ドリカムからSMAP、ミスチル、宇多田ヒカル、米津玄師まで…「朝ドラ史上最高のJポップ主題歌」を決めよう

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NHK朝ドラとJポップ主題歌

現在、テレビで最もよく流れるJポップ。それがNHK朝ドラの主題歌だ。

昭和の時代は歌詞のないインストゥルメンタルが多かったが、平成に入ってから、Jポップ系の歌手が担当することが増え、令和になってからはすべてがそのパターン。今、放送されている「虎に翼」では、米津玄師の「さよーならまたいつか!」が使われている。

その米津は作詞作曲も手がけたこの作品について、こんな発言をした。

「毎朝聴けるような、軽やかかつ爽やかさな何かが必要なんだろうなって。けっこう夜型の人間なので、自分にとってはチャレンジでした」(「あさイチ」NHK総合)

この気持ちはなんとなくわかる。彼のような現在のJポップ有数の才人にとっても、朝ドラ主題歌には構えてしまうものがあるのだろう。

とはいえ、もともと、タイアップは得意。代表作「Lemon」はドラマ「アンナチュラル」(TBS系)の主題歌だったし、その後「〈NHK〉2020応援ソングプロジェクト」という、漠然としたコンセプトの仕事も見事にこなしてみせた。

小中学生による音楽ユニット「Foorin」を人選段階からプロデュース。童謡とダンスを融合させた「パプリカ」は当初違和感も抱かせたが、徐々に浸透していき、日本レコード大賞に輝くヒット曲となった。

今回の「さよーならまたいつか!」は「パプリカ」ほどのインパクトはないが、彼ならではのテイストに朝ドラっぽさを盛り込んだ作品に仕上がっていて、まずまず好評のようだ。

そんなJポップ系朝ドラ主題歌の最初の成功例が「晴れたらいいね」(DREAMS COME TRUE)。1992年度後期の「ひらり」で使われ、オリコンシングルチャートの1位を獲得した。転調の多用や歌詞と旋律の不一致をクラシックの重鎮・黛敏郎から批判されたりもしたが、その自由で冒険的なところが支持されたともいえる。

ドリカムが苦手な筆者も、このグループのタイアップの上手さは認めざるをえない。95年には「愛していると言ってくれ」(TBS系)の主題歌「LOVE LOVE LOVE」を大ヒットさせたし、18年度後期の朝ドラ「まんぷく」にも主題歌「あなたとトゥラッタッタ♪」を提供。現時点で、朝ドラ主題歌を二度担当したアーティストはドリカムだけだ。

そんなドリカムの吉田美和が憧れていたのが、松任谷由実。94年度後期から95年度前期の朝ドラ「春よ、来い」で同名の主題歌を手がけ、のちに教科書に載るほどのヒット曲にした。

なお、NHKは昔、出演させる歌手に厳しい基準を設け、歌唱力などを判定するオーディションを行っていたが、駆け出しの頃のユーミンはこれに落ちている。「春よ、来い」での成功は、そのリベンジともなったことだろう。

そして、ドリカムとユーミン、このふたつの成功が、朝ドラ主題歌といえばJポップという流れにつながっていく。2000年度後期の「オードリー」では倉木麻衣、01年度前期の「ちゅらさん」ではKiroroが手がけ、ともにヒット。じつは現在「オードリー」も「ちゅらさん」もNHKの再放送枠で見ることができる。どちらも朝ドラらしさをいっそう高める名曲だ。

あなたの好きな朝ドラ主題歌は?

では実際のところ、どんな朝ドラ主題歌が人気なのか。

少し古いが、2018年の12月「あさイチ」(NHK総合)で「あなたの好きな朝ドラ主題歌は?」というアンケートが実施され、ベストテンが発表された。10位から4位までは、こんな結果だ。

10位 「若い広場」桑田佳祐「ひよっこ」 130票

9位 「あなたとトゥラッタッタ♪」DREAMS COME TRUE「まんぷく」 147票

8位 「にじいろ」絢香「花子とアン」 150票

7位 「花束を君に」宇多田ヒカル「とと姉ちゃん」 163票

6位 「雨のち晴レルヤ」ゆず「ごちそうさん」 166票

5位 「麦の唄」中島みゆき「マッサン」 186票

4位 「アイデア」星野源「半分、青い。」 214票

ここまでが紹介されたあと、いよいよベスト3へ。

3位 「ありがとう」いきものがかり「ゲゲゲの女房」 272票

2位 「365日の紙飛行機」AKB46「あさが来た」 324票

1位 「さかさまの空」SMAP「梅ちゃん先生」 501票

という結果となった。

ちなみに、この時期以降の作品は当然ながら入っていない。19年度前期「なつぞら」のスピッツのあと、Superfly、GReeeeN、秦基博、BUMP OF CHICKEN、AI、三浦大知、back number、あいみょん、中納良恵・さかいゆう・趣里、そして米津が担当しているが、同じアンケートをまた実施したら、ベストテン入りする作品もあるだろう。

ただ、ベスト3を揺るがすところまではいかない気がする。「梅ちゃん先生」「あさが来た」「ゲゲゲの女房」はいずれも朝ドラ史に残る名作だし、その主題歌もそれぞれ、そこにふさわしい名曲だからだ。

注目したいのは、1位と2位が独唱ではなく、アイドルグループによって歌われた、比較的わかりやすい曲調だということ。朝ドラ主題歌は、みんなで口ずさめるものがより愛されやすいようだ。

とはいえ、この結果には地の利ならぬ、タイミングの利のようなものも働いている。SMAPは解散して2年足らず。ロス状態が続いていたことが、投票意欲を後押ししたとも考えられる。

また、4位以下にも、今だとどうだろう的なものがある。ゆずの「雨のち晴レルヤ」だ。

この朝ドラでは、ヒロインの杏と相手役の東出昌大が放送中から熱愛に落ち、その後、結婚。ドラマと同じ展開で盛り上がったが、20年に東出の不倫がきっかけで離婚にいたった。雨のち晴れ、どころか、大嵐が吹き荒れたわけで、ドラマや主題歌の印象もやや冴えないものになってしまったのではないか。

それはさておき、番組では1位が発表される前、MCの博多華丸が「ミスチル」の「ヒカリノアトリエ」だと予想。16年度後期の「べっぴんさん」でMr.Childrenが手がけた主題歌を推したが、こちらは12位にとどまった。

ミスチルも「べっぴんさん」も好きな筆者にとっても少し残念だったものの、これは妥当な結果だろう。桜井和寿もまた、タイアップの名手だが「ヒカリノアトリエ」に関しては、その才能を発揮しきれなかった。それくらい、朝ドラ主題歌は作るのが難しいということでもある。

朝ドラ史上最高のJポップ主題歌は?

なお、このときの「あさイチ」は松たか子がゲストだった。彼女は17年度後期「わろてんか」で主題歌「明日はどこから」の作詞作曲歌唱を担当。朝ドラ主題歌の難しさについて「課題をもらいながら、作っては渡し、直しをもらいながら」という裏話を明かしていた。

吉本興業を作った女性の物語だと聞かされ、作り始めたものの、

「最初、涙はどこから、っていう歌詞だったんですよ。でも、朝で涙はちょっと、って言われて。でも、涙とかつきものじゃないかな、そこから笑いが生まれるはずだ、と思って書いたんですけど。涙を明日に変えたんです」

とのこと。依頼したアーティストのキャリアなどにもよるのだろうが、NHKも主題歌を重要視して、可能な限り、注文をつけるのだろう。

そういう意味では、自作自演型のアーティストであっても職業作家的な才能が必要。もっといえば、作詞作曲と歌唱が別々のほうがよいのかもしれない。

ひとりで全部やってしまうと、個のパワーやオーラで押し切ることになり、それがアクの強さにもつながるからだ。その「アク」を好む人はともかく、そうでない人はドラマ自体からも離れたりして、それこそ「悪」にもなりかねない。

そんな視点でベスト3を見ると、いずれも作詞作曲と歌唱が別々だ。みんなで協力して作る、という構図のものが上位を占めたのは興味深い。

なかでも、3位の「ありがとう」を手がけたいきものがかりは、SMAPやAKBのようなアイドルグループではない。とにかく推しのために投票するというファンが支えたというより、ファン以外の無党派層からも幅広く得票したのではないか。

また、いきものがかりは当時、デビュー5年目で、主に作詞作曲を手がける水野良樹もボーカルの吉岡聖恵もまだ20代。功成り名遂げたベテランが担当するケースと違って、新鮮味もあった。唯一惜しまれるのが、尺の都合上、Bメロがカットされていることだが、これは主題歌あるあるなので仕方ない。

ちなみに「ありがとう」が使われた10年度前期の「ゲゲゲの女房」は朝ドラ史におけるルネサンス的作品。本放送の開始時間が48年ぶりに変更され、それまでの8時15分から8時になった。これが奏功したのか、低落傾向だった視聴率も回復することに。伸び盛りのアーティストが主題歌を手がけたことも、朝ドラのイメチェンにつながったのだろう。

いきものがかりは昨年10月「あさイチ」に出演。水野は「作っていたときは手ごたえがなかった」としつつも、サビの「♪ありがとう〜」が「♪ドレミファソ〜」でできていることなど、この曲の親しみやすさの秘密を明かした。

そういえば、近年では珍しく、インストゥルメンタルで作られた13年前期「あまちゃん」のテーマ曲も「ドレミファソラシド」から入り、その最もキャッチ―なリフレインは「ドレミ」の3音階だけで成立している。面白い共通点だ。

一方、結婚や出産を経験した吉岡は「ありがとう、って伝えたくて」という歌詞について、改めて実感していることを強調していた。

たしかに「ありがとう」というタイトルにもそこに描かれる世界にも、日本語の美しさや日本人の優しさが凝縮されている。それゆえ、この曲は「NHK紅白歌合戦」で二度歌われ、朝ドラ主題歌としては初めて「春のセンバツ」入場行進曲に選ばれるなど、国民的愛唱歌のようなところにも到達できたのだろう。

そんなわけで、朝ドラ史上最高のJポップ主題歌は「ありがとう」に決めたい。そのド直球な明るさや爽やかさ、前向きさこそ、朝ドラに最も期待されるものなのだ。

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