サウジアラビア出身のテロリストであるウサーマ・ビン・ラーディンは、イスラム原理主義を掲げる国際テロ組織のアルカイダの設立者や、アメリカ同時多発テロ事件(9.11)など数多くのテロ事件の首謀者として知られる人物です。イスラエルとハマスの軍事衝突に関連し、ビン・ラーディンが9.11などのテロを正当化するために作成したとされる「Letter to America(アメリカへの手紙)」という書簡の感想動画がTikTokに多数投稿されており、TikTokが対応に追われていることが報じられました。

‘Letter to America’: Some TikTok users say they sympathize with Osama bin Laden | CNN Business

https://edition.cnn.com/2023/11/16/tech/tiktok-osama-bin-laden-letter-to-america/index.html



TikTok ‘aggressively’ taking down videos promoting Bin Laden ‘letter to America’ | TikTok | The Guardian

https://www.theguardian.com/technology/2023/nov/16/tiktok-bin-laden-letter-to-america-videos-removal

TikTok Removing Videos Promoting Osama Bin Laden Letter - Deadline

https://deadline.com/2023/11/tiktok-osama-bin-laden-9-11-1235613848/

ビン・ラーディンが作成したとされる「アメリカへの手紙」は2002年に初めて公表されたものであり、約3000人を殺害した9.11などのテロ事件を正当化するため、イスラエルやそれを支持するアメリカなどを批判する内容が展開されています。

2023年11月になると、イスラエルとパレスチナの軍事衝突を受けて「アメリカへの手紙」が再注目され、TikTokで「アメリカへの手紙を読んだ感想動画」が投稿されるようになりました。アメリカのニュースメディア・CNNの調査によると、TikTokでは「アメリカへの手紙」の内容を称賛したり、共感を表明したりする動画が数十本見つかったとのこと。動画の多くは「#lettertoamerica」というハッシュタグ付きで投稿され、一連の動画の総再生回数は1400万回を超えているものの、一部の動画は「アメリカへの手紙」自体やそれを称賛する動画に対し、不満や嫌悪感を表明するユーザーのものだったそうです。

当然ながら「アメリカへの手紙」は2002年時点での中東における情勢や、当時のイスラエルに対するアメリカ政府の支援を批判するものです。しかし、一部のTikTokユーザーはイスラエルとハマスの軍事衝突にこの内容を当てはめて、アメリカ政府やイスラエルへの批判に「アメリカへの手紙」を利用しているとのこと。

アメリカ人ジャーナリストのヤシャー・アリ氏は、X(旧Twitter)で「アメリカへの手紙」に関するTikTokの動画が急増していることを取り上げました。その中でアリ氏は、「TikTokにはあらゆる年齢・人種・民族・背景を持つ人々がいます。彼らの多くは、この手紙を読んで視野が広くなり、地政学的問題をこれまでと同じように見ることは二度とないだろうと述べています。彼らの多くは、テロ行為とみなされることがいかに敵対勢力に対する正当な抵抗の形態となり得るかについて、自分たちの見方を再評価するきっかけになったと述べています」とコメントしています。



ニューヨークを拠点とするライフスタイル系ユーザーが投稿したある動画は、「アメリカへの手紙」を読むように推奨するものであり、再生回数は160万回を超えていました。すでに削除されているこの動画で、インフルエンサーは「もしこの手紙を読んだのなら、今この瞬間に実存的な危機に陥っているのかどうか教えてほしいです。なぜなら、この手紙を読んだ20分間で、私が信じてきた、そして生きてきた人生全体に対する視点が変わったからです」と述べ、ビン・ラーディンの主張に感銘を受けたことを表明したそうです。

また、10万回再生された別の動画は、アメリカ政府を日常的に批判しているユーザーが投稿したものでした。このユーザーは、「ウサーマ・ビン・ラーディンをテロリストと呼ぶなら、アメリカ政府もテロリストと呼ぶべきです」と主張したとのこと。

アリ氏のポストに反応する形で、TikTokの公式Xアカウントが声明を発表しました。TikTokは、「この書簡を宣伝するコンテンツは、あらゆる形態のテロ支援に関する当社の規則に明らかに違反しています。私たちはこのコンテンツを積極的かつ予防的に削除し、どのようにしてプラットフォームに侵入したのかを調査しています」と述べ、プラットフォームから「アメリカへの手紙」に関する動画を削除していると説明しています。その上で、TikTok上で「アメリカへの手紙」に関連する動画がトレンドになったという報告は不正確で、同様のコンテンツは別のプラットフォームやメディアでもみられると主張しました。



「アメリカへの手紙」はもともとイギリスの大手日刊紙・The Guardianのウェブサイト上で全文掲載されていましたが、一連の事態を受けてThe Guardianは2023年11月15日に掲載を取りやめています。The Guardianは掲載を取りやめた理由について、「私たちのウェブサイトで公開された文章は、完全な文脈がない状態でソーシャルメディアで広く共有されていました」と述べています。

Removed: document | Information | The Guardian

https://www.theguardian.com/info/2023/nov/15/removed-document



ホワイトハウスのアンドリュー・ベイツ副報道官はCNNに対し、「アメリカへの手紙」を称賛する流れは9.11の犠牲者および遺族への侮辱だと非難しています。

ベイツ氏は声明で、「アルカイダの指導者がアメリカ史上最悪のテロ攻撃を行い、罪のない2977人のアメリカ人を殺害した動機を説明するために発した、邪悪で反ユダヤ主義的なうそを広める正当性は決してありません。誰もウサーマ・ビン・ラーディンの卑劣な言葉に関連付けて、いまだに愛する人を弔っている2977人のアメリカ人の家族を侮辱してはなりません。特に今は、世界で反ユダヤ主義的な暴力が高まっており、ハマスのテロリストらが同じ陰謀論の名の下にホロコースト以来最悪のユダヤ人虐殺を行った直後なのですから」と述べました。