『虎に翼』より。岩田剛典演じる花岡悟 ©︎NHK
 1週、2週……。待てど暮らせど、登場しない。連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合、午前8時放送)第3週第15回ラストで、岩田剛典が初登場した瞬間には思わず歓喜した。

 岩田扮する花岡悟は、主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)と同じ明律大学法学部の学生。なるほど、35歳の岩田剛典が学生服に身を包むとは、驚きじゃないか。なのに全然、違和感がないというのは。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作の岩田剛典が学生服を着ても違和感がない理由を解説する。

◆体幹がブレない演技

 映画初主演作『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)以来、本腰入れて岩田剛典の演技を見てきた。驚くべきは、彼の演技の体幹がこれまで一度たりともないブレたことがないこと。

 岩田自身がターニングポイントになったと話す『去年の冬、きみと別れ』(2018年)や『Vision』(2018年)の頃から、不思議と安定感がある。

 初の朝ドラ出演作となる『虎に翼』でも強く感じられる。第3週第15回のラスト、明律大学女子部を卒業して本科(法学部)に上がってきた寅子たちを遠目から見つめるひとりの男性の眼差し。

 画面の軸から寸分たりともブレずに、ぴたりとおさまる法学部1年の花岡悟(岩田剛典)を見て、あぁ、これは岩田剛典にしか演じられないな。そう思う初登場場面だった。

◆眉間の微動で役柄にアジャスト

 この初登場で注目すべきは、岩田の眉間。そう、彼の眉間こそ、その演技を安定させている最大要素のひとつ。各作品、役柄に合わせて眉間の微動をさまざまなレパートリーでちょっとずつ変えながら、アジャストするのだ。

 寅子たちを見つめるとき、特に眉間にシワが寄るわけではないが、左眉がわずかにピクつくのがわかる。「きたきた」と冷笑を浮かべる表情が、眉の微動によって輪郭づき、キャラクターの性格を一発で理解させる。

 花岡悟という人物は、表向きでは女子部の面々に敬意を払うが、実は根っからの差別意識を持っている。毎回、「はて」を契機に相手の間違いを正そうとする寅子が、花岡と対決することになるのは、時間の問題だなとハラハラする。

◆宙を泳ぐ岩田剛典

 第4週第18回。男女混合、本科メンバー全員でハイキングに出かける。いいなぁ、こういう戦前のハイキングの朗らかな雰囲気。が、楽しいのは昼食まで。レディファースト精神でうまく取り繕っていた花岡に寅子がついに噛みつく。

「男と同様に勉学に励む君たちを、僕たちは最大限敬い、尊重している。特別だと認めてるだろ」と花岡が語気を強める。寅子は、この「特別」にカチン。男性至上主義的な花岡の傲慢さを正すべく、食い下がる。

 食い下がりながら、勢い込んだ寅子は花岡を時折こずく。花岡の後ろは崖。危ないっ(!)。2回目に大きくこずいたあと、花岡は足元を取られて、落下。でもこの落下がどうもおかしい。

「あぁぁ〜」と叫ぶ花岡が、なかなか落下していかないのだ。うしろに引っ張られながら宙を舞い続けているように見える。なんだろこの画面。でも宙を泳ぐかのような岩田剛典を見てちゃんと思うことがあるのだ。

◆学生服を着ても違和感がない理由

 なかなか落下していかないあの画面について、岩田本人は「マトリックス落ち」と形容するが、あれって完全にヒッチコック落ちじゃないかと。

 アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960年)でも失踪事件を調査する探偵が、画面上を漂い、泳ぐような動きで階段から落下していた。

 それから、第19回で包帯ぐるぐる巻きで横になる花岡の姿は、『裏窓』(1954年)のジェームズ・スチュワートさながら。