ナイキ(Nike)は2015年以来初めて、ナイキブランドのデジタル売上高が減少したことを報告した。同社が決算発表や決算説明会で、このチャネルやNike.comについての成長を明らかにしたのはこれが初めてであり、同社のD2C戦略の有効性に疑問を投げかけられている。

同社は3月21日木曜日、2024年度第3四半期のナイキブランドのデジタル事業の売上高が、2023年度第3四半期に比べて3%減少したと発表した。それでも、第3四半期の収益は124億ドル(約1兆8790億円)と前年同期とほぼ変わらなかった。これは、同社の収益が昨対比で14%増加した2023年度第3四半期とは対照的だ。

D2Cと卸売の適切なバランス



デジタル事業の落ち込みは、同社がD2C販売(ダイレクト販売)と卸売販売の適切なバランスを見極めようとしていることに起因している。2017年に「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス戦略」を発表して以来、直営店やウェブサイトを通じたダイレクト販売の拡大は、ナイキにとって大きな焦点となってきた。この変更のもと、同社はD2Cチャネルにより注力するため、小売パートナーの数を大幅に削減した。当時、ナイキはそのブランド認知度によって顧客をウェブサイトや店舗に誘導するという賭けをした。しかし、インフレが進み始め、多くの消費者が裁量的支出を減らして必需品に回したことで、状況が変わった。

同社は売上を押し上げようと、昨年、フットロッカーやDSW、メイシーズ(Macy's)との卸売提携を再開した。しかし、昨年、は依然として事業格差に直面しており、12月には、成長を促進し長期的な収益性を達成するため、今後3年間で最大20億ドル(約3032億円)のコスト削減を行うと発表した。

全体で見ると、ナイキの第3四半期のD2C収益は、直営店とウェブサイトの両方の売上を含めて54億ドル(約8185億円)と前年同期に比べてわずかに増加した。卸売売上は前年同期比3%増の66億ドル(約1000億円)で、SimilarWebのデータによると、同社のデジタルチャネルからのD2Cトラフィックはこの1年で減少している。

21日の決算説明会で、CEOのジョン・ドナホー氏は方向転換が必要だと認めた。「第3四半期は予想通りだった。とはいえ、ナイキが潜在能力を発揮できていないことがわかった。我々のコンシューマー・ダイレクト・アクセラレーション戦略は、成長と消費者との直接的なつながりを推進してきたが、いくつかの重要な調整を行う必要があることは明らかだ」。

同氏は、「簡単に言えば、4つの分野で調整が必要だ」と続けた。「スポーツに焦点を絞る必要がある。新製品のイノベーションを継続的に推進しなければならない。我々のブランドマーケティングは、より大胆に、より独創的にならなければならない。そして、ナイキダイレクトが引き続き重要な役割を果たす一方で、我々のブランドを高め、市場全体を成長させるために、卸売パートナーとともに力を合わせなければならない」。

ナイキは、パンデミック時のランニングブームに恩恵を受けたが、その後、ホカ(Hoka)やオン(On)といった競合他社が台頭したのに伴い、投資家は同社に冷ややかな目を向けた。ブルームバーグ(Bloomberg)によると、ナイキは2021年のピーク時以降、40%以上の価値を失ったという。21日の決算発表に先立ち、テルゼイ・アドバイザリー・グループ(Telsey Advisory Group)とモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は、いずれもナイキの目標株価を下方修正した。

ホカやオンなど競合他社の台頭



ナイキは2月、広範なリストラの一環として、現在の従業員の2%にあたる1500人以上を削減すると発表した。最高財務責任者(CFO)のマシュー・フレンド氏は昨年12月、この計画には「品揃えの簡素化、自動化とテクノロジー活用の拡大、組織のスリム化、および規模の活用による効率性の向上」が含まれると話した。

アナリストたちは、同社が苦境を乗り越えるには、コスト削減以上のものが必要であり、需要の低迷を補うには製品のイノベーションが鍵になると指摘する。資産管理会社ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のエクイティ・リサーチ担当シニア・バイス・プレジデントであるトム・ニキッチ氏は、同社のD2C推進について、「彼らは販売場所に集中しすぎて、何を売っているのかという焦点を見失っていた」と最近のメモに記している。

同様に、ジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)のシニア・リサーチ・アナリストであるジェシカ・ラミレス氏も、特に競争の激化を考慮すると、ナイキの製品ラインナップについて、「非常に懸念されている」と米モダン・リテールに語った。

長年にわたり、ナイキのおもな競争相手はアディダス(Adidas)だったが、今ではほかのランニングシューズメーカーも勢いに乗っている。ホカとオン両社の売上高は、直近の四半期で前年同期比21.9%増だった。ブルックス・ランニング(Brooks Running)は2023年度に12億ドルと(約1818億円)いう記録的な売上を達成した。一方、アディダスは3月13日、不本意な業績から立ち直り、2026年までに2ケタ成長を達成する計画を明らかにし、それを示すため、社是を「Impossible is nothing(「不可能」なんて、ありえない。)」から「You got this(大丈夫、いける。)」に変更した。

ラミレス氏は、「ほかの企業はみな、準備万端で、すぐに行動に移せる状態のようだ」といい、「我々には、ナイキ自身の新しいテクノロジーを必要としている。我々はそれを長い間見てこなかった」と話した。

「スニーカーひとつでは変化できない」



同社CEOは昨年12月、2024年後半には「複数年にわたる製品イノベーションサイクル」を導入する予定だと話した。実際、3月26日には「エアマックスDn(Air Max Dn)」を発売する。同社によると、このシューズは、二重圧力チューブによるダイナミック・エア・ユニット・システムを採用しているという。このシューズは、同社のウェブサイトやアプリ、実店舗で160ドル(約2万円)で販売される。

これを記念して、ナイキは3月下旬に一連の消費者向けイベントを開催する。そのひとつであるダイナミックランド(Dynamicland)はNYのブルックリン・ネイビーヤードで開催され、障害物コースやゲームラウンジ、巨大スライド(滑り台)、特別仕様のグッズなどを用意する。2024年はまた、ナイキのエアマックスデー(Air Max Day)の10周年でもある。

ニキッチ氏は、エアマックスDnの見通しについて楽観的で、ナイキが、ヴェイパーマックス(Vapor Max)やエアマックス270(Air Max 270)といったエアマックスシューズを販売し、アディダスのような競合他社に先んじることができた過去の成功例を挙げた。

同氏は、「このシューズが、我々が期待しているような新たなイノベーション・サイクルの始まりになれば、ナイキにとって確かに有益になるだろう」と米モダンリテールに語った。「年間500億ドル(約7兆6000億円)の収益を誇る企業に、スニーカーひとつで変化をもたらすことはできない。それに続くより多くのものが必要だ」。

[原文:Nike posts its first digital decline in 9 years]

Julia Waldow(翻訳・編集:戸田美子)
Image via Nike.com