神戸市の人口が減少している。2001年以来22年ぶりに150万人を下回った。金融アナリストの高橋克英さんは「バブル崩壊、阪神淡路大震災、円高や不況に加え、大阪一極集中の影響もある。一部では、神戸に住むよりも大阪のタワマンに住む方がステータスになっているくらいだ」という――。
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神戸市の人口が22年ぶりに150万人割れ

2023年10月12日、神戸市は、2001年以来22年ぶりに人口が150万人を下回ったと発表した。

久元喜造神戸市長は同日の会見で、「神戸が再び人口増に転換するという可能性はほとんどないのではないか」とまで発言している。

神戸は幕末に開港以来、港町として急速に発展し、戦前には東京、大阪、名古屋、京都、横浜とともに「六大都市」と称されていた。

しかし、神戸市の人口は2011年の154万5000人をピークに減少に転じ始め、2015年に福岡市、2019年には川崎市に抜かれている。20ある政令指定都市のうち7番目の人口規模にまで転落している(2020年国勢調査)。

同じ港町として対比される横浜市が、東京一極集中と首都圏拡大の恩恵を受けて、絶え間ない再開発やマンション建設などにより、大阪市を抜き去り政令指定都市トップの377万人の人口を誇るのとは対照的だ。

日本屈指の大都市だった「ブランド都市」神戸がなぜ、衰退しているのか。

■大成功のポートピア博と「株式会社神戸市

海と山が迫る神戸市には平地が少ない。急増する人口に対応するため、山を削り、道路と地下鉄を通しニュータウンを築き、その土砂で人工島を造成することで、土地を確保するとともに収益をあげる事業を進めてきた。この結果生まれたのが、人工島のポートアイランドと六甲アイランドであり、山を切り崩した神戸市営地下鉄西神・山手線沿いには、須磨ニュータウンや西神ニュータウンができた。

人工島の完成を記念し、1981年には、懐かしいゴダイゴのテーマソングとともに「神戸ポートアイランド博覧会」(ポートピア博)が開催され、1610万人が来場し、60億円を超える黒字を確保するとともに、人工島への企業や大学の進出も増えた。当時、ポートアイランドのマンションに住むことは、ステータスだったという。さらに1985年のユニバーシアード神戸大会も成功し、神戸市は「株式会社神戸市」と称され、人口も増加し、ブランド都市としての評価も一層高いものとなった。

■バブル崩壊、震災による被害、不況……

しかし、「株式会社神戸市」の成功は長続きしなかった。

1991年にバブル崩壊が始まると、神戸を含む日本全国の不動産価格は急速に下落した。起債を含む借入金と地価高騰を前提とした「株式会社神戸市」は立ちいかなくなり、1995年には阪神淡路大震災が起きて神戸は壊滅的な被害を受けることになる。

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震災からの復興過程では、円高や不況が続くなか、多くの工場が海外へと移転したり、本社を東京に移した。数多くあった外資系企業も日本イーライリリーなどを除けば、P&Gジャパン、ネスレなど神戸での規模を縮小した企業も多く、神戸経済とともに神戸港のプレゼンスも大きく低下した。

神戸はもともと鉄鋼や造船、繊維、製靴などの多様な産業で栄えていた。現在も神戸に本社がある上場企業には、川崎重工業、神戸製鋼所、住友ゴム工業、三ツ星ベルト、ノーリツといった製造業に加え、アシックス、ヒラキ、ノエビアホールディングス、シャルレ、キムラタン、ワールドといった衣料、靴、化粧品などの製造や小売り、六甲バター、ロック・フィールド、フジッコ、モロゾフなど食品関係が多い。

地元大企業の流出や衰退は、地元の雇用や下請け企業の業績などにも悪影響を及ぼしており、神戸市では産業の停滞と雇用創出力の低下により、人口減少に繋がる負のスパイラルが続くことになる。

■大阪への一極集中が進む

更に追い打ちをかけたのが、大阪への一極集中だ。かつては、「京都で学び、大阪で働き、神戸に住む」ことが理想とされていたものの、今は神戸よりも、大阪のタワマンに住むことが一部ではステータスになっている。大阪梅田の大規模再開発などもあり、大阪一極集中が進むなか、首都圏同様に、富裕層やシニア層に加え、若い共働き世帯を中心に、子育てにやさしく通勤に便利な住処を選ぶ傾向が続いているのだ。

2022年1月まで日本で最も高い(209m)居住用マンションだったThe Kitahama(大阪・中央区)。2022年1月に虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー(221m)が完成し国内2位となった。(写真=W236/Wikimedia Commons)

実際のところ、関東同様に、JRと阪急や阪神など多くの私鉄が走る関西では、「乗り換えなしで大阪都心まで通勤通学できるエリア」が広いといえる。

特に、JR西日本が運行する神戸線・京都線の新快速は利便性が高い。大阪駅までわずか21分の三ノ宮はともかく、神戸市郊外のニュータウンから三ノ宮などで乗り換え、大阪都心に1時間以上電車に乗って通うよりも、神戸よりも遠いイメージのある明石から大阪に通う方が乗り換えもなく、電車に揺られる時間も37分と近かったりする。

実際、明石市では子育て世代への支援強化などもあり、人口増加に転じている。また、神戸よりも大阪寄りの西宮、芦屋、尼崎などでも新築マンションの建設や大阪都心へのアクセスの良さから神戸から転出超過の傾向が続いている。

■神戸の異国情緒はインバウンドには不人気

確かに、大阪までの通勤を考えた場合、神戸郊外のニュータウンや、六甲アイランドやポートアイランドなどの人工島からでは、乗り換えもあり遠く不便だ。三宮など中心部でのタワマン建設規制もあり、神戸の一人負け状態が続いているのだ。

なお、前出の会見で久元神戸市長は「高層タワーマンションは正直持続可能ではないというふうに思います。数十年するとこれは廃墟化する可能性があって、我が国の大都市においては極めて深刻な問題が生じます。やはり神戸市としては目先の人口増を追うのではなくて、持続可能な大都市経営を目指すということから考えたときに、高層タワーマンションの建設抑制ということは続けたい」と発言している。

インバウンドの復活により、関西では京都の歴史的な神社仏閣や大阪での買い物などを目当てにした観光客で連日大賑わいだ。

一方で、神戸といえば、港町に異国情緒のイメージながら、世界遺産もなく、外資系ラグジュアリーホテルもないこともあり、実はインバウンドには不人気だ。神戸の異国情緒は、日本人にとっては魅力的かもしれないが、中国人が南京中華街を見ることもなく、欧米人が異人館を見てもあまり感動しない。神戸としてはむしろ、有馬温泉や六甲山などの温泉やトレッキングなどの方が、インバウンド対策としてポテンシャルがあるのかもしれない。

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■大規模再開発は進むが、完成はまだ先

勿論、神戸市も手をこまねいている訳ではない。2021年4月、阪急神戸三宮駅と一体となった「神戸三宮阪急ビル」が開業したのに続き、三宮周辺では大規模再開発が続く予定だ。

神戸市役所2号館の建て替えでは、総工費300億円以上で2028年度頃の完成を目指し地上24階、高さ約125メートルの高層ビルに、外資系ラグジュアリーホテルが入居する見通しと報じられている。

また、神戸三宮駅前の「雲井通5丁目」の再開発では、2027年竣工予定の地上32階、高さ約163メートルの駅直結の複合ビルと西日本最大級のバスターミナル施設もできる予定だ。ビルの最上階には、大手ブライダル企業のテイクアンドギヴ・ニーズが神戸初のラグジュアリーブティックホテル「EVOL HOTEL KOBE」を開業するという。六甲山やポートアイランドなど神戸の景色を一望でき、インフィニティプール、テラス付きレストランやバー、ジムやスパなどができるという。

■ウォーターフロントにはアリーナが建設中

JR三ノ宮駅では、JR西日本が中心となり駅ビルの建て替え事業が進められており、地上32階、高さ約160mの新駅ビルは、2029年度の開業予定だ。

更に、神戸のウォーターフロント「新港突堤西地区」には、アリーナが建設中だ。新アリーナは地上5階建てでスポーツ、音楽ライブ、国際会議などに利用される。Bリーグ2部の「神戸ストークス(旧:西宮ストークス)」は、2025年春に完成予定の新アリーナを本拠地とする予定だ。

その他、大阪湾を半周するように結ぶ阪神高速道路「大阪湾岸道路西伸部」の建設工事や、神戸空港の発着回数の増枠、国際線の就航の検討も始まってはいる。

もっとも2024年春にリニューアルオープンする神戸ポートタワーを除けば、いずれの計画もまだまだ先の話だ。

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■「神戸ブランド復活」に向けて打つ手はまだまだある

神戸市では、人口減少に転じている。借入金と地価高騰を前提とした「株式会社神戸市役所」の挫折、震災の影響と産業構造の変化による地元大企業の流出や衰退、足かせとなるニュータウンの存在、大阪の吸引力の強さと周辺自治体との競争などがその原因だ。少子高齢化が続く日本では、この先も過疎化が続く一方、東京一極集中を頂点として、大阪市や福岡市や札幌市への一極集中など、地方都市のなかでも格差は広がってきている。

かような環境下、「神戸ブランド」の復活はあるのだろうか。久元神戸市長が進めるタワマンに頼らない三宮の大規模再開発、職住近隣政策は理想形ながら、共働き世帯前提の施策設計、子育て支援の大幅な拡充、大阪都心や神戸空港へのアクセス改善、インバウンド誘致、外資系ラグジュアリーホテルの誘致、プロスポーツ振興、地元でのスタートアップ育成など、まだまだ打つ手はありそうだ。新しい賑わいをもたらすことで生き残りを図れるのか、神戸市にはこの先も注目していきたい。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。
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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)