フランスでは2024年から、売上高が2000万ユーロ(約32億円)を超える音楽ストリーミング企業を対象に、売上高の1.2%を徴収する「ストリーミング税」を導入しています。新たなストリーミング税に対抗し、大手音楽ストリーミングサービスのSpotifyがフランスでサブスクリプション価格を値上げする予定だと発表しました。

Spotify To Adjust Its Prices Over New Tax in France - Spotify

https://pr-newsroom-wp.appspot.com/2024-03-07/spotify-to-adjust-its-prices-over-new-tax-in-france/



Spotify to increase prices in France over new tax | Reuters

https://www.reuters.com/technology/spotify-increase-prices-france-over-new-tax-2024-03-07/

Spotify to increase subscription price in France to counter new music-streaming tax | TechCrunch

https://techcrunch.com/2024/03/07/spotify-to-increase-subscription-price-in-france-to-counter-new-music-streaming-tax/

フランスでは2020年に、レコード会社やライブ業界に資金提供を行って国内の音楽業界を支援する国立音楽センター(Centre national de la musique:CNM)という公的機関が設立されました。フランス政府はCNMの資金調達方法として、国内の売上高が2000万ユーロを超えるストリーミング企業を対象に、2024年1月1日から売上高の1.2%に相当するストリーミング税を課すことを決定しました。ストリーミング税の対象になるのはApple MusicやSpotify、YouTube Music、Deezerなどの大企業です。

Spotifyは今回フランス政府が導入したストリーミング税について、「私たちが心配しているのは、私たちが二重の税金支払いを強いられることに加え、税金がアーティストに直接支払われるわけではなく、ファンの目に見える形で還元させるわけでもないことです。それどころか単にリスナーの負担となり、『CNM』という新たな仲介者を生み出すだけなのです」と非難しています。2024年のCNMの予算は1億4690万ユーロ(約238億円)と報告されていますが、Spotifyは音楽の効果的な支援に充てられる予算がその半分以下にとどまるのではないかと懸念しているとのこと。



Spotifyは約15年にわたりフランス国内でビジネスを展開しており、フランスの権利所有者に対する支払額は2022年だけで2億2500万ユーロ(約364億円)に達するとのこと。この金額は、同年にフランスのレコード会社が上げた収益の4分の1に相当するとSpotifyは主張しています。

しかし、ストリーミング税の制定によって、Spotifyは音楽再生が生み出す利益の3分の2を権利所有者とフランス政府に支払うことが義務づけられるそうです。Spotifyは「もちろんこれは莫大(ばくだい)な金額であり、持続可能なビジネスにはなりません」と述べ、すでに発表していたフランスの音楽フェスティバルからの撤退と共に、サブスクリプション価格の値上げに踏み切ったと説明しました。

Spotifyは、「私たちはこの税金の追加を避けるよう懸命にフランス政府に働きかけてきましたが、残念ながら彼らは前進することを決定しました」「単刀直入に言うと、すべてのフランス人ユーザーはサブスクリプションプランの値上げに直面します。フランス人ユーザーはEU全体で最も高いサブスクリプション価格を支払うことになります」と述べています。

なお、記事作成時点におけるフランスのSpotifyのサブスクリプション価格はソロプランが10.99ユーロ(約1800円)、ファミリープランが17.99ユーロ(約2900円)ですが、値上げ後の価格がいくらになるのかは不明です。Spotifyによると、値上げは今後数週間〜数カ月で行われるとのことです。



Spotifyは、2023年にウルグアイで「楽曲制作者への報酬分配を求める法案」が可決された際、値上げではなくウルグアイでのサービス終了を宣言しました。しかし、今回のフランスの税金に対しては撤退ではなく値上げで対応していることから、テクノロジー系メディアのTech Crunchは「このエピソードが物語っているのは、Spotifyの市場けん引力においてフランスがいかに重要かということです」と指摘しています。

なお、後にウルグアイ政府が法律改正を認めたため、Spotifyはサービス終了の意向を撤回しました。