、南西から北東に向けて吹く風だ。それより高緯度側には、北東貿易風と似た「極偏東風」が吹く。このように、緯度帯によって別の特徴をもった風が吹いているわけだ。

では、上空にはどのような風が吹いているのだろうか?

熱帯から亜熱帯にかけての地上付近では北東貿易風が吹くが、上空では、逆に南西から北東に向けた風が吹いている。この風が亜熱帯付近で下降し、地上付近で赤道に向けて戻る。この戻りが北東貿易風なのだ。赤道近くでこれがふたたび上昇し、また亜熱帯に向けて上空を北東向きに流れていく。この閉じた空気の循環にはハドレー循環という名前がついている。

中緯度の上空で優勢なのは、西から東に地球をぐるりと一周する「偏西風」だ。偏西風は蛇行して流れることが多く、そこには高気圧や低気圧が複雑に発生するので、平均すると上空では北から南に向けた流れがみられる。地上では北向き、上空では南向きのこの循環はフェレル循環とよばれている。その高緯度側の上空は極に向かう風。ここにも循環ができていて、それが極循環だ。

さきほど、偏西風や偏東風などの風は気候とも深い関係にあると述べた。これについても、すこし触れておこう。

ハドレー循環は、亜熱帯の緯度で下降する。大気の気圧は地面に近いほど高いので、空気が下降してくると、その空気は圧縮されて温度は上がる。温度が上がると、その空気が含むことのできる水蒸気の量は増える。したがって、降水量は少なく、よく晴れる。

降水量が少なく晴天が多ければ、その土地は乾燥する。ケッペンの気候区分で熱帯気候の高緯度側、つまり亜熱帯の緯度帯が乾燥帯気候と名づけられているのは、そういう理由だ。アフリカ北部のサハラ砂漠やオーストラリアにある数々の砂漠、アフリカ南部のカラハリ砂漠。雨が少なく砂や岩石でおおわれたこれらの砂漠は、暑い赤道直下ではなく、いずれも30度前後の緯度にある。ちょうどハドレー循環で気流が下降してくる位置だ。

ハドレー循環の下降域である亜熱帯から中緯度にかけては高気圧におおわれていることが多く、この緯度帯を気象学では「亜熱帯高圧帯」「中緯度高圧帯」とよぶ。

赤道付近には「熱帯収束帯」がある。ハドレー循環による地上付近の風は、北半球では北から、南半球では南から吹いてくる。だから赤道付近でぶつかる。ぶつかって行き場を失った風は上昇する。上昇すれば雲ができる。ただでさえ海面の水温が高く、海水の蒸発がさかんな緯度だ。

雲の原料になる水蒸気がたっぷり供給され、もくもくと雲が立つ。そうした積乱雲が台風などの熱帯低気圧の卵になる。「収束」とは、流れが周りから集まってくるという意味だ。

さらに続きとなる記事<まるで「ガラスの天板」…あまりにも「予想外」過ぎた「台風」の「真実の姿」>では、台風について詳しく解説しています。

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