【村上 茂久】いったいなぜ…大量CM「出前館」がユーザー数激減&6年連続赤字の「意外すぎる実態」

写真拡大 (全7枚)

成長に陰りが見え始めた出前館

2020年以降、新型コロナウイルスの蔓延で外食規制が続く中、広く普及したのがフードデリバリーです。

特に出前館は、Uber Eatsと並ぶフードデリバリーの代名詞となりました。実際、コロナ禍前の2019年8月期に67億円だった売上高は、2023年8月期に500億円超を記録(図表1)。わずか4年で7倍以上の成長を果たしています。

一方、同社が4月15日に発表した2024年8月期の第2四半期決算は、やや厳しい内容でした。まず売上高は、前年同期比0.7%増加の255億円。前年同期の成長率が11.7%だったことを踏まえると、陰りが見えています。売上に大きく関係するアクティブユーザー数も、前年同期の770万人から579万人と25%の減少です。

さらに営業赤字も続いています。今回発表の上期の営業利益は44億円の赤字でした。昨年同期の84億円の赤字から半分近くまで下がったとはいえ、同期間では6年連続のマイナス。2024年8月期通期決算でも80億円の営業赤字が見込まれています。

では、なぜ出前館はこれほど赤字が続いているのでしょうか。そして、こうした赤字続きの状況で倒産の可能性はないのでしょうか。本記事では決算書を読み解きながら、主にビジネスモデルの観点から解説していきます。

なぜ赤字なのか?

最初にフードデリバリー業界における出前館の立ち位置を確認しておきましょう。図表2は、国内のフードデリバリーのデイリーアクティブユーザー(DAU、1日あたりの利用者数)のシェアを示したものです。2023年8月時点の出前館のシェアは46%と過半数に迫る勢いで、国内トップを誇っています。

出前館がとりわけ評価されているのは、「時間通りに配達されているか」や「配達の速さが期待通りであるか」といった「時間」に関するものです(図表3)。

時間効率を意味する「タイパ」が重視される昨今、出前館は正確な配達時間や速さの観点で顧客満足度を高めながら、業界シェアを増やしてきたといえるでしょう。

ただ、業界シェアを確保しているとはいえ、出前館は営業赤字が続く苦しい状況です。では、なぜこれほどまでに赤字が続いているのでしょうか。

その謎を解くポイントが、「メニュー価格に占める出前館の売上」と「売上原価」です。結論を先に言うと、出前館でメニューを注文する際、表示価格の25%が同社の売上となり、そのうち80%(メニュー価格からすると20%)が同社にかかる原価になっています。

出前館の取り分はいくら?

まずメニュー価格に占める出前館の売上から紐解いていきましょう。フードデリバリーサービスを利用した経験のある方はご存知の通り、たとえ同じメニューでも店舗とフードデリバリーサービスでは価格が違います。この差額こそが出前館の売上です。

例えば、出前館を通じて中華料理屋から中華弁当の配達をしてもらったとします。店舗価格が750円で、出前館の価格が1000円だった場合、内訳は図表4のようになります。

出前館を利用した顧客が1000円を払ったとしたら、そのうち75%の750円は中華料理屋の収入。残り25%の250円が出前館の売上となります。このように注文した金額のうち、出前館が受け取る割合のことを「テイクレート」と呼びます。

ちなみに、2023年8月期において、出前館で注文された総額は2057億円です。そのうち出前館の売上高は514億円なので、実際のテイクレートも25%です。

次に売上原価について見ていきましょう。2023年8月期の損益計算書(P/L)をグラフで示したのが図表5です。

ここで注目すべきは売上原価の大きさです。514億円の売上高に対し、売上原価は409億円で約80%も占めています。ちなみに、この原価の中で最も大きな割合を占めるのが、配達員へ支払う報酬です。出前館の原価のうち85%が外注費となっています(図表6)。

ここまでの話を先ほどの中華弁当の例に当てはめてみましょう。1000円で注文されたメニューのうち250円が出前館の売上になり、そのうち80%の200円が原価です。最終的に出前館が得る粗利は50円(=売上250円−200円)ということになります。

ただし、出前館はこのわずかな粗利から人件費や広告宣伝費等の販売費及び一般管理費(販管費)を支払わなければいけません。

前出の図表5の通り、出前館の販管費のうち最も大きな割合を占めるのは広告宣伝費で、売上高の19%にあたります。先ほどの1000円の中華弁当の例だと、250円が出前館の売上高となり、そのうち19%の48円(250円×19%)が広告宣伝費になるということです。

粗利の50円からこの額を引くと、出前館に残るのはたったの2円。もちろん、ここからさらに人件費等のその他販管費を支払うので、さすがに利益を出すのは簡単ではありません。

つまり、このような利益構造にあるため出前館は赤字が続いているのです。なお、最新の2024年8月期の第二四半期において、売上高に占める広告宣伝費率は16%と若干改善しているものの、依然としてこの構造自体には大きな変化がない状態です。

--

つづく後編記事『このままだと累積赤字800億円…!大量CM「出前館」を待ち受ける「今後のシナリオ」』では、出前館の倒産リスクについて、さらに見ていきます。

このままだと累積赤字800億円…!大量CM「出前館」を待ち受ける「今後のシナリオ」