パソコンやネット業界で活躍する暴力団員は今に至るまで登場していないという(写真はイメージ)

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 警視庁がまとめた全国の暴力団情勢によると、2014年までは六代目山口組、稲川会、住吉会を主要3団体としていたが、2015年以降は、六代目山口組の分裂騒動の影響で神戸山口組が追加されて主要4団体となった。2021年以降は、絆會と池田組も追加された6団体を「主要団体等」として認定している。(藤原良/作家・ノンフィクションライター)

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【写真をみる】「PDFって新種のドラッグ?」 暴力団員の“ネット音痴”エピソードがヤバすぎる

 その構成員等の総計は1万6000人以上とされており、暴対法の規定に基づいて2023年以降は主要6団体を含む25団体が「指定暴力団」としての指定を受けている。

 こういったデータだけで判断すると、いまだに暴力団業界は活気づいているように見受けられる。とはいえ組員の高齢化や組員数の減少が目立つ暴力団業界で、最前線の現場はいかなる状況なのだろうか?

 例えば、暴力団とITの関係だ。時代の流れに沿って暴力団員たちもパソコンやネットに一応の関心を見せてはいた。特に携帯電話が全国に普及した2000年頃から「これからはパソコンの時代だ!」と若手組員をコンピューター専門学校で学ばせた組長もいた。

パソコンやネット業界で活躍する暴力団員は今に至るまで登場していないという(写真はイメージ)

 だが、パソコンやネット業界で活躍する暴力団員は今に至るまで登場していない。暴力団の業界全体に話を拡げても、優秀なPC技術者やプログラマーなどが輩出されたことは一切ない。

 暴力団員はサイトを利用しようとしても、登録時の身分認証がクリアできない。また自分名義ではスマホすら所有できない。今やネット社会から完全に取り残された存在だと言っても過言ではないのかもしれない。

 お年寄りがスマホを巧く使えないように、高齢の暴力団組長がネットの常識を理解できないのは仕方ないだろう。

組長の無知に悩む若手組員

 ところが40代の「若手組長」と呼ばれる面々でも、時代から取り残された暴力団業界に身を置いているせいで、ネットやパソコンについての知識と経験が一般の40代会社員と比べて著しく低い。これも暴力団業界の常識だ。

 ワードやエクセルの存在すら知らない若手組長もいる。彼らのレベルは「PDFとは新種のドラッグか?」──と本気で勘違いしてしまうほどだ。こういった状況は、社会のネット化が急速に進む中で、暴力団員たちの大多数が時代の流れに乗り遅れてしまったひとつの現れだと言わざるをえない。

 確かに暴力団業界は、一般社会とは大きく異なっている。だからPCスキルなど必要ないとタカをくくることもできる。

 しかし、組長クラスがこれだと困るのは若手組員たちである。「組長と会話がまったく噛み合わない」と、コミュニケーションに悩む若手組員たちも多い。

 一般企業や役所なら、40代の上司と20代の部下がネットやSNSなどの話題で気さくに会話をすることもよくある日常のひとコマだ。ところが、暴力団業界ではこれがわりと難しいのである。

シノギの開拓にも弊害

 ある日、スマホのトラブルについて「20代なら知ってるだろ」というノリで40代の組長から質問を受けた若手組員は当然のように「フリーズが起きた時はストレージを開いてキャッシュを削除するか、再起動を試せば復帰できると思います」と説明した。

 だが長期服役のせいで、ずっと一般社会から離れていたこともあり、ネットになじみがない若手組長は「ストレージって何だ?」、「キャッシュって現ナマ払えってことか?」「再起動なんかしたら中身が壊れるだろ? いいのか?」といった疑問を連発した。もはや若手組員は呆れるのを通り越し、恐怖すら感じたという。

 こうなると、もはやジェネレーションギャップといったレベルではない。そして、こうした状況は、暴力団が新しいシノギを開拓しようとした際にも大きな弊害になっている。

 一般社会の若者と同様に、ネットビジネスへの新規参入を図りたい若手組員としては、組長にアイディアを懸命に説明する。だが組長の知識不足による理解力の欠如から、ゴーサインが出ることも、応援してくれることもなかなかない。若手の結論としては「ネットビジネスを諦める」か「こっそりやるしか仕方ない」となってしまう。

暴力団業界にはびこる「無知」

 極端な話をすれば、非合法ビジネスでもやってのける暴力団業界で働いているはずなのに、合法のネットビジネスは立ち上げを諦めざるを得ない。

 組長に内緒にしてネットビジネスを始めれば、バレたときが大変だ。組長は自分の知識不足、勉強不足は棚に上げ、若手組員が秘密にしていたことだけをネチネチと説教する。若手組員は「たまったもんじゃない」となってしまう。

 結果、いつまでたっても兄貴分がやっている昭和のシノギの手伝いをやらされたり、ハイリスクな非合法ビジネスに手を染める毎日が繰り返されていくばかりだ。

 若手組員は犯罪ではなく、合法的なビジネスにチャレンジしようとしている。組としては応援すべきなのだが、それがネット関連となると、途端に「無知」が災いして頓挫してしまう。これは暴力団業界にとっては、明らかなマイナスだろう。今のところ、暴力団業界が多少でも第4次産業革命(IT革命)の恩恵に与る可能性はとても低い。

 こういった問題に気づいている若手組長もいる。「若い衆は自分の組長ひとりだけを見ていればそれでいいが、組長は若い衆全員のことを気にかけてならなきゃならない」と彼らは言う。

進む高齢化

 言葉を額面通りに解釈すれば、「組長は組員の面倒を見るべき」という意味になる。だが、それだけではない。組長たる者は襟を正して組員と接しなければ、組織として先はないというニュアンスも込められている。そのためには時代の流れを敏感に察知して対応することが重要だ。

 しかしながらIT関連となると、どうしても理解が足りない。これは暴力団業界の高齢者層だけでなく、若手の組員や組長でも認められる現象なのだ。

 そもそも暴力団業界では関係者の高齢化が進んでいる。後編では暴力団における介護問題をレポートする。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』(以上、太田出版)など。

デイリー新潮編集部