昨年秋、1か月ほどイタリアを旅してきました。コロナ禍を経て久しぶりの海外旅行。日本では体験できないこと、ありえないことが続出のイタリアひとり旅でした。その様子は“世界遺産・アマルフィの「おっぱい噴水」ってなんだ?”として…

昨年秋、1か月ほどイタリアを旅してきました。コロナ禍を経て久しぶりの海外旅行。日本では体験できないこと、ありえないことが続出のイタリアひとり旅でした。その様子は“世界遺産・アマルフィの「おっぱい噴水」ってなんだ?”として、おとなの週末Webに書かせていただきました。そして今回も、日本人の常識(?)とはやや異なる、ローマで体験したカルボナーラのお話です。

ピッツァといえば「ナポリは丸形」「ローマは角形」

5年ぶりに訪ねたローマ。おいしいものは数多くあるのでしょうが、ひとり旅のジジイは敷居の高いリストランテよりも、ファーストフードに近いカジュアルな店での食事が楽しみです。

たとえば、ローマ名物といえば「切り売りピッツァ」。ピッツァといえばナポリですが、あちらは丸形。けれど、ローマでは、大きな角形のピッツァを四角く切り、量り売りしたものが人気で、すでに立派なローマ名物だそう。

ローマ名物の切り売りピッツァ。四角く焼かれたものを量り売りしてくれる

専門店も多く、なかでも行列が絶えないのが、「ボンチ」(Bonci)というお店。地下鉄でいうと、バチカンの最寄り駅「オッタヴィーアーノ」の西寄りのひとつ先の駅「チプロ」駅前に本店があるのですが、驚きの70人待ち。

ならばと、徒歩15分ほどの支店で人気の味にありついたジジイでした。見た目も麗しい野菜たっぷりのピッツァは、冷凍食材を一切使わないというこだわりで、バリエーションの豊富さも人気の秘密のようです。たしかに超うまい!

待ち人が絶えない切り売りピッツァの人気店「ボンチ」。本店はバチカンの北西
「ボンチ」のピッツァ。量り売りの最小サイズは1枚5ユーロ前後

「絶品のカルボナーラ」を目指して、ランチタイムに一番乗り!

そんなローマ名物には、カルボナーラもあります。

日本でカルボナーラといえば、スパゲッティのカルボナーラだが……

日本でも人気のスパゲッティメニューですが、本場イタリアでは、生クリームは使わずに、卵、チーズ、パンチェッタという豚の塩漬け肉でつくったソースに、パスタをからめるということです。濃厚な味わいが期待できそうですね。

オイラはジジイ(68歳)ですが、大のスパゲッティ好き。「ならば、本場のカルボナーラを……」ということで、ガイドブックを片手に人気の店へ出かけてみることにしました。

そこで頼りにしたのは、3年間ほどローマで暮らしていた女性が書かれた書籍です。“観光客のいない素顔のローマ”がテーマらしく、なるほど魅力的なスポットがいくつも紹介されていました。先の切り売りピッツァのお店も、じつはこの本で紹介されていたのです。

その本のなかで「絶品のカルボナーラ」として紹介されていたお店があります。「トラットリア・アンティーコ・ファルコーネ」という街の食堂。バチカンのサンピエトロ大聖堂から徒歩で15分ほど、トリアンファーレ市場の近くにあります。

カルボナーラがおいしいローマのお店「トラットリア・アンティーコ・ファルコーネ」。地下鉄A線のオッタヴィアーノ駅から徒歩10分くらい
「トラットリア・アンティーコ・ファルコーネ」は外でも食事ができる

そうそう、切り売りピッツァのお店からもそう遠くない場所です。ランチタイムの開店時間は12時30分でしたが、その1時間近く前からお店の外でビールを飲みながら“張り込み待機”して、いざ入店。はい、一番乗りいたしました。

お昼の開店時間は12時30分。開店の1時間近く前から待機して一番乗り

いよいよ本場のカルボナーラを実食!

まずはプロセッコ(スパークリングワイン)でひとり乾杯です。

シュワシュワのつまみは、バカラという塩ダラのフリット。これもローマ名物だそうです。あつあつのホクホクです。こりゃ期待にたがわぬお店と確信し、目的のカルボナーラも注文いたしました。

つまみの前菜では「フリット・ディ・バカラ」(塩ダラのフリット)がうまい

待つことしばしで、キタキタ来た〜〜。オイラのテーブルにカルボナーラが運ばれてきました。が、うん? これが、お目当てのカルボナーラ? とジジイは一瞬目を疑いました。

問題のカルボナーラ。太めのショートパスタ「リガトーニ」のカルボナーラ

運ばれてきたのはスパゲッティではなく、かなり太いショートパスタを使ったお料理です。恥も外聞もなくお店の人を呼び、拙いカタコトのイタリア語で確認しました。

オイラ「これ、カルボナーラですか?」
お店の人「はい。パスタ・カルボナーラです」
オイラ「スパゲッティではないのですか?」
お店の人「はい。本日のパスタ“リガトーニ”でご用意いたしました」

と、ハキハキと明快に答えてくれたのです。そこには一点の曇りもなく、「間違いなくカルボナーラだからね」と自信満々な口ぶり。

たしかに太めのショートパスタである、リガトーニのカルボナーラは超おいしく、卵とチーズの濃厚なソースがリガトーニのギザギザした溝によくからんで絶妙な味わい。はっきり言って、「こんなうまいカルボナーラは食べたことがない」というレベルでした。

生きていてよかった。もちろん、完食です!

リガトーニは縦に溝が刻まれたショートパスタ。ソースがからみやすい

味わったことのないカルボナーラで満たされたオイラはそこで、はたと気づきました。「そ、そうか。スパゲッティ仕立てのカルボナーラを食べたければ、スパゲッティ・アッラ・カラボナーラと言わなければダメということか……」

実際、お店のメニューを見てみると、「Carbonara」というイタリア語メニューの下には、「Pasta,Egg,bacon,cheese」と英文での説明もありましたが、そこにも「spaghetti」の文字はなく、「Pasta」とあるまでです。

たしかにメニューにも「Carbonara」とあり、「Spaghetti」という文字はない

リガトーニももちろん、パスタのひとつです。なので、パスタと表示している限り、どのパスタを使おうとお店の都合ということなんでしょうか……。

頼りにしてきた本には、そんなことは一行も書かれていませんでしたが、本で紹介しているカルボナーラはスパゲッティを使った写真でした。実際、「カルボナーラ=スパゲッティ」と思っているのは、オイラだけじゃなく、日本のかなりの人々はそう思っているのではないでしょうか。

しかし、本場のローマではそうではなかったのです。オイラの知人のイタリア人に、このことを話してみたらこんな言葉が返ってきました。

「リガトーニでおいしかったんでしょ。だったら問題ないんじゃない? 私もスパゲッティのより、リガトーニのカルボナーラのほうが好きかも」

と。つまり、イタリア人にとっては、「スパゲッティか、リガトーニかはどうでもよく、おいしいことがいちばん」ということなのです。なるほど、納得。

ちなみに、イタリアでカルボナーラといえば、太めのショートパスタを使う場合が実際多いということです。なので、どうしてもスパゲッティのカルボナーラを召し上がりたい場合は、「スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ」とパスタ名を指定して言いましょう……というお話でした。

文と写真/沢田 浩