「マクドナルドは高級品」は本当なのか? 強気の価格改定を繰り返してもモスバーガー、バーガーキングに顧客は流出しない理由

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1月24日にマクドナルドが、一部メニューに対して10~30円の値上げを実施した。今回の値上げで450円の「ビッグマック」は480円となる。会社側は原材料価格や人件費の高騰、円安などを理由に挙げているが、マクドナルドの原価率はすでに改善されている。ドル円が150円を超えていた昨年と比べると、円安も抑制されつつある。それでも値上げを行なったのはなぜか。

インフレを乗り越えて原価率は改善済

今回の価格改定に対する市場の反応はポジティブだった。値上げを発表した1月12日の日本マクドナルドホールディングスの株価は6460円だった。1月17日には一時5.9%高い6840円をつけた。その後も堅調に推移している。

マクドナルドはコロナ禍でも成長を続けた数少ない外食企業の一つ。コロナ禍のまっただ中だった2020年12月期でさえ、2.3%の増収となっていた。2021年、2022年の各12月期の売上高はそれぞれ1割増で成長している。

2023年12月期の売上高は前期比7.6%増の3790億円を予想している。もともと3740億円を見込んでいたが、2023年11月10日に上方修正を発表した。

なかでも注目したいのは、本業で稼ぐ力を表す、営業利益率だ。

マクドナルドは原材料やエネルギーの高騰に見舞われた2022年12月期に営業利益率が前期より1.3ポイント低い9.6%となった。マクドナルド値上げで原材料高を抑え込もうと試みたが、原価率が80.0%から81.7%に上がっており、インフレの影響を転嫁しきれなかった様相がわかる。

しかし、さらなる値上げで2023年1-9月の原価率は80.5%まで下がった。これは記録的な物価高に見舞われる前とほぼ同じ水準となったのだ。

営業利益率は11.5%であり、この数字は2021年1-9月に迫るもの。この時期はコロナ禍の特需に見舞われており、営業利益率は12.7%だった。2019年同期間の営業利益率が10.3%である。マクドナルドの稼ぐ力は、インフレを乗り越えてすでに回復している。

賃金改定率に見るマクドナルドとモスバーガーの比較

SNSでは、マクドナルドが高級品になったとの声が聞こえてくる。また、高級志向のモスバーガーと変わらなくなったとの声もある。それも当然だ。どちらも数字で説明できる。

厚生労働省が発表している「賃金引上げ等の実態に関する調査」に、1人当たりの平均賃金改定率と、マクドナルド、モスバーガーの客単価の推移したグラフがある。
2010年の水準を基準値の100として、各社の伸びを見ると、2023年の賃金は2010年と比較すると1.27倍の伸びに留まっている。しかし、マクドナルドは1.61倍、モスバーガーが1.41倍だ。

マクドナルドの客単価は、2019年まで賃金の伸びを下回って推移していた。ここまでは、安いという消費者意識が根付いていたことは間違いないだろう。しかし、2021年には1.3倍、2022年に1.5倍、2023年に1.6倍と短期間で急速に上がったため、その反動で余計に高く感じることとなる。

その一方でモスバーガーは、賃金上昇率に張り付くようにして客単価も上がっていった。そのため、値上げを実感しにくいのだ。

2019年を100として客数の推移を見ると、その後のマクドナルドはすべての年で基準値を下回っている。モスバーガーは2021年に100を割り込んだものの、それ以外は上回った。

値上げを実感しにくかったモスバーガーは客数減を抑え込むことができたが、マクドナルドはそうもいかなかった。最新の値上げで「ビッグマック」は480円になるが、「モスチーズバーガー」の480円と同じ価格となる。かつて2社の価格差が大きいことを実感していた世代は特に、モスバーガーの選好度が上がることも考えられるだろう。

マクドナルドの顧客は他チェーンに流出するのか?

SNSでは、マクドナルドからよりコストパフォーマンスのいいモスバーガーやバーガーキングに乗り換えようという声も聞こえてくる。確かに一部の消費者のなかには競合他社に乗り換える層もいるかもしれないが、値上げによってマクドナルドの顧客が著しく流出するかといえば、その可能性は低いだろう。

これは、ハンバーガーチェーンがどのような消費者の課題解決に役立っているのかを考えるとわかることだ。

飲食店の消費者調査などを行なう「ファンくる」では、「ハンバーガー店についての意識調査」を実施している。この中でハンバーガー店を利用する理由のトップは「手軽に食事ができるから」(69%)というものだ。

当たり前のように聞こえるが、これは最も重要なポイントである。

多くの消費者は「ハンバーガーを食べたい」のではなく、「近場で」「テイクアウト・デリバリー・店内飲食の多様な形態で食事ができ」「カトラリーなどの面倒な器具を使わずに清潔に食べられ」「あらゆる年齢に対応でき」「迅速に空腹を満たすことができる」といった点にメリットを感じて、ハンバーガー店を選んでいるのだ。

そうなると、圧倒的な店舗数を持ち、全国レベルで均質な味を提供する店舗オペレーションを確立したマクドナルドは有利になる。つまり、死角のないマクドナルドはインフレを抑え込んでもなお、値上げができる余地があると踏んでいるのだ。それは結果的に企業に利益をもたらし、新たな成長ステージへと向かうものであるはずだ。株価の上昇は将来的な配当金の増額に期待しているという思惑もあるだろう。

一方、リピーターに支えられているモスバーガーやバーガーキングは値上げがしづらく、集客に注力する必要がある。値上げよりも集客のほうがはるかに難しく、中期的にはマクドナルドの優位性がまだまだ高まるはずだ。

取材・文/不破聡