今、団地に注目が集まっています。間取りが使いやすい、敷地が広い、緑が豊か…といった団地ならではのメリットはたくさん。自分らしい部屋づくりがかないます。

家族と一緒だったり、ひとり暮らしだったり、さまざまな年代、ライフスタイルの方の団地住まいの実例を紹介している『団地で見つけた身軽で豊かな暮らし方』より、声楽家として活動する服部雅子さんの住まいをご紹介します。

【写真】車イス仕様に大改装したトイレ・洗面・脱衣所スペース

分譲だからできた大改装。だれにとっても便利な部屋に

服部さんの住まいは、家族で暮らしていた分譲団地。自身の活動や、夫の介護のために大規模なリフォームを経ています。暮らしの変化に合わせて、より使いやすく生まれ変わった住まいの様子を見せていただきました。

●防音工事と夫のための介護リフォーム

外観はなんの変哲もない団地の玄関。しかし、入ってすぐの一部屋は、なんと防音室! 中にはグランドピアノが置いてあります。服部さんの練習部屋であり、生徒さんが来たときの教室でもあるのです。

「大々的な防音工事をして、ピアノは脚を外して窓から入れました。あまりにも大変だったから、業者さんに『二度と引っ越さないでください!』って言われたほど(笑)」

隣同士で2軒購入した、この分譲団地で、3人の息子を育て、介護も経験しました。服部さんが58歳のとき、夫が病に倒れ、手術を受けたものの重篤な後遺症が残り、介護が必要な状態に。1年半ほど入院したのちに、要介護5と認定された夫を自宅で介護しようと決意しました。

「1か月間の急ピッチで部屋を大改装。ここで6年半、一緒に過ごしました」

コンセプトは「オープンな病室」。バリアフリー化はもちろん、看護師や理学療法士の「控室」まで用意しました。

「介護の末、夫は8年前に亡くなりました。でも、やりきった! という思いはあります。今はひとり暮らしですが、やがては私も老いていく。そのときは、ここが私の介護施設になりますね」

防音室はドアも窓も、もちろん防音仕様!

部屋の入り口にはスタジオなどで使われる特殊なドアを取りつけ、窓はすべて二重サッシに。

クリスマスのリサイタルに向けて、練習にも熱が入ります。ドイツ歌曲のほか、親しみやすい日本の曲を歌うことも。

介護に必要な大きな空間を設け車イスで動きやすい仕様に

ふすまで仕切られていた2部屋を1部屋にして夫の介護用ベッドを設置。今は居心地のよいマルチルームとして活躍しています。

●ふすまを取り払って医療用ベッドも入る大きな一部屋に

2部屋をひとつにして、東西の壁は壁面収納に。訪問入浴の浴槽が広げられるほど、広いスペースを確保しました。

「夫の介護のときは部屋の中央に医療用ベッドを置いていたんです。私のベッドは、押し入れを改装したスペースに置きました」

咳き込んだりしたら、すぐに起きて手当てできるように、服部さんのベッドは夫と対面できる位置にしてありました。天井からのカーテンを閉めるだけですぐ目隠しに。逆に、人が大勢来たら、ソファ代わりに座ってもらうことも。

●段差をなくした床と手すりに今も助けられて

部屋の入り口の段差はスロープにしてバリアフリーに。開き戸だったドアも外して、開口部が大きくなるよう3枚の引き戸式に直しました。ベッド置き場にした押し入れの柱には手すりを設置。「これが今、私の役に立ってるんですよ(笑)」

押し入れの幅からベッドが少しはみ出た部分には板を取りつけて目隠しに。

●トイレの扉はカーテンにして車イスでも使いやすく

元は小ぢんまりとまとまっていたトイレ・洗面・脱衣所スペースを車イス仕様に大改装。

「入り口付近にあった洗面台はお風呂場のそばに移し、トイレの向きを90度回転させました。廊下との間の扉は折れ戸、トイレの扉はカーテンに替え、車イスでも便器の寸前まで行けるように」

今は大きな洗濯機を置いていますが、どかせばいつでも広々としたトイレルームに。自分が老後を迎えても安心です。