美容業界に出没する亡霊がいる。それは、デュープ(模造品、コピー商品)の亡霊だ。

若い世代からは代用品扱いのコピー商品



過去3年間で、コピー商品とその蔓延によるデュープカルチャーは美容業界の悪者としての座を急速に築きつつある。コピーされたブランドは、顧客が低価格の模造品を購入して、自社のブランド価値が損なわれることを懸念している。これまでは、模造を指す表現として「模造者」や「コピーキャット」のような軽蔑的な言葉が使われていたかもしれないが、「デュープ」という言葉には、消費者が資本主義的な企業を出し抜いて、同じレベルの代替品をもっと安い価格で見つけられるという誇りのようなものが込められている。その結果、プレミアムブランドは自社の価格を正当化するためにこれまで以上に大きな負担を抱えている。ブランドは自社製品の購入価値を顧客に伝えようと常に尽力してきたが、デュープカルチャーにより、自社製品の購入価値の理由と他社が真似できない理由をさらに詳しく説明するように迫られており、それを強いられている場合もある。

「若い世代は(デュープを)ブランドの模倣とは考えていない。代替手段だと考えているのだ」と述べるのは、ニールセンIQ(Nielsen IQ)の美容バーティカルバイスプレジデント、アンナ・メイヨー氏だ。「特に頻繁にコピーされていて、それが自社にとって何を意味するのかを理解したい大手ブランドにとって、これが最優先事項であることは承知している」。

どのプラットフォームがデュープカルチャーに最大の影響を与えているかを定量的に導き出すことは困難だが、できるかぎり多くのオーディエンスにリーチできるようにコンテンツがデザインされていることを思えば、質的にはTikTokが主要な推進力であると考えて間違いはないだろう。TikTokでは、ハッシュタグ #makeupdupes、#beautydupe、#highenddupesの累計再生回数が12億回を超え、その数は日々増えている。

フレグランスブランド、ドシエの主張



デュープカルチャーを恥じることなく受け入れているブランドもあれば、それをほのめかすアプローチのブランドもある。堂々と受け入れているブランドには、フレグランスブランドのドシエ(Dossier)がある。他社の香りを参照した製品名で、デザイナーやラグジュアリーのフレグランスのコピー製品を29〜49ドル(約4300〜7300円)で販売している。ベストセラーには、ル ラボ(Le Labo)のサンタル 33(Santal 33)から「インスピレーションを得た」ウッディサンダルウッド(Woody Sandalwood)や、バカラ ルージュ 540(Baccarat Rouge 540)をコピーしたアンベリーサフラン(Ambery Saffron)などがある。ドシエによると、顧客は約20〜35歳と若く、ほとんどが女性だ。D2C eコマースサイトとウォルマート(Walmart)で販売されており、2024年には数は未定だが、D2Cブティックをオープンする予定がある。ドシエは、TikTokやYouTubeのコンテンツクリエイターへのアフィリエイトに注力したギフティングを通じて大幅に宣伝している。同社の共同創業兼CEOのセルジオ・タケ氏は、香水の利益率がほかの美容製品よりも一般的に高く、原液は商標登録できないという会話から創業4年のドシエが生まれたと語っている。また、タケ氏は、原液の製造コストは通常わずか数ドルであり、高価な有名香水の安価なバージョンを提供してもドシエにはかなりの利益があるのだと述べている。

「デュープカルチャーのトレンドを意識していたわけではない。(素晴らしい製品、)特に香水を、手頃な価格で提供しようしただけだ」とタケ氏。「それが当社のノーススターであり、デザイナー香水やラグジュアリー香水にインスピレーションを得て香水を作っていることを隠してはいない」。

タケ氏は、「デュープ」という言葉を受け入れるのは絶妙なバランスだと語っている。なぜなら、ドシエは高品質のフレグランスで全体的に知られるようになりたいと願っているからだ。同社は、2022年にローンチしたドシエ・オリジナルズ(Dossier Originals)というオリジナル製品も提供している。タケ氏によると、オリジナルのフレグランスを作るという意欲はさらにユニークな製品を提供したいという思いから生まれたという。コピーブランドも自社がコピーされるのはやはり望んではいないのだ。ほかのデュープフレグランスブランドには、アルト(Alt)、オークチャム(Oakcham)、パーフェイム(Perfame)などがある。ドシエは、2024年を通じて機能性フレグランスを含むオリジナルコレクションを拡大する予定だ。Inc. 5000の2023年版米国の急成長中の企業リストで、ドシエは31位にランクインしており、2020年から2023年のあいだに収益が1万パーセント以上増加している。ヨットポ(Yotpo)のケーススタディによると、ドシエのSMSテキストメッセージは総売上高の20%を推進しているという。

コピーされたブランドにもメリットがある?



ニールセンIQは11月に新たに発表したレポートで、デュープカルチャーを調査し、それが美容業界にどのような影響を与えているかを定量化した。メイヨー氏は、コピーが元のブランドにハロー効果をもたらし、売上を共食いする代わりに美容カテゴリー全体を成長させたことが判明したのは驚きだったと述べている。ニールセンIQは、コピー製品で知られる4ブランドとコピーされることの多いブランド5社(いずれも非公開)を調査し、7月15日までの52週間において、コピーブランドの売上が41.1%増加したことを発見した。しかし、同期間にコピーされたブランドは53.5%売上が増加した。世帯普及率とリピート購入者については、コピーされたブランドとコピーブランド双方に成長がみられた。世帯普及率ではコピーブランドは2.9ポイント、コピーされたブランドは2.3ポイントの増加だった。リピート購入者は、コピーブランドでは2.3ポイント、コピーされたブランドでは1.4ポイント増加した。

だが、もっとも驚くべきことは、化粧下地や仕上げスプレーなどのニッチなカテゴリーがコピー商品のおかげで売上を伸ばした点である。これは、コピー商品が消費者に新規カテゴリーへのエントリーポイントを提供していると解釈できる。たとえば、これまで化粧下地を使ったことがないが関心がある人にとっては、安価なコピー商品をまず使ってみて、最終的にはプレミアム価格の商品に買い替えることが可能になる。逆に、経験豊富な顧客は、あるカテゴリーに留まりたいがゆえにプレミアム製品を安価な製品へ買え替えることもあるだろう。

メイヨー氏は、コピー製品により収益にどのような影響があるかに気をとられているコピーされたブランドに対し、デュープカルチャーを是認しなくとも受け入れるようにアドバイスすると述べている。また、ブランドにとって、インフレ以外で消費者物価がどのように上昇したか、そしてそれが購入客との関係にどのような影響を与えているかを認識することも重要である。米国労働統計局によると、消費者物価指数は9月30日までの12カ月間で3.7%上昇している。一方、7月15日までの52週間を測定したニールセンIQオムニショッパー・パネル・トータル・US(Omnishopper Panel Total U.S)調査によると、米国の消費者信頼感指数は4.8ポイント低下して103ポイントとなった。アイルランドの詩人オスカー・ワイルドは、皮肉屋とは、あらゆるものの値段を知っているが、そのいずれの価値も知らない人間のことである、と語った。ある意味、この皮肉は消費主義に浸透している。ニールセンIQレポートによると、消費者の44%は高級なオリジナル商品を買う余裕がなかったためにコピー商品を購入したが、22%は高価なラグジュアリーまたはデザイナー美容製品を購入する価値があるとは思わなかったためにコピー商品を購入している。

ナーズ(Nars)のマーケティング担当シニアバイスプレジデント、アンジェラ・シンプソンは氏は、今年の初めにインタビューで次のように語っていた。「プレステージマーケティング担当者として、コピー商品が(オリジナルと)同じではないことを示すのが我々の仕事だ。競合他社は出てくるだろうが、オリジナルとは違う。それを世間に知らしめて、コピーは別物だと伝えるのが私の仕事。ブランドはコピーと競合するために割引しようかと思うかもしれないが、それは良い結果にはつながらない」。

コピー品に対するブランドのさまざまな対応策



ルルレモン(Lululemon)は今年初め、独自のコピー商品対策キャンペーンを実施し、ロサンゼルスのセンチュリーシティモールの店舗で「交換」を行った。人気のアライン(Align)パンツのコピー商品を持ち込めば正規品と交換すると奨励したのだ。一方、オラプレックス(Olaplex)は、9月、オラデュぺ(Oladupé)という面白いソーシャルキャンペーンをローンチした。これには、オラプレックス独自の処方や製品イノベーションには真の模倣者は存在しないことを強調して、「模倣者を騙す」という目的があった。オラプレックスは、割引を行わないボンドビルディング分野のイノベーターとして、特に模造品に対して脆弱だった。9月の時点で、ハッシュタグ #olaplexdupe は、TikTokで3000万回のオーガニックビューがあった。

オラプレックスCMOのシャーロット・ワトソン氏は次のように述べている。「今年、多くの誤った情報が行き交っていた。したがって、このキャンペーンでは当社の科学技術と製品の実証ポイントを意図的に強化した。それこそ、オラドゥペがオラプレックスとまったく同じ要素を備えていた理由だ。これは、広範なデュープカルチャーの環境のなかで消費者ジャーニー全体を横断して、当社製品の価格が高いのには理由があることをオーディエンスに思い出してもらう方法だった。客は技術と実証済みの成果を購入しているのだ」。

オラプレックスのユニークなキャンペーン



オラプレックスは、TikTokクリエイティブエージェンシーのムーバーズ+シェイカーズ(Movers + Shakers)と協力して、「オラデュペ(Oladupé)」というキャンペーンコンセプトを作成した。オラプレックスは、9月25日、レラニ・グリーン氏、イェスリー・ディメイト氏、シェイ・アレクシス氏、オードリー・ブース氏らを含む100人以上のアーンドインフルエンサーとペイドインフルエンサーを起用したアンボクシングキャンペーンを通じて、オラデュペという架空の製品をローンチした。消費者はOladupé.comに誘導され、登録した最初の160人には無料でオラデュペのボトルがもらえるということだった。届いたのはオラプレックスNo.3のボトルで、このジョークについて説明文が添付されていた。同社は、9月29日、オラデュペはオラプレックスが開発したコピー製品であることを明らかにした。

ワトソン氏からはキャンペーンへの投資額は共有されなかったが、上場企業のオラプレックスは以前、サンプリング・販売・マーケティングの人件費を含むマーケティング費用が2022年の4000万ドル(約60億円)から2023年には7000万ドル(約105億円)に増加するという予想を明らかにしていた。公開市場において5四半期連続で業績が振るわなかったが、11月7日に発表された最新の2023年第3四半期決算では、純売上高が1億2360万ドル(約185億円)で前年同期比で30%減少したことが示された。いくつかの要因が売上不振につながっているが、ワトソン氏はコピーが売上に直接影響を及ぼしている範囲を特定することはできないと述べた。しかし、ボンドビルディング分野における競争の激化、特に #Olaplexdupe ハッシュタグの恩恵を受けている企業がオラプレックスの売上に悪影響を及ぼしているのは容易に想像がつく。最近、オラプレックスは、元スーパーグープ(Supergoop)CEOのアマンダ・ボールドウィン氏が、オラプレックスの成長と2021年のIPOに貢献したジュイ・ウォン氏の後任としてCEOに就任すると発表している。

「(オラデュペは)ソーシャルメディア上でちょっとしたムーブメントを起こすことができた。消費者は他ブランドに『貴社製品が他社からコピーされない理由を説明してくれ』と言っているそうだ」とワトソン氏は語った。

このキャンペーンの初期のインサイトでは、ブランド名のハッシュタグ #Oladupe が TikTokで7200万回再生され、#OlaplexDupe の使用が増えたことが示されている。ワトソン氏は、トライブダイナミクス(TribeDynamics)によると、このキャンペーンのおかげでオラプレックスは9月にヘアケア分野のアーンドメディア価値で1位の座を取り戻した、と述べている。キャンペーンの有料プロモーションは10月末まで延長された。また、オラプレックスは、無料配布が終了した後にOladupé.com上で提供されたり有料インフルエンサーから共有された割引コードを介して、キャンペーンからの新規顧客のコンバージョンを追跡した。割引コードはインフルエンサーのフォロワーがオラプレックスを初めて購入するときに使えるものだった。ワトソン氏は正確なコンバージョン数については共有してくれなかったが、オラプレックスには強い牽引力があると述べた。

ワトソン氏は、オラデュペ製品の購入を促すマーケティングメッセージ(160の特許と独自の有効成分の強調など)により、オラプレックス独自の科学技術も強調されると述べている。(オラデュペの)ランディングページでは相違点が挙げられ、有効性が示されていた。このキャンペーンの皮肉な点は、オラデュペはオラプレックスとまったく同じだったにもかかわらず、オラデュペがオラプレックスよりも高い顧客の関心と肯定的なセンチメントを得て、その恩恵を受けているように見えたことである。

「ソーシャルメディア上では、当社についてあらゆる会話が起きている。そして、これは当社が会話に加わり、『そう、当社製品は真似できても、複製はできない』ことを皆に思い出してもらう機会であり、それを遊び心にあふれた方法で行った」とワトソン氏は述べた。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: How dupe culture impacts beauty brands]

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)