日常的に高い精神的負担や認知的作業が要求される仕事に就いている人の中には、「単純作業の仕事がうらやましい」と感じている人もいるかもしれません。ところが、ノルウェーで行われた新たな研究では、より認知的に複雑な仕事をしている人ほど、加齢に伴う軽度認知障害や認知症のリスクが低いことがわかりました。

Trajectories of Occupational Cognitive Demands and Risk of Mild Cognitive Impairment and Dementia in Later Life | Neurology

https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000209353



Routine jobs raise the risk of cognitive decline by 66% and dementia by 37%, study says | CNN

https://edition.cnn.com/2024/04/17/health/brain-job-dementia-wellness/index.html

Mentally stimulating work plays key role in staving off dementia, study finds | Science | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/2024/apr/17/mentally-stimulating-work-plays-key-role-in-staving-off-dementia-study-finds

オスロ大学病院の研究者であるトリーネ・エドウィン博士らの研究チームは、7000人以上のノルウェー人を30〜60代まで追跡し、70歳を超えてから標準的な記憶力と思考力のテストを実施した縦断研究のデータを分析しました。

被験者が就いた仕事は305種類に及び、当然ながら30代から60代の間に転職をする人もいましたが、ほとんどの人は転職しても認知的要求度合いが同程度の仕事に就いたとのこと。つまり、最初から認知的な刺激が少ない仕事に就いた被験者は、途中で転職しても同じような仕事に就く傾向があったというわけです。

研究チームは日常なルーチンタスクや精神的な刺激があるタスクの量、仕事で関わる分析的および対人的タスクの程度に基づいて、さまざまな認知的複雑さで仕事を分類しました。そして、70歳以降に行った認知テストの結果で、被験者を「認知障害なし」「軽度の認知障害」「認知症」のいずれかに分類しました。



データを分析したところ、認知的な要求が最も低い仕事に就いた被験者は、最も認知的な要求が高い仕事に就いた被験者と比較して、「軽度の認知障害」になるリスクが66%、「認知症」になるリスクが31%高いことが判明しました。

今回の調査で最も認知的な要求が高いとランク付けされた仕事の中には、教師や大学講師が含まれていました。一方、最も認知的な要求が低いとランク付けされた仕事には、建設作業や郵便配達、施設管理といったルーチンワークの多い仕事が含まれました。

もちろん、認知的要求が高いとされた仕事にもルーチンワークはありますが、日常業務には創造的思考や情報の分析、ユニークな問題の解決、アイデアや情報を説明するといった認知的負荷の高いタスクが多くを占めています。また、誰かに物を教えたりモチベーションをアップさせたりするといった対人スキルも、精神的な刺激が高いと判定される要因だったとのこと。

エドウィン氏は、「最も認知的な要求の高い仕事のグループには、弁護士・医師・会計士・技術エンジニア・公務員などがいましたが、最も一般的な職業は教師でした。教師は生徒や保護者と多くのやり取りを行っており、情報を説明し、分析する必要があります。ルーチン志向の仕事ではないのです」と説明しています。



今回の研究では、大学に通っていたことが認知能力低下から保護する効果も確認されましたが、ルーチンワークの影響を約60%打ち消す程度にとどまりました。エドウィン氏は、「つまり、教育は非常に重要ですが、卒業した後の仕事で脳をどのように使っているのかも重要ということです。認知的な活動をすることで、仕事中に認知予備力を高めているのです」とコメントしています。

つまり、ルーチンワークをしている人であってもさらなる教育を受けたり、仕事以外の認知的タスクが要求される娯楽を持ったりすることで、認知能力の低下を防ぐことができるというわけです。エドウィン氏は、「あなたは認知能力が低下する運命にあるわけではありません。私たちは教育や認知的な刺激のあるタスクによって、その後の認知的健康を高めることができるのです」と述べました。