Amazonはあれほどデータ収集に注力しているにもかかわらず、偽造品の削除件数を個別に管理していない。

しかし、この世界最大のeコマースプラットフォームは昨年、フルフィルメントセンター(最先端のシステムと設備が導入されたAmazonの物流拠点)に流入した700万点の偽造品を消費者の元に届けるのを阻止したと発表した。この結果は2022年よりも100万点多い。

「これは誰もが重要な役割を果たす鍵となるような大問題であることを承知している」と米モダンリテールに語ったのは、Amazonのグローバルブランドリレーションズディレクターであるアナ・ダラ・ヴァル氏だ。「しかし当社は先を見越して、積極的な姿勢でストアを守るために投資してきた」。

Amazonは3月末、2023年に実施した偽造品問題への取り組みをまとめた年次の「ブランドプロテクションレポート(Brand Protection Report)」をリリースし、純売上高の約2%を偽造品対策に費やしていると発表した。

単独の偽造品対策には限界も



Amazonは昨年、偽造品対策の取り組みに約12億ドル(約1816億円)を費やしたと推定している。同社の昨年度の年間純売上高は12%増の5748億ドル(約87兆円)に達した。また、現在は150万人の従業員の約1%に当たる1万5000人が偽造品問題に取り組んでいるという。その取り組みには、米国への偽造品の流入を阻止することに加え、確認できる身分証明書がないとアカウントを作成できないようにすること、AIを使って画像や商品リストをスキャンして危険要素を検出すること、世界中の法執行機関と協力して偽造品業者を見つけて告発することなどが含まれる。

Amazonのこのレポートは、ブランドからの懸念や政治家からの監視が高まっている状況のなかで発表された。偽造品はマーケットプレイスにとって新たな問題とは言い難く、同社は2017年のブランドレジストリ(Amazon Brand Registry)プログラムから2020年の偽造犯罪対策チーム(Counterfeit Crimes Unit、CCU)設立に至るまで、毎年新しい保護措置を打ち出してきた。また、この問題は裁判沙汰にまで発展している。

偽造品販売に関する主張をめぐって、Amazonはシャネル(Chanel)やクリスチャン ルブタン(Christian Louboutin)から訴えられた。一方、カメラメーカーのキヤノン(Canon)は昨春、Amazonと協力し、偽造品販売の疑いのある29社に対して共同訴訟を起こしている。

しかし、たとえAmazonのような巨大なプラットフォームであっても、単独プラットフォームの取り組みだけでは偽造品業者を撲滅させるには限界がある。この分野の専門家らは、売上を吸い上げている悪質業者や偽造品を真に排除するには、マーケットプレイス、ブランド、政府、規制当局の協力体制が必要だと語る。

テクノロジーへの投資は「焼け石に水」?



昨年には、マーケットプレイスに販売者の身元と銀行口座情報の確認を義務付けるインフォーム法(INFORM Act)がやや不安定な形ではあるが施行された。ダラ・ヴァル氏によると、Amazonはこの法律を「遵守するための強力なプラットフォーム」を構築しつつあり、今後の販売希望者をできるだけ迅速に審査することを目指しているという。このような取り組みの結果、70万件のアカウント作成が阻止されている。

「当社はテクノロジーの革新を続けている。テクノロジーには間違いなく投資し続ける」と同氏は話した。

しかしそのような取り組みは、問題全体に比べれば焼け石に水かもしれない。

ミシガン州立大学の偽造品防止・製品保護センター(Center for Anti-Counterfeiting and Product Protection、A-CAPP)教授兼研究者であるサリーム・アルハバシュ氏は、全体的な偽造品の規模とその全容を把握するのは不可能だと語る。しかし同センターの最新の調査によると、10人中7人が偽造品を購入した経験があるという。

「デジタルメディアやeコマース、ソーシャルコマースのプラットフォームが普及したことで、この問題は巨大化して食い止められなくなっている」とアルハバシュ氏は話す。「プラットフォームが事態を把握する頃には、偽造品業者はすでにその先をいっている」。

ブランドへの危害を避ける



家庭用収納用品メーカーのハニーキャンドゥインターナショナル(Honey-Can-Do International、以下ハニーキャンドゥ)でCEOを務めるスティーブ・グリーンスポン氏は、同社にとって偽造品は根深い問題だと語る。同社の商品であると名乗る偽造品が出回っていたり、一見同じように見える商品が違うブランド名で販売されていたりするのだ。

「購入者は、ハニーキャンドゥの商品や、聞いたことがあり信頼できるブランドの商品を手に入れたと思っている。しかし実際はそうではなく、完全なコピー商品を買っている。そしてほとんどの場合、それは悪質な偽造品だ」。

ハニーキャンドゥはサードパーティベンダーを雇い、マーケットプレイスで偽造品を探し出しては削除を依頼している。年間支出は余分にかかるものの、自社ブランドの評判を確保してくれる人を雇う価値はあるとグリーンスポン氏は言う。

ダラ・ヴァル氏はAmazonが偽造品の申し立てに対応するまでに平均でどれほどの時間がかかるかについては明言できないという。また、侵害の懸念からどれだけの出品が削除されているのかについても言及できなかった。しかしその理由は、Amazonの独自ツールが偽造品の可能性を常に監視しており、誰かが新たに出品したりページを変更したりするたびにそれが起動されるからだという。

「これは、目には見えない多くの努力だ。ストアをくまなく調査し、そしてストア内で起きているすべての変化を徹底的に把握することで、偽造品の可能性がある商品を積極的に削除している」。

リスクコンサルティング会社であるK2-インテグリティ(K2-Integrity)のシニアマネージングディレクター兼調査ディレクターを務めるブライアン・カール氏は、偽造品の被害はブランドの(イメージに対する)懸念だけにとどまらない場合があると指摘する。

カール氏は医療・健康商品に関連する偽造品問題の調査を専門にしている。この分野では安全性や無菌ではない可能性のある商品によって、人体へ危害が及ぶリスクが高まる。同氏は、偽造されている疑いのあるブランドはただちに弁護士やコンサルティンググループ、法執行機関に連絡して措置を講じるのが最善であると話した。

「(ブランドが)相手にしているのは、ただ1つのこと、そのことしか考えていない連中だ。それは金儲けだ。(偽造品業者は)人に被害を及ぼすことなど気にしてはいない」。

法執行機関や捜査当局が偽造品業者に先んじるのは難しいものの、Amazonが偽造品やその販売業者をプラットフォームから排除することは思われているよりも大きな意味を持つとカール氏は言う。偽造品業者は、偽造品の販売で利益が得られないと事業を続けられないことが多いからだ。しかし、そのような偽造品業者は、新たに別の不正アカウントを作ったり、別の方法で顧客にリーチして偽造品を売ろうしたりするかもしれない。

「状況は常に変化している」とカール氏は話す。「こちらが賢くなればなるほど、悪人らも賢くなるのだ」。

取り組みの拡大



Amazonのダラ・ヴァル氏は、偽造品の取り締まりには世界中の法執行機関や規制当局との連携が必要だと語る。たとえば、偽造品の疑いのある商品輸入を阻止しているアメリカ合衆国税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection)も含まれる。Amazonはまた、中国の法執行機関との連携強化にも尽力しており、昨年は50件の強制捜査を実施し、100人を超える偽造品業者を拘束した。イタリアでは内務省と了解覚書(MOU)を締結し、同国における偽造品に関する情報共有の推進と政策立案を支援している。

「サプライチェーン全体にわたる、小売業界全域に影響を与えるこの世界規模の偽造品との戦いでは、誰もが自分の役割を果たさなければならない」とダラ・ヴァル氏は語る。

Amazonは自社事業において、ブランドに事前対応できるツールの提供することを目指しているとダラ・ヴァル氏は話す。同社のIPアクセラレータ(Intellectual Property Accelerator)は、新しいブランドが商標保護を受けられるよう支援する法的情報源のネットワークであり、偽造品が出現した場合に法的保護を提供するもので、これまでに1万5000社ものブランドが利用している。

ブランドに対しては、Amazonが出品内容をクロスチェックして偽造品を排除できるよう、自社IPをAmazonに登録するよう推奨している。同プラットフォームは実用特許を持つ販売者が利用できるAmazonパテントエバリュエーションエクスプレス(Patent Evaluation Express)サービスも提供しており、これは複雑で対応の遅い米国の法制度の以外で偽造品問題を解決できるよう支援するサービスである。

この1年で得られた最大の成果の1つに、AIを活用した新しいツールの導入により出品リストを迅速にスキャンできるようになったことがあるとダラ・ヴァル氏は語る。そのようなツールは不明瞭なブランドロゴなど不正行為の潜在的な兆候を検出するのに優れているという。

もちろん、AIは偽造品業者にも利用されているとダラ・ヴァル氏は指摘する。

「我々は先手を打ち続け、警戒を怠らず、革新を続ける必要がある」。

[原文:Amazon says its stopped 700K counterfeiters from making accounts last year]

MELISSA DANIELS(翻訳:ぬえよしこ、編集:都築成果)
Image via Amazon