経済的繁栄は、ネットは、人々を「幸福」にしたか? 幸せを感じるのは人間の心だ

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金持ちになれば幸せか?

「大原浩の逆説チャンネル<第60回>運は親切をした相手の背中から来る。だが、どの集団に属するかが大事」や3月17日公開「成功者は他人の成功を喜べる、そして他人を助けることが好きだ」などで紹介した「客家大富豪の教え」は、「成功するための『心構え』=『心の問題』」に触れてはいるが、あくまで「経済的成功」が主題の本である。

「<第23回>宗教とビジネス、スティーブ・ジョブズと仏教 特別対談:大原浩×沼田功(その2)」など「大原浩の逆説チャンネル」にもよく登場する、私が執行パートナーを務める人間経済科学研究所フェローの沼田功は、サイバーエージェントや楽天など約70社の上場を手掛けた「伝説の公開請負人」である。同時に、真言宗の寺で修行した「僧侶」という異色のキャリアを持ち、現在では「宝瑞院」の副住職でもある。

その彼が述べるのは「古代では、その気になれば山奥に籠って、世間の経済活動から隔絶した生活を過ごすことが可能でした。しかし、現代ではそのような生活は現実的ではありません。生命を維持するために、お金を稼ぎ、そのお金で食料を購入し、水やエネルギー(電気・ガスなど)を手に入れなければならないのです。したがって、人生の第一段階は『経済的成功』から始まるのです」ということだ。

彼が、「お金の密教」という講座を開いたのも、このような趣旨からだといえよう。

この話を私が聞いた時思い浮かべたのは、真言宗の開祖空海の唱えた「十住心論」である。

この「十住心論」は、第1段階「異生羝羊心=煩悩にまみれた心」、第2段階「愚童持斎心=道徳の目覚め・儒教的境地」から始まって、第10段階「秘密荘厳心 =真言密教の境地」に至る。信徒以外から見ると第十段階は我田引水のようにも思えるが、全体として真理をついていると感じる。

人間は「成長」するからすごい

伝説では、老子はおぎゃあと生まれた時から白髪の老人であったとも言われるが、現実にそんな人間が存在したら驚きだ。

誰もが赤ん坊からスタートするわけだが、2歳半くらいまでは同年代のチンパンジーの方が賢いというのが、数々の科学的観察・実験が示す結果である。

人間は極めて社会的な動物であり、(社会の中で)学びながら成長するから、チンパンジーを上回る知能を得ることができる。その点で空海が唱える、人間は「動物的」な存在から「(高度な)精神的」な存在へと成長すると説く「十住心論」は極めて説得力がある。

経済的にはすでにベンチャー・キャピタリストとして大成功を収めたといえる沼田も、現在では「宝瑞院」の副住職としての活動に軸足を置き始めている。興味のある方は、彼の多数の「研究レポート」を参照いただきたい。

また、前記「客家大富豪の教え」にも、「客家大富豪に学ぶ TAO・永遠の成功のための18法則」という続編が存在する。

この続編では、経済的成功もさることながら、どうすれば「主観的に幸せ」になれるのかという問題にスポットライトが当てられている。

「(世間でよく言われる)客観的な成功の基準」が満たされても、本人が幸せとは限らない。結局のところ、2020年12月4日公開「仮想現実に覆われたこの世界で認識を変えれば覇者になれるのか」や、2021年6月26日公開「ビジネスも、投資も、認識を変えれば成功が手に入る…現代に生かす『唯識論』」で述べたように、「宇宙という広大な世界でさえ、自分の『意識』を通じてしか見ることができない」のであるから、幸せも自分の「意識=心」に左右されるということだ。

「北朝鮮」と「明るい北朝鮮」

さて、がらりと話題が変わるが、世界で最も国民が不幸な国はどこであろうか? 多くの「独裁国家」が頭に浮かぶであろう。北朝鮮を思い浮かべる読者も少なくないはずだ。共産主義国家を標ぼうしているのに、祖父−子−孫と三代にわたって統治権力が世襲されている点が「独裁」の象徴と思われている。

だが、実は世間的には自由主義陣営と思われているシンガポールも「明るい北朝鮮」と揶揄されることが多い。

実際、北朝鮮の権力の世襲は「建国の父」(実際にはソ連が送り込んだ傀儡政権とされる)と称される金日成から続くが、シンガポールも4月15日に20年の長期政権から退くことを表明した第3代首相リー・シェンロンは、シンガポール「建国の父」である、リー・クアンユーの息子である。しかも、第2代のゴー・チョクトン政権は14年にも及ぶ長期政権であったが、前任のリー・クアンユーの信頼を勝ち得て首相に就任しており、内閣は「ゴーチーム」とも呼ばれた。シンガポール国内では、リーの息子リー・シェンロンへの「中継ぎ」とも「リーのクローン」ともいわれ、リー・クアンユーの政策を踏襲している。

シンガポールには北朝鮮のような「強制収容所」や残虐な「処刑」は存在しないが、法律でがんじがらめに国民を縛っている。例えば、トイレの水を流さなかったり、ガムを道に吐き出したりするだけで極めて厳しい罰が与えられることは有名だ。さらには、鞭打ちという前近代的な刑罰が普通に実施されており、外国人にこの刑罰が適用されるときなどは、国際的人権問題になったりする。

さらに、海外勤務などの然るべき理由がなく、投票に行かなかった場合は、選挙人名簿から名前が抹消され、さらに50シンガポールドルの罰金が科せられる。

そのおかげで、2011年の総選挙では93.18パーセント、2015年の総選挙では93.56パーセントの投票率であった(参照 :一般財団法人自治体国際化協会シンガポール事務所「シンガポールの投票率はなぜ高い?」)。

この「異常な」投票率の高さと、「投票は権利ではなく『義務』」だとの考えは、まるで全体主義国家である。

実のところ「北朝鮮」と「明るい北朝鮮=シンガポール」の主な違いは、「経済的豊かさ」のように思える。

貧すれば鈍する

また、毛沢東時代には北朝鮮よりも貧しいと言われた中国も、トウ小平が主導する改革・開放の大成功によって、(経済的に豊かな)「明るい北朝鮮」になったかに見えた。

毛沢東時代は、国民への締め付けも「北朝鮮並み」あるいはそれを上回る苛烈なものであった。大躍進と文化大革命で、8000万人もの人々が死に追いやられたとする西側推計もある。

国が貧しくなればなるほど、政府は国民の不満を封じ込めるために強権的政治に傾くといえよう。

だが、幸いなことに毛沢東の「暗黒時代」の後に、1978年からのトウ小平主導による改革・開放がやってきた。

この改革・開放はリー・クアンユーが主導したシンガポールの「奇跡の成長」に匹敵するような恩恵を中国にもたらしたのだ。

この間、共産主義中国の言論や行動は比較的自由であった。中国在住のある日本人が、「共産党への(直接的)批判を除けば、かえって日本や米国よりも自由であったかもしれない」と述べるほどである。言ってみれば「シンガポール並み」であり、「第2の明るい北朝鮮」であったともいえる。

だが、昨年8月31日公開「中国は崩壊か? それとも『失われる50年』か? いずれにせよ日本のバブル崩壊以上の惨劇が待っている」のような状況に陥った。

逆に言えば、習近平政権が、2019年1月9日公開「客家・トウ小平の遺産を失った中国共産党の『哀しき運命』を読む」で述べたように、トウ小平の改革・解放という「偉大な遺産」をないがしろにし、「毛沢東路線回帰」したことが経済的な疲弊を招いたともいえる。

「ニワトリが先か卵が先か」という議論ともいえるが、「貧すれば鈍する」というのは普遍的な真理だと思う。

国民の幸福が、「ある程度の経済的豊かさ」があってこそ成り立つのは、個人の場合と同じである。

ネットは人々を幸せにしたか?

経済的豊かさが、必ずしも幸せと比例関係に無いのは、昨年9月16日公開「『どうしたら儲かりますか?』と聞かぬこと。投資は恋愛と同じ、ストーカーになったら終わり」で述べたように、本来人間が「(自分のために)役立てる」はずのお金に、逆に支配されてしまい「お金のストーカー」になってしまうケースが多いからだ。

言い換えればお金が「便利な『手段』」から「欲望を満たす『目的』」へ変質してしまうということである。

さらに言えば、アヘンと同じ中毒性があり、「儲かった」というつかの間の喜びによるドーパミン(脳内麻薬)放出への依存症になってしまう。

同じことが、SNSを始めとするインターネットの世界でも起こっている。IT・インターネットは我々の生活を驚く程便利にしたが、「ゲーム中毒」「スマホ中毒」「SNS中毒」と呼ばれるような問題を引き起こした。

こちらも脳内麻薬(ドーパミン)の働きと大いに関係がある現象だ。

(麻薬)中毒は「瞬間的な満足」を得られても、さらなる欲望を掻き立てる結果となる。一種の無間地獄だ。無間地獄で幸せになるとは考えにくい。

結局、冒頭で述べたように「最低限の経済的豊かさ」を手に入れることは重要だが、「もっと欲しい」と際限なく欲望を掻き立てれば「永遠の無間地獄」へ陥ることとなり、幸せにはなれない。

さらに付け加えれば、幸せを感じるのは自分の心であるから、「他人目線」というあやふやなもので自分を評価していれば幸せにはなれない。自分自身のしっかりとした基準を持つことも幸せになる重要な条件だ。

投資で成功したければ基本は嘘を見抜くこと、そして「はずれ屋」が「買うな」という時こそ買うべき時だ