年金「保険料納付期間5年延長案」に”物議”のウラで、夫婦で「年金を増やす働き方」で「生涯年収が5億円を突破する」テクがあった…!

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物価高と円安が家計を直撃するなか、2024年度の公的年金額は昨年より2.7%増額した。しかし、この増額は決して喜べるものではない。現役世代の賃金の上昇率が3.1%で物価上昇率の3.2%に追いついていないことから、年金の上昇率は0.4%抑えられ、実質目減りしていたのである。

果たして、年金制度は今後どうなっていくのか。目減りする年金を増やす方法はあるのか。『60歳からの得する年金 働きながら「届け出」だけでお金がもらえる本 2024-25年 最新版』の監修者で、特定社会保険労務士の小泉正典氏に聞いた。

5年に1度の「財政検証」、予定される年金試算とは…?

公的年金制度は時代とともに改正され、社会情勢や人口構成にあった形にアップデートされている。2022年の改正では「繰り下げ制度の拡大」や、65歳以降も会社員として働く人の年金が毎年増える「在職定時改定制度」などが話題となった。

今後も、ハイスピードで進む少子高齢化に合わせて制度の改正が見込まれるが、今年は、“年金の健康診断”ともいうべき5年に1度の「財政検証」が行われる。

今年の財政検証では、おもに次のような試算が予定されている。

(1)国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を40年から45年に延長

(2)在職老齢年金のしくみ緩和

(3)厚生年金の加入可能年齢を70歳から75歳までに引き上げ

(4)社会保険のさらなる適用拡大

(5)厚生年金の標準報酬月額上限の見直し

(6)マクロ経済スライドの調整期間の一致

これらの試算の中で特に注目されているのが、ニュースでも大きく取り上げられ物議を醸した「保険料納付期間の5年延長」だ。現在、国民年金の納付期間は20〜60歳までの40年間だが、厚生労働省はこれを20〜65歳までの45年間に延長した場合の影響を試算することを決めた。これには現役世代を中心に、「将来もらえるかどうかもわからないのに、負担ばかり増える」と拒否反応を示す人が多い。

果たして、実際はどうなるのか。

「負担増」を鵜呑みにするな! むしろ「メリット」も

社会保険労務士の小泉正典氏は「負担が増える人は、実はあまり多くない」という。

「保険料納付期間が45年になった場合、国民年金保険料を60歳から65歳までの5年分支払うと、約100万円の負担増といわれています。この保険料を負担するのは自営業者などの第1号被保険者や、60歳になって会社員の配偶者の扶養からはずれて第3号から第1号被保険者に切り替わる人などが想定されます。

大多数を占める会社員については、負担は増えません。それどころか、60歳以降も働いて厚生年金保険料を納めても増えなかった基礎年金部分が増えるので、むしろメリットといえます」

最近は、高齢者雇用安定法で65歳までの雇用確保が義務化され、70歳までの就業確保が努力義務化されたことで、定年を迎えても再雇用や継続雇用で65歳、あるいはその先まで働く人が増えている。令和5年度版「高齢社会白書」によると、60〜64歳で働いている人の割合は男女計で約7割に達している。

こうした60歳以降も会社で働く人は、企業規模や労働時間数などの基準を満たしていると厚生年金保険料が給料から天引きされる。しかし、現状は、保険料をいくら払い続けても基礎年金の部分は40年(480月)分以上増えることはない。60歳未満の人と同じ保険料を天引きされていたとしても、増えるのは厚生年金部分だけなのだ。

「つまり、厚生年金保険料を納めながら60歳以降も働いている人にとっては、今のほうが払い損になっているというわけです」(小泉氏)

さらに、小泉氏は負担が増えるとされる自営業や、60歳で第3号被保険者資格を喪失した人も、必ずしも100万円負担が増えるわけではないという。

「たとえば、自営業や第3号被保険者資格を喪失した人が60歳以降は働かず収入がないといった場合は、保険料の免除申請をするという方法が考えられます。手続きをせずに保険料が未納になると年金は増えません。

しかし、免除申請を行えば、保険料が全額免除になる可能性もあります。そして、全額免除された期間は保険料をまったく納めなくても、納めた人の半額分、基礎年金が増えるのです」

世間では「負担増!」と騒がれている保険料納付期間延長案だが、実はそこまで大騒ぎすることではないらしい。

配偶者の働き方で年金激変。「真の働き損」世帯は…?

一方で、小泉氏は今後、配偶者の扶養で保険料負担のない第3号被保険者の見直しや加給年金の見直しなど、片働き世帯や一部の年の差夫婦を優遇するような制度が早期に見直されるだろうと予想する。

「すでに、社会保険適用拡大によって配偶者の扶養内で働こうと労働時間や収入調整をしている世帯をなくそうという動きが始まっています。2024年10月には従業員51人以上の会社で週20時間以上働き、年収106万円以上になる人は、社会保険料負担が発生します。適用拡大によって、収入調整をして社会保険料を節約しているような世帯がどんどんあぶりだされ、事実上、本当に働けない人以外は社会保険料負担が発生する方向に進んでいます」

一定の収入を超えると税金や社会保険料の負担が発生するため、超えないギリギリの収入ラインのことを「年収の壁」という。実は、第3号被保険者のうちまったく働いていない人は4割ほどで、6割はパートなどで働いている。働く第3号被保険者の収入額は、税金も社会保険料もかからない100万円前後に集中しているという。

「『年収の壁』内で働く場合、手取りが増えてお得という認識があるようです。しかし、長い目で見ると、将来の年金が少なく、壁を超えて働いた人に比べて生涯手取りは大幅に減ってしまいます。実は社会保険に加入しない働き方こそ、働き損ともいえるのです」

2024年3月に東京都の「東京くらし方会議」が、夫婦の就業パターン別生涯収入の試算を公表したが、その結果がまさに壁を超えない働き方がいかに「働き損」かを物語っている。

「東京くらし方会議」の資料によると、夫婦世帯で夫の収入が同一で、妻の働き方が異なる場合、生涯年収に最大1.9億円もの差がついてしまうのだ。共働きでも妻が第3号被保険者の世帯では、年金だけでも3000万円ほど少なくなると試算されている。

[東京くらし方会議による生涯手取り年収試算]

(1) 出産後育休し、同じ職場で働き続けた場合

世帯の生涯手取り年収 約5.1億円(年金 約1億円)

(2) 出産で退職し、子どもが10歳で再就職。年収300万円で働いた場合

世帯の生涯手取り年収 約3.8億円(年金 約9千万円)

(3) 出産で退職し、子どもが10歳で再就職。年収100万円で働いた場合

世帯の生涯手取り年収 約3.5億円(年金 約7千万円)

(4) 出産で退職し、再就職しなかった場合

世帯の生涯手取り年収 約3.2億円(年金 約7千万円)

※参照:東京都・都政レポート

「共働きするならば、夫も妻も年収の壁にこだわらない働き方のほうがお得です。どうしても扶養内で働きたいという人は、配偶者の年金の扶養からはずれる60歳からでも、社会保険に加入して働くことを検討してもよいと思います」

惑わされるな! 「共働き」の年金額はもっと増やせる

2024年のモデル年金額は、夫婦世帯で23万483円となっている。この金額を見て、物価高の世の中で、夫婦2人で月23万円ではゆとりある生活は到底無理だとがっかりする人も多いだろう。

しかし、このモデル年金とされている金額は、「現役時代の職業が会社員の男性と無職の女性の夫婦」を想定して計算されている。日本人夫婦の7割が共働きという現代では、多くの夫婦の年金がもっと高くなる可能性がある。

厚生労働省の第15回社会保障審議会年金部会の資料によると、今後は、このモデル年金額も多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方が検討されており、その例が下記のように示されている。

[共働き世帯の年金給付額イメージ(抜粋)]

男性の平均的な収入の1.25倍(*1)+女性の平均的な収入の1.25倍(*2)の夫婦

⇒ 合計年金額 33万4721円

男性の平均的な収入(*3)+女性の平均的な収入(*4)の夫婦

⇒ 合計年金額 29万4977円

男性の平均的な収入の0.75倍(*5)+女性の平均的な収入の0.75倍(*6)の夫婦

⇒ 合計年金額25万5232円

男性の平均的な収入+短時間労働の平均的な収入(*7)

⇒ 合計年金額26万967円

(*1) 54.9万円 (*2 )37.4万円 (*3) 43.9万円 (*4)30.0万円 (*5)32.9万円 (*6)22.5万円 (*7)14.2万円 数値は平均標準報酬(賞与含む月額換算) 年金額は令和6年度の水準

このように、妻が短時間労働でも社会保険に加入して働いていれば、モデル年金額より夫婦の年金額イメージは3万円ほど高くなる。あたりまえではあるが、夫婦でしっかり働いたほうが、将来もらえる年金額はより多くなるのだ。

「国民年金は、一度もらい始めると金額を増やすことができません。しかし、厚生年金は、65歳で年金をもらい始めた人でも70歳になるまで加入でき、保険料を納めた分が増額するしくみがあります。長生き時代の老後を豊かに暮らすには、夫婦で厚生年金に加入し、現在の手取り額のみならず生涯手取り額を増やすことが重要だといえるでしょう」

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