憲法より上位の存在である共産党の一党独裁が続く中国には、さまざまな文化的タブーや検閲事項が存在しており、例えば「くまのプーさん」が御法度となっていてプーさんが登場する映画も中国では上映できないことは有名です。10月から11月にかけての時期には、政治的な事情により中国の伝統料理である「卵チャーハン(蛋炒飯)」がデリケートな話題なっており、卵チャーハンの作り方を解説しただけの料理動画に飛び火する事態に発展したことが報じられました。

做飯觸及敏感詞 中國美食網紅宣布不再做蛋炒飯 | 兩岸 | 中央社 CNA

https://www.cna.com.tw/news/acn/202311280165.aspx

Chinese Chef Stirs Furor With Egg Fried Rice Tutorial

https://www.voanews.com/a/chinese-chef-stirs-furor-with-egg-fried-rice-tutorial/7378090.html

Chinese celebrity chef Wang Gang vows to never cook egg fried rice again after nationalist backlash | CNN

https://edition.cnn.com/2023/11/30/china/china-celebrity-chef-egg-fried-rice-backlash-intl-hnk/index.html

SNS上で1000万人以上のフォロワーを擁する中国の人気シェフで、美食作家王剛(グルメライター王剛)としてYouTubeチャンネルでも活躍している中華料理人の王剛(ワン・ガン)氏は2023年11月27日に、中国のソーシャルメディア・微博(Weibo)で卵チャーハンのレシピを伝授する動画を公開しました。記事作成時点では既に削除されているこの動画は、一見すると何の変哲もない10分間の料理動画だったとのこと。

しかし、この動画は中国の国家主義者の怒りを買って炎上してしまい、微博、Bilibili、YouTubeには数千件の批判コメントが殺到。王氏は即日問題の動画を削除し、その日の遅くに公開した謝罪動画で、「皆さんに謹んでおわび申し上げます。料理人として、二度と卵チャーハンを作ったり、卵チャーハンを撮影したりしません」と陳謝しました。なお、この謝罪動画も残っていません。



中国で10〜11月に卵チャーハンが政治的に敏感な料理になるのは、卵チャーハンのせいで毛沢東の長男である毛岸英が死んだという逸話があるためです。

1950年11月25日、朝鮮戦争に参加していた毛岸英は、連合軍の爆撃を受けて平安北道の共産党司令部で戦死しました。その際の経緯については諸説ありますが、元陸軍司令部副部長である楊迪は、2002年に再版された回想録の中で「連合軍が卵チャーハンを調理する煙を発見し、これが原因で毛安英は殺害された」と指摘しています。

それ以来、卵チャーハンは毛岸英の死と結びつけられており、一部の中国人は冗談やからかう意図で11月25日を「卵チャーハン祭り」と呼んだり、「記念」と称して卵チャーハンを食べたりしているとのこと。なぜなら、毛沢東の息子が死んだことで、中国が北朝鮮のような世襲的指導体制による支配を免れた側面があるからです。



一方、中国政府は毛岸英の死因を卵チャーハンとする説を否定しているため、中国では毛岸英の命日である11月25日や誕生日である10月24日、もしくはその前後の期間に卵チャーハンの話を持ち出すことがタブーとなっています。

また、2018年には国家の「英雄や烈士」に対する中傷を禁止し、違反者に最高で3年の懲役を科す法律も制定されており、ジャーナリストの羅昌平(ルオ・チャンピン)氏は2022年5月に、朝鮮戦争を描いた映画に登場する中国軍の兵士をからかったとして懲役7カ月を言い渡されました。

実は、王氏が卵チャーハンの料理動画で炎上するのはこれが初めてではありません。王氏は2018年10月22日にも「自家製卵チャーハン」を紹介するという動画を公開していたほか、2020年10月24日には卵チャーハンに具材を加えた豪華版である「揚州チャーハン」を作る動画を公開し、謝罪に追い込まれています。

3回目の炎上となった今回の謝罪動画で、王氏は軍の勲章を身につけた祖父の写真を見せ、祖父も朝鮮戦争で6年戦ったことを明かして、「兵士はとても神聖な存在です。心よりお詫び申し上げます」と述べました。



by Travis Wise

王氏の動画に激怒したインターネットユーザーがいる一方、困惑する人もいるとのことで、ネットでは「なぜチャーハンの動画を投稿できないんですか?」「チャーハンの話ができないのは1年のうちどの時期かはっきりさせてください」といった声が上がっていると、台湾の国営通信社・中央通訊社は報じています。

また、海外メディア・CNNによると、王氏が10月や11月以外の時期にも卵チャーハンの動画をよく投稿していることを指摘して、「謝る必要はありません。むしろ社会の方があなたに謝罪すべきです」と王氏を擁護するWeiboユーザーもいたとのことです。