人生100年時代、第二の人生をガラリと変える人もいます。結婚、子育て、離婚、病気の発症を経て、昨年からスペインへの単身留学を送っている54歳のRitaさん。海外で暮らすことで、ものを持たなくなったというRitaさんに、そのきっかけと、持たない暮らしの心地よさについて教えてもらいました。

スペインに単身留学。暮らしの基本は「持たない」こと

スペインでひとり暮らしをスタートして1年4か月。日本を出発したときの荷物「スーツケース1つとリュック1つ」で暮らしをスタート。その後もものが増えることなく、なんとか暮らしが維持できているのは、こちらの生活環境も大きく影響していると思います。

【写真】RItaさんが暮らすすっきりした部屋

スペインでひとり暮らしをする場合は、基本的にはシェアハウス。1人1つの個室はありますが、キッチン・バスは共同です。この”自分のスペースが1つの個室のみ”という状況は、常に「はみ出てはいけない」という気持ちにさせてくれ、荷物を引き締めるのにちょうど良い緊張感になっています。

●シェアハウスで学んだものを増やさないコツ

シェアハウスの個室の広さは一般的に5〜6畳。備えつけてあるものは、ベッド・布団・勉強机・クローゼット。住宅によっては本棚や鏡などもあり、基本的には身ひとつでスタートできる環境です。部屋のクローゼットも細身でこれ以外に棚はありません。以前だったらたりないものがあれば「買いにいこう!」と当たり前に思っていましたが、自分のスペースに制限があることで、まず頭をよぎるのは「それを買ったらなにを処分する?」ということです。

そして、私なりに考えた“ものを増やさないコツ”は「定位置を変えないこと」。同じところに同じものだけを置き、はみ出た時は増えた証拠。例えば学校で新しい教科書をもらったら、古いものは写真を撮ってパソコンにデータで保管し、紙ベースのものは処分します。コスメ類もたりなくなってから購入し、常にいつものポーチからはみ出ないように管理することにしました。

●容量が限られている分、「本当に必要なもの」がわかる

今の住宅の共同冷蔵庫は、ひとり一段の利用が可能ですが、決して広いとは言えません。そのため、スーパーでたとえ安いものを見つけても冷蔵庫に入らないと思うと手が止まります。この環境で食料品すべてに目が行き届き、すみで腐らせることも似たような食材を買うこともなくなりました。

冷蔵庫も部屋も、持ち物が「すべて見渡せる環境」は、いま何が必要なのかを自然と理解させてくれます。

ただ、私も日本で子ども達と住んでいたときは「急に必要かもしれない…念のため…」と、多めに買ったり冷凍したり、できるだけ多くの食材を保存することを心がけていました。家族暮らしかひとり暮らしか、状況の違いにより「不安のない範囲」がこんなにも変わるものかと驚いているところです。

●留学生達に学んだ「持たない暮らし」

いま日常をともにする留学生達は、じつにシンプルな生活です。彼らの毎日の持ち物は「教科書とボールペン1本と水」。複数のペン・ポストイット・クリップなどがパンパンに入った筆箱を持っている人は、今まで見たことがありません。

洋服も愛用のものを着回していることが多く、その服の上から1枚羽織ったり脱いだりして気温の変化に適応しているようです。もちろん、短期間で数週間のみ留学に来る学生も多いのでそれを考慮した量の荷物を持ってきているのかとは思いますが、基本的に「用がたりれば十分」という感覚です。

何人かの部屋をのぞかせてもらったことがありますが、机にパソコンが置いてあるのみで、とてもさっぱりしていました。また2週間留学していた60代のドイツ女性は、2週間分の荷物はリュック1つ。通学も同じリュックを使っていました。

●ものを少なくして手に入れたもの

日本に住んでいたときは、引越しの度にカーテンや机を変え、雑貨も装飾品も新調したくなるものでした。商品が豊富で、置ける場所がある上、来客もあるかもしれない…そんな環境でついついものが増えていったのだと思います。そしてその当時私の必需品は、寛ぎのクッションや凝りをほぐす枕でした。

でも…今の私に大切なものは「もの」よりも「時間」となりました。貴重な時間を有意義に過ごすことを考えたら、多くのものは必要なくなったのです。

私は、スペイン在住がきっかけでミニマリスト生活となりましたが、持ち物すべてを把握できる日常は、想像以上に「片づけなくては」「探さなくては」というストレスから解放されるものでした。そして、常に自分の持ち物すべてを持って移動できる状況は、心も軽く、時間とお金を最小限にして過ごせるようになりました。

大切なものは人それぞれで、環境によっても大きく変わるものです。私もこの先、どこでどう暮らすことになっても自分の力で移動できる程度の身軽さを持ち合わせておきながら、そのときどきで大切なことやものに目を向けていきたいです。