作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセイ。年齢を重ねてから、新しい趣味を始める人も多い今、周りや自分のことを振り返ってくれました。

第110回「大人の習い事」

年を重ねるごとに、新しいことに挑戦する機会…というか気合いが減っているなあと感じる。私の場合、料理とか読書とか農業とか今まで好きだったものの延長の趣味が多く、いまさらスケボーしてみようかなとはなかなか思えないのだった。

●大人になってから始める趣味の大きな魅力

まわりを見渡してみると、40代以降に新しい趣味をもつ人が多かったりする。ことに、定年退職後の趣味というのは、父世代のステータスだったりするのかしら。青春時代に戻っていくみたい。父は定年退職をしたあとから、家族も驚くほど多趣味になった。吹き矢を習っているのだけれど、倉庫で「プッ!」と筒を吹いてダーツを的に当て、練習している。命中率もなかなか。肺活量も鍛えられて一石二鳥なのだとか。

かと思えば、シニア世代に人気のゲートボール、料理教室、太極拳にスマホ教室、ヨガと、第二の人生を謳歌するように連日ジムやカルチャーセンターに通っている。

義父母はスイミングスクールに行きはじめて2年くらいになるかなあ。ぐんぐん泳げる距離を伸ばし、先日会ったら、

「バタフライが目標だったんだけど、もう少しでできそう!」

と言うのだ。10代でできなかったことを70代でできるようになるって、すごすぎないか。

年を重ねると身体機能も記憶力も落ちていくわけなんだけれど、そこで諦めずにトライし続ける前向きさ、見習いたいなあ。何よりも「楽しい」と言っていて、それが子どもも大人も習い事の続く秘訣だなと思ったのだった。

それに、自分の身体や性格と長年付き合ってきた上での習い事なので、昔よりは上手く付き合えるのではないかな。若い頃の部活みたいに大会で上位に入ることを目指しているのではないから、マイペースでいられるのもいいなあと思うのだった。

●周りを見ても年齢を問わず「青春」がある

30代の半ばからフラダンスを習いはじめた友人もいれば、40代になってからピアノ教室に行き始めて、「エリーゼのために」が弾けるようになった友人もいる。

同じく、40代から陶芸を習い始め、それを深めたくなって大学に通い始めた友もいる。彼の場合は、がむしゃらに働く20〜30代を経て、自分の深めたいものが見つかったということなのだろう。人生に「遅い」はないのだと思った。金銭的にも20代より余裕がでてくる年代なので、やれることも増えてくるのだと思う。

40代、50代でやっと自分がやりたいことに巡り会えたという人もいるし、若い頃やってみたかったことをできる時間とお金がやっとできたという人もいる。いやいや40代は子育てでそれどころじゃないよ…という方も多いだろうし、自分のために時間やお金を使える時期というのは人それぞれだろう。

「20代は子育てに奮闘し、ほとんど遊べなかったのよ」という友人は子どもたちが成長して一段落した40代から英会話を習い始めて、どんどん上達している。

冗談で「そろそろ海外に移住しようかなー」なんて言っているけど、実際TOEICの点数が年々上がっているようなので、楽しく努力を重ねているんだなあ。水を得た魚のように生き生きと過ごす友人たちを見ていると、仕事だけが人生じゃないと思うし、青春は年を重ねてもフォーエバーなのだと知る。

●新しいことへの好奇心はあるけれど…

一方で、私は仕事と趣味の垣根がないのだった。職業は「作家・作詞家」なのだけれど、暮らしの全般が芸の肥やしで、こうして気づきが文章に昇華されていく。全てが地続きだ。

母も私と同じく、生活の延長にある趣味が多い。私が子どもの頃からずっとお菓子教室に通っているし、畑で季節の野菜を育てそれらを中心に今日の料理ができていく。無理に新しいことをしようとしないで、毎日の暮らしを彩る範囲での趣味というのも、いいなあと思う。それで、私も母も満足しているけれど、友人たちのチャレンジを見ていると羨ましくもある。ちょっとだけ無理…というか冒険をして、新しい扉を開けてみると、子どもの頃のようなドキドキや感動に出会えたりするのかなあ。スケボーは。うーん、絶対転んで怪我するだろうから、やっぱり次生まれ変わったらでいいかなあ。

 

本連載をまとめた書籍『暮らしっく』(扶桑社刊)が発売中。