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 今週ドイツサッカー界に1つの激震が走った。12年以上にわたりSCフライブルクで指揮をとり続けてきた、まさに現代のドイツサッカー界を語る上で欠かすことのできない人物、クリスチャン・シュトライヒ監督が今夏限りでの退任を明らかにしたのである

 フライブルクにほど近いバーデン=ヴュルテンベルク州ヴァイル・アム・ラインに生まれ、1995年にコーチとしてフライブルクのユースチームに加入。そして2011年12月より無名の監督としてトップチームの監督へと就任、自転車で通勤する親近感と同時に、就任当初から社会政治問題など物議を醸すテーマにも躊躇せず発言するなどその熱い人柄に加え、自分を常に追い込むため毎年1年だけの契約延長しか締結しなかった、まさに異彩を放つ指揮官の象徴的存在だった。

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「ブンデスリーガの美徳」シュトライヒ

 スイスとフランスの国境地帯で、精肉店を営む両親の下で生まれたシュトライヒ監督は、サッカー人生を建設的に敬意を払った共存の世界として捉えており、その感情的かつ衝動的な気質はまさに人間的でありながらも、常に他の声に耳を傾け専門知識を尊重し、自身に非があればそれを認め、適切に身を退く姿勢は質の高いコーチ陣の形成、そして有望な若手選手の育成にあたり、共感的リーダーシップとしての在り方を示しているといえるだろう。

 それは年間最優秀監督賞受賞という形でも、そしてマインツのマルティン・シュミットSDからの「ブンデスリーガの美徳」という表現からも、その偉大さは窺い知れるというものであり、当然ながら彼の不在はSCフライブルクはもとより、ドイツサッカー界に大きな穴を開けるもの。思慮深くエピソードトークにも長けた会見、極右組織に対して明確なメッセージを伝えるなど、その毅然とした態度で常に、国民から愛され続けてきた指揮官だったのだから。

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フライブルクでは通算4人の監督のみ

 一方で一度ピッチに立つと豹変し野獣のような姿を見せていたシュトライヒ監督は、ピッチ外ではドイツ語、スポーツ学、歴史の教職課程を卒業した知識の人でもあり、これからは選手やコーチではなく家族、友人らとの交流を深めながら、サッカーではなくそして芸術や文化などの知識も深め、これまで訪れることができなかった地へ足を運ぶことになるだろう。残留争いや2部降格、逆にヨーロッパリーグでのユベントス・トリノとの対峙など、まさに激動に次ぐ激動はこうして幕が下ろされることになる・・・、恐らくは少なくとも、しばらくの間は。

 果たしてSCフライブルクはこれから、どのように後任監督人事に対応することになるだろう。1年もたずにクラブを後にする監督も珍しくない時代、フライブルクは1993年にブンデス昇格を果たして以降、わずか4人の監督しか存在していないのだ。(フォルカー・フィンケ、ロビン・ドゥット、マーカス・ゾルク、クリスチャン・シュトライヒ。どうやらクラブ首脳陣の目は外部ではなく内部に向けられているようで、当初は2021年にU19からU23監督に昇格したトーマス・シュターム氏も候補となっていたようだが、kickerの情報によるとあくまで最有力視されているのは、ユリアン・シュスター氏。

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後任候補のシュスター氏

 長年ボランチとして主将としてのリーダーシップと共に、戦略面でもピッチ上で担っていた38歳は、ブンデス通算185試合、2部通算34試合に出場した経験ももつ。そして引退後は翌日より目指したコーチングライセンスを取得すると共に、トップチームとユースチームの架け橋として2018年からコーチ陣に名を連ねてきた。まさにクラブに精通した人物であり、クラブ関係者からも非常に高く評価され、選手たちとも非常に距離感が近い存在。確かにトップチームの監督としての経験不足は否めないとしても、就任への障害とまではならないだろう。むしろフライブルクが掲げる哲学にマッチしているはずだ。確かなことはすでに手は打たれているということで、ザイアー氏は月曜のプレスリリースにて「まもなく後任を発表する」と述べている。

 キッカーが得た情報によれば今数中にも発表が予定されており、あとはコーチ陣の顔ぶれに注目。パトリック・バイアー氏はすでにシュトライヒ監督の去就に関わらず、2月に25年間指導したクラブを後にするとしており、あとは2011年からACを務めるラース・フォスラー氏に関してはまだ残留の可能性があるところ。その専門性は2014年W杯に向けレーヴ代表監督から相談を受けるほどのものだ。またクラブ側はフォスラー氏に加え「GKコーチのミヒャエル・ミュラー氏、アスレティックトレーナーのダニエル・ウルフ氏とマクシミリアン・ケスラー氏は継続的な雇用契約を結んでいる」ことから、これらの人材の残留の可能性もあるが、いずれにせよどれほど新しい顔が加わるかも含め、今後の判断が楽しみなところだ。

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コメント紹介

クリスチャン・シュトライヒ(監督:フライブルク)「SCフライブルクを愛してくださる、親愛なる”友人”の皆様へ。このたび私は非常に重い気持ちをもって、この夏にフライブルクでの監督業から身を退く決断をお伝えしなくてはなりません。長い間、私は熟考と話し合いを重ねてきました。そして20年を経て新しいエネルギー、新しい人々、新しい機会を取り入れる、今はその適切な時期だと思うのです。そしておそらくは選手や関係者の皆様も、今は新しいエネルギーを求めているのではないでしょうか。私はこの適切な時期というものを見逃すべきではないという気持ちが非常に強くなりました。これまで幾重にも素晴らしい経験を重ねる中で、仲間とともにサッカースクールを創造し作り上げ、数多くの若手選手たちを育成しプロにも輩出することができました。このクラブは私にとって人生そのもの。これまで頂いたすべてのサポートへの感謝を伝えると共に、これまで経験できたことへの喜びもいっぱいです。本当にありがとうございました。これからも多幸を切に願うと共に将来を大いに楽しみにしています。きっとこれまでの素晴らしい歩みを続けるための決断が下されていくことでしょう。時に困難があっても頭を下げずに。改めて心から感謝の気持ちをお伝えすると共に、この素晴らしいクラブで素晴らしい戦いがこれからもまっていることを祈っております。本当にありがとうございました。」
 

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ヨッヘン・ザイアー(SD:フライブルク)「我々はここ数週間、シュトライヒ監督と集中的かつ信頼に満ちた、熱い意見交換を行なってきた。その結果、残念に思うところはあるが100%尊重できる決定が下されたと思っている。トップチームとして12年半、フライブルク通算では30年間に及ぶ特別な指導の歴史にピリオドが打たれる瞬間。ただまだブンデスでは8試合が残されており、同時にコーチ陣の今後について話し合うための時間も十分に残されている。早期に後任人事について発表したい。ただ次の発表はシーズン後だ」

フリッツ・ケラー(SCフライブルク元会長):「クリスティアン・シュトライヒという、クラブのDNAを宿した人物が、ついにこの時を迎えてしまった。彼は人を捕まえる人物であり、自分のことはさておきサッカーについて、世代レベルで思慮することができる人物でもあり、まさにそれがフライブルクの成功のモデルとなっているのだよ」

ベルント・ノイエンドルフ(ドイツサッカー連盟会長)「彼はまさに特別なコーチであり、ピッチの内外で長年サッカー界に大きな影響を与えてきた、特別な人間だ。サッカーの指導者として、才能の育成者として、クレバーな人物として、その優れた共感力と独特の社会的、および感情的知性を備えたシュトライヒ監督は、我々全員にとってまさに模範となる人物であり、ハートをもって態度で示せる、時に社会問題にも切り込むことさえ厭わない。たとえば外国人排斥や人種差別に対するものなど。その功績は彼が手にした数々の受賞歴でもみてとることができるだろう。ユリウス・ヒルシュ賞、年間最優秀監督賞、そして何より彼はドイツ全土にわたって人々から尊敬と心を掴み取ってきた」

シャビ・アロンソ(監督:レバークーゼン)「1つのクラブにおいて29年間という、信じられないほど長く勤務してきたシュトライヒ監督。彼と出会い数試合相見える機会をもてたことに、私は感謝の気持ちをもっているよ。互いにリスペクトし合える関係性だった。しかし今、彼は決断を下してしまった。非常に残念なことではあるが、ただこれほどの激務を思えば十分に理解できる部分もある。シュトライヒ監督の未来、そしてこれから過ごす家族との時間が実りあるものとなるよう願っている」

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フィリップ・リーンハルト(DF:フライブルク)「いつかこの日は訪れるものではあるけど、それでもなんだか奇妙にも感じるね。本当に彼の退任は悲しくて仕方がない。本当に彼との仕事は楽しかったし、長年にわたってフライブルクを形作ってきた人物。彼の長所は選手を評価するだけでなく、その背後にまで目を向けていること。選手にとても高い関心をもってくれており、それがすごくプラスに働くんだ。(後任候補のシュスター氏とは共にプレーした経験も)選手としても豊富な経験をもっており、その時から戦略家としてプレーしており、今度どういう判断が下されるのか見守っていくことになるよ」

オリヴァー・バウマン(GK:ホッフェンハイム、ドイツ代表)「0代の頃から知る、どのようなサッカーを目指し、それにどうアプローチする人間であるかを知る。まさに僕にとっては恩人という存在だ。彼が僕を成長に導いてくれたし、感謝の気持ちでいっぱいだ。もう言葉では表現できないほど。彼から指導を受けた人たちとは長く、彼は良好な関係を築いており、だからこれからもそれは決して変わることはないと思う

ニルス・ペーターセン(FW:元フライブルク、元ドイツ代表)「クリスチャン・シュトライヒという、小さなクラブをこれほど大きなものへと変えていった、そんな人物が去ることになった。まさにフライブルクの別次元にまで引き上げた存在であり、彼こそがSCフライブルク。いまはまさにターニングポイントに立たされたといえるだろう。これほどの穴埋めには大きな負担がともなうことだろうが、これからクラブとしては慎重にこれをうめていかなくてはいけない」

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