全身麻酔を使うほどの大手術を受けたことがある人は、麻酔が切れて目が覚めた時に頭が働かず、しばらく意識がもうろうとした経験があるかもしれません。動物を使った実験では、手術の数日前にファストフードのような脂肪分の多い食品を摂取すると、手術後の記憶障害が長引く可能性があることが示されました。

Post-operative cognitive dysfunction is exacerbated by high-fat diet via TLR4 and prevented by dietary DHA supplementation - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0889159123004105



Fatty food before surgery may impair memory in old, young adults

https://news.osu.edu/fatty-food-before-surgery-may-impair-memory-in-old-young-adults/

Eating Fatty Food Days Before Surgery May Impair Memory : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/eating-fatty-food-days-before-surgery-may-impair-memory

通常の認知症とは別に、手術や麻酔後に認知機能が低下する「術後せん妄」や「術後認知機能障害(POCD)」というものがあります。術後せん妄は手術後に意識障害や知覚障害が発生し、経過と共に改善していくことがほとんどですが、POCDは記憶・注意・言語などの神経認知系障害が発生し、数週間〜数カ月にわたり持続するとのこと。

一方、手術以外で認知機能に障害を及ぼす要因としては、「ファストフードのような脂肪分の多い食事」が挙げられます。過去の研究では、高脂肪の食事をとり続けるとアルツハイマー病やうつ病の症状が悪化することや、学習能力や記憶力に悪影響が及ぶことなどが示されています。



オハイオ州立大学の研究チームは、高齢と若年のラットを「標準的な食事を3日間与えるグループ」と「脂肪分の多い食事を3日間与えるグループ」に分け、食事の後に腹部開腹手術に類似した処置を行いました。そして手術の2週間後、すべてのラットを対象に記憶テストを実施したとのこと。

実験の結果、高齢のラットでは高脂肪食と手術の組み合わせにより、文脈記憶と恐怖条件付け記憶の両方に、最大2週間続く悪影響が及ぶことが明らかになりました。一方、若年のラットでも高脂肪食と手術の組み合わせが悪影響を及ぼしましたが、影響を受けたのは恐怖条件付け記憶のみでした。

また、手術の前に高脂肪食をとったすべてのラットの海馬において、手術後少なくとも3週間持続する炎症性遺伝子発現の上昇も確認されました。

オハイオ州立大学の行動神経科学者であるルース・バリエントス准教授は、「不健康な食事はたとえ短期間であっても、特に手術に近い時期に摂取すると炎症反応を引き起こし、有害な結果をもたらす可能性があることがこの研究で明らかになりました。高脂肪食だけでも脳の炎症がほんの少し増加するかもしれませんが、これに手術が短期間のうちに組み合わされると相乗的な反応が起こり、長期的な記憶障害に突入することになります」と述べています。



さらに研究チームは、高脂肪食を食べ始める1カ月前からドコサヘキサエン酸(DHA)サプリメントをラットに投与すると、手術後の炎症反応が緩和されて高齢と若年両方のラットで記憶障害が予防されることを発見しました。DHAはサバやイワシなどの青魚に豊富に含まれる必須脂肪酸であり、近年はさまざまな健康保護食品に含まれています。

バリエントス氏は、「DHAはこれらの変化を防ぐのに効果的でした。これは驚くべきことです。特に手術を受けることが決まっていて、食生活が不健康である場合、DHAが有効な前処置になる可能性を示唆しています」と述べました。